第15話
第15話
リニューアルオープンから3日。動物園の運営は、今のところ順調だ。
かつては百獣の王を気取り、園内を我が物顔で闊歩していた獣たちも、今では檻の片隅で草を食んで暮らしている。
もっともセコガニだけは例外で、あの日を最後に転校してしまった。
どうやら、あのあと俺に飛び降り自殺の予行練習をさせられたことが、相当ショックだったようだ。それを見ていた母ガニも、その後ノイローゼで入院したって話だし。
あの母ガニも、セコガニの「自分は何もしてないのに、いきなり白河がホウキで殴りかかってきた」という言葉を鵜吞みにして「そんな乱暴な子は学校から追い出してやる!」と、学校に乗り込んできたときは、元気一杯だったんだがなあ。人生、一寸先は闇とは、よく言ったものだ。
あとリニューアルにあたって、もうひとつ大きな変化があった。飼育員の交代だ。
新しく配属されてきたのは、日下部優樹という兄さんだ。名前からして草食系だが、見た目もその通りの優男だ。
性格も大らかで、人当たりもいい。一昔前であれば、肉食獣たちのかっこうの餌食だったに違いないが、今の動物園にはよく馴染んでいる。
生徒に媚びることも、えこひいきもない。ただただ、ボス猿どもの顔色をうかがうだけだった前任者とは大違いだ。
ちなみに、その前任者はと言うと、突然園長に辞表を提出して動物園を去ってしまった。何があったか知らないが、自分に飼育員の資質がないことに、遅まきながら気づいたらしい。
とにかく、これで白河の学校での状況は改善できた。だが、それはあくまでも現状での話でしかない。それこそ進級してクラス替えがあれば、また同じことが繰り返される可能性は十分ある。
それでも、これから先も俺が白河の傍にいてやれれば問題はない。だが、そういうわけにもいかない以上、なんらかの対策を講じる必要があった。
さもないと、また白羽が何をするか知れたものじゃない。
あいつを暴走させないためにも、俺たちがいなくなっても、白河が無事中学を卒業できる環境を作り上げる必要があるのだが……。
せめて白河の人間不信が、もう少し和らげばいいのだが、今の段階では望み薄だし。
それに、たとえ白河自身に問題があったとしても、それが白河に危害を加えていい理由にはならない。この日本は、憲法で基本的人権が保障されている法治国家なのだ。
しかし、そんなお題目をいくら唱えたところで、なんの意味もない。もっと実のある、具体的な方法を考えんと。うーん。どうしたもんか……。
いっそ、前に白羽が言ってたみたいに、この学校に学裁を導入させるか?
白羽の言う通り、確かにアレなら白河が卒業するまで、少なくとも誰にも危害を加えられることはなくなるはずだ。前に反対したのは、あくまでも白羽が言い出すことであって、学園裁判所そのものの導入じゃなかったわけだし。
以前の俺には絵空事でしかなかったが、今の俺なら実現できるはずだ。たぶん。
よーし、そうと決まれば善は急げだ。
俺は、さっそく行動を開始した。
そして2日後、すべての準備を整えた俺は、計画を実行に移したのだった。




