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学園裁判所  作者: 真上真
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第16話

第16話



 夏風に、秋の風味が漂い始めた昼下がり、俺は生徒会室にいた。それも、清川中学の生徒会長として。

 と言っても、ただ生徒会長の久世来世(くぜらいせ)に憑依しているだけなんだけど。


 ともあれ、これが俺の立てた計画だ。俺のプランがイチ学生には実現不可能なものなら、それが実現可能な人物に憑依して、実現させればいいだけの話なのだ。


 そう、学校に裁判制度を導入する「学園裁判所」設置法案を。


「学園裁判所?」


 生徒会メンバーからは、予想通りの疑問符が返ってきた。


「学校を楽園にするための裁判所。略して学園裁判所だ」


 他にも候補として教育や学校、学生裁判所なんかも考えたのだが、アピール度などを考慮した結果、学園裁判所に決めたのだった。


「具体的な内容は、今配った説明書に書いてある通りだけど、簡単に言うと、この学園裁判所は学校で起きたトラブルを解決するために、この学校独自の裁判所を導入する、というものなんだよ」


 俺は周囲に不審がられないよう、できるだけ本物の生徒会長に近い口調で語りかけた。

 ちなみに、この体を借りることは、宿主である久世来世と交渉済みだ。


「裁判制度を、この学校にですか?」


 いかにも、うさん臭そうに言ったのは、2年会計の川登進(かわのぼりすすむ)だ。

 こいつはガリ勉タイプで、生徒会活動にも実際のところ興味がない。それが、なぜ会計職に就いているのかというと、中学での生徒会役員という経歴が、就活で有利に働くという計算からだ。

 将来は官僚志望らしく、会議中でも参考書を手放さない。


「そうだ。みんなもすでに知っていると思うけど、現在の教育現場はトラブルの温床となっている。イジメ問題を筆頭に、モンスターペアレント、学級崩壊、暴力教師に無気力教師、それこそ数え上げたらキリがない。そして今の教育界に、それらに対する方策はないに等しい。結果、今や学校は1種の無法地帯と化していると言える」

「なるほど! そこで、我が生徒会で独自の校則を作って、そういう無法者どもに正義の鉄槌を下そうというわけですね!」


 目を輝かせたのは、1年庶務の此花桜(このはなさくら)だ。この娘は、一言で言うと正義バカだ。


 親が剣道家らしく、頭にあるのは悪即斬だけ。

 生徒会に入ったのも、古き良き時代の風紀委員会を現代に蘇らせたい、という野望かららしい。昔の漫画なんかにある、木刀持って不良を取り締まるアレだ。


「落ち着いて、此花さん。まずは、久世君の話を聞こう、ね」


 そう此花をなだめたのは、副会長の朝比奈日美子だ。

 この娘は、一言で言うと優等生だ。他のメンバーが、皆なんらかの二心を持って生徒会に在籍しているなかで、朝比奈だけは本当に純粋なボランティア精神から、生徒会に在籍している。そのうえ人当たりがよく面倒見もいいので、男子はもとより女子にも人気があるという完璧人間なのだ。


 その朝比奈のお言葉に甘え、俺は話を進めた。


「今の学校はトラブルだらけで、教育界にはそれに対処する術がない。仮にイジメが行われたとしても、教師は見て見ぬフリを決め込んで、生徒が自殺したらしたで、イジメなど気づかなかったとシラを切るのが当たり前となっている。その根本的な理由は、仮に教師がイジメに気づいたとしても、イジメを行っている加害者にとっては「それがどうした?」という話だからだ」


「それがどうした?」


 此花1人が小首を傾げた。どうやら理解していないのは、この娘1人だけのようだ。


「そうだ。たとえば、君がクラスでイジメが行なわれていることに気づいたとする。そうしたら、君はどうする?」

「むろん、やめさせます!」

「どうやって?」

「どうやってって、そんなこと決まっています! そんな酷いことはやめるように説得するんです!」


 言うと思った。


「君が注意したら、そいつらは「わかりました」と言うだろう。だが、それは上辺だけの話だ。そして今度は表立ってわからないようなイジメ方に変えるだけで、実際のところは、なんの救済にもならないんだよ」

「相手がそうくるなら、今度はこちらも実力行使に出るまでのこと! そんな卑怯者どもは、わたしがこの手で徹底的に性根を叩き直してやります!」


 此花は拳を握り締めた。俺も、まったく同感だ。しかし、


「なるほど。でもね、此花君、どこの学校にでも、君みたいな人間がいるわけじゃないんだ。そして現状、教師にはイジメの加害者に、注意する以上の権限は与えられていないんだよ」


 それで、どうやってクズどもを改心させろっていうんだ? 綺麗事を並べている連中は、自分たちで実証してから言ってもらいたいものだ。





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