第5話 乙女たちの戦い
太陽が傾きかけあたりがオレンジに染まる頃、一人の少年が二人の女の前で正座をしている。赤髪の少女を胸に抱いて。
遡ることニ時間前
大がアルガントに召喚されて数分後、後を追うように二人の女がこちらの世界にやってきた。勇者の近くにいるものがこのように、巻き込まれて召喚されることは珍しくない。
「っ!」
萌絵が一緒に来たさくらが、満面の笑みを浮かべている事に気づく。萌絵はさくらの笑顔に身震いをする。
そしてさくらの視線の先に何かある事に気づき、そちらを向く。
すると彼女もさくらと同じ笑顔になるのであった。
「で、最上くん状況を説明しなさい。その女は誰です?」
さくらがいつもより低い声で聞く。
「えーっと、彼女はこの国の王女様でシャーロット・メアリー様です。」
俺は冷や汗をかきながらなんとかさくらに説明をする。もちろんまだ正座は解かせてもらえてない。
「はい!マリーツィア王国第一王女のシャーロット・メアリーです。」
メアリーは一瞬大の胸から顔を離し、二人に挨拶をする。その後二人の返事を待つ間も無く再び大の胸にに自分顔をスリスリと擦り付ける。
「ちょっとアンタ!大から離れなさい!」
「…」コクコク
萌絵が声を荒げて言い、さくらもそれに同調するが、メアリーは聞くそぶりを持たず更にぎゅーっと大にしがみつく。
「アンタねー」
再び萌絵がメアリーを糾弾しようとしたところ
「冴木、落ち着けって。メアリーさんもそろそろ離れて」
大はメアリーの頭をポンポンと二回叩いて優しく言う。
「分かったわよ。」
「はぅ、分かりました仕方がありません。」
大の言葉に萌絵は不満そうに、メアリーは頰を緩めらがら従う。
その後大はなぜこのような状況になったのか説明を試みてなんとか成功を収めた。
更に4人で情報を交換し合い今後どうするかを話し合った。もちろん大はフィリアの依頼をみんなに伝えることは避けた。神々の監視があるかもしれないと思ったからである。
「じゃあメアリーさんこの後は王様への謁見があるってことでいいのかな?」
「はい!お父様にお会いになっていただきます。そしてさきほど私が話しました通り魔王を倒してくれってお願いされると思います。」
この後のことについてメアリーに確認を取った俺に対し、メアリーは嬉しそうに答える。
「メアリーさんありがとう。それにもう落ち着いたようだね。」
大は優しくメアリーに微笑みかける。
「はい!ありがとうございます大様。後私のことはメアリーとお呼びください。」
はじめメアリーは満面の笑みで、後半は目をうるうるさせて言う。
「えっ、一国の王女様を呼び捨てにするのはちょっと」
俺としては当然面倒なことは避けたい。無礼者とか言われそうと思い反論する。
「でもでも、先程は言ってくれたではありませんか!」
メアリーは息つく暇もなくそう告げる。
「えっそれは…」
先程メアリーをなだめるために無意識に呼び捨てにしていたことを思い出す。
「ひーろーと!」
「ジー」
萌絵から声がかかり、顔を上げると再び満面の笑みで萌絵とさくらが腕を組んで立っていた。
今俺の目には笑顔で談笑しながら歩く3人の後ろ姿が映る。
あの後結局大はそれぞれメアリー、萌絵、さくらさんと呼ぶこととなってしまった。さくらはさん付けに不満を持ったが大の交渉の末に落ち着いた。
はじめはギクシャクしていた彼女らだがメアリーが2人に何やら耳打ちをすると彼女らは10年来の友人のように仲良くなってしまった。
そんな様子を大は女って分からないなと思って眺めていると
「着きました!ここが謁見の間です。」
メアリーがそうみんなに告げる。
「「ごくっ」」
萌絵とさくらが生唾を飲み込む音がする。やはり緊張しているのであろう。
大はそんな彼女らの頭をポンポンと優しく叩いてあげる。
「あ、ありがとう大」
「あ、ありがとうございます。大君」
2人は顔を赤らめながらお礼を言う。
それを面白く思わないメアリーはぎゅっと大の右腕にしがみつき
「さ、行きましょう」
と大を引っ張る。その彼女の声を合図に目の前のドアが開かれたのであった。