表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学園裁判所  作者: 真上真
12/48

第12話

第12話



 見ると、メガネザルが2人いた。どうやら俺が蹴ったことで、メガネザルの霊体が肉体から飛び出してしまったらしい。魂じゃなく霊体なのは、蹴り飛ばしたからか?

 そんなつもりはなかったんだが、まあいい。このまま開廷、いや第3ラウンドに突入するとしようかね。


『なんだ? 一体どうしたんだ?』


 メガネザルは周りを見回した。そして、俺と目があった。


『うわあああ! 化け物!』


 案の定、メガネザルはパニック状態だ。あー、うるさい、とりあえずバナナでも食わせて落ち着かせよう。


俺はメガネザルの横面に、右フックを叩き込んだ。バナナが、よほどうまかったのだろう。メガネザルは歓喜に打ち震えている。


『い、痛いい。た、助けて、ママア』


 メガネザルは逃げ出そうと、ドアに手を伸ばした。が、その動きが不意に止まった。どうやら、倒れている自分の体に気づいたようだった。


『こ、これ、僕じゃないのか? ぼ、僕が倒れている? なんで? 僕はここにいるのに?』


 メガネザルは完全に興奮状態だ。仕方ない。鎮静剤を打ち込んで、落ち着かせよう。


 俺はメガネザルに鎮静剤を打ち込んだ。1本! 2本! 3本! 4本! 5本! ふー、これでよしと。


『あ、うう……』


 さすがに今度は効いたらしく、メガネザルはぐったりとして騒がなくなった。


『今のおまえは霊魂なんだよ。つまり、おまえは死んだんだ』


 俺がそう言うと、


『ぼ、僕が!?』


 メガネザルの目が、飛び出さんばかりに見開かれた。まさにメガネザルだ。


『嘘だ!』


メガネザルは頭を抱えた。


『嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 僕が死ぬなんて、あり得ない! 僕の人生は、これからなんだ! 東大の法学部に入って、キャリア官僚になって、エリート街道を突き進むんだ! その僕が、こんなところで死ぬなんてあり得ない! 絶対嘘だ!』


メガネザルは唐突に動きを止めた。


『そ、そうか、これは夢、夢なんだ。勉強疲れで、ついつい僕は眠ってしまったんだ。そうだ。そうに違いない。だいたい、幽霊なんで存在するわけないんだ。そうさ、この科学の進んだ世界でも、幽霊の存在は立証できていないんだ。それはつまり、幽霊なんて存在しないってことなんだ!』


どうやら、メガネザルは鎮静剤が効き過ぎて、夢の住人となってしまったようだ。


 仕方ない。そういうことなら、俺が目覚まし時計を鳴らしてやろう。


『あが! いぎ! ぶ! うべ! ぶば!』


俺がアラームスイッチを押すと、時計は小刻みにベル音を鳴らした。ところが、しばらくすると、うんともすんとも言わなくなってしまった。


 壊れたか? と思ったが、耳を澄ますと、まだかすかにチクタク動いている。

 どうやら電池が切れかけているだけのようだ。まあ、あれだけベルが鳴りっぱなしだったんだ。電池の消耗が激しいのも無理はない。仕方ない。手間だが、電池を入れ替えてやろう。


「和彦ちゃんの声がしたようだけど、あなた、また和彦ちゃんの邪魔をしたんじゃないでしょうね?」


 俺が子猿の股間を蹴り上げようとしたとき、母猿が部屋に入ってきた。ちょうどいい、おまえも来い。


 俺は母猿を張り倒した。すると、やはり魂でなく霊体が出てきた。やっぱり、そうだ。衝撃を与えると、魂でなく霊体が出てくるらしい。


『な、何? きゃあああ! 化け物お!』


 檻から連れ出された母猿は、子猿同様大変な興奮状態に陥った。まったく、手のかかるエテ公どもだ。


『和彦ちゃん? 和彦ちゃんが、もう1人? 一体どうなってるのおお?』


 母猿は半狂乱だ。どうやら、こっちにも鎮静剤が必要らしい。


『やかましい!』


 俺は母猿の横っ面に、思い切り鎮静剤を打ち込んだ


『しゃ、しゃべった?』


 母猿は目を見開いた。親子だな。反応が、小猿とそっくりだ。


『な、なんなの、あなた? どうして、こんなこと酷いことを? あたしたちが何をしたって言うの?』


 子猿を抱きかかえながら、母猿が涙ながらに訴えてきた。やはりエテ公だな。酷いという言葉の意味を、まるで理解してないようだ。


『酷いだと?』


 俺が射すくめると、


『ひっ』


 母猿は身をすくめた。


『どの口で、ほざいてんだ、このエテ公どもが。おまえらが、今までその娘にしてきたことを考えれば、まだ甘いぐらいだろうが』


 どうせ今までも、今日みたいなことを続けてきたんだろ、おまえら。


 俺がそう言うと、母猿は鼻白んだ。


『そして、そう聞きゃ、どうして俺がおまえらの前に現れたか、察しがつくってもんだろう?』


『う……』


親子猿は、バツが悪そうに目を伏せた。


『とりあえず正座しろ』


俺は、親子猿を被告人席に着かせた。では、これより開廷する。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ