第2話 プロローグ2
大の頰がオレンジ色に染まった頃
「そろそろ帰るか!」
大はそういうとカップを片付けるべく立ち上がる。その時大の目の前がオレンジから白に変わった。
「ここは…」
俺は確かカップを片付けようと立ち上がって、意識を失ったはずだ。あの時俺たち以外の人間はいなかったし、どうやって自分をこの状況に至ったのか分からなかった。
状況を把握すべくあたりを見回す
俺の目の前には見事にに真っ白な空間が広がっている。その中に扇状に並べられ椅子が13席あり、中央にある椅子だけ作りが違うことに気づいた。小さいが十字架の装飾が施されていた。
大が思考を巡らせていると突然いつの上に人が現れた。各椅子に一人ずつ12人の男女が確認できる。左から5番目の椅子が空席である。
「やあ、最上 大君!ようこそ」
その中で1つだけ作りの違う椅子に座る金髪の女が言う。
「どうも。」
俺は出来るだけ自然に答えた。
「ちょっとフィリア、早く説明してあげなさい」
フィリアの右隣に座る女が言う。
「分かってるって。えーっと大君これはいわゆる異世界転移というやつだよ。君勇者だよ!ちなみに僕は愛を司る女神フィリア。」
「はじめましてフィリア様?いくつか質問をさせていただきたいんですけど?頭が混乱していて」
「いーよー」
「まず、なんで俺なんですか?」
「うーん、それは君は両親に小さい時から剣道を習わされ、その腕は一流でしょ?それに頭も切れるときた!適任でしょ?」
大の親は警察のトップであり、大は小さい時からその英才教育を受けてきた。大自身はそのことをあまりよく思っておらず、そのことも自身が探偵になるという理由の1つである。
「では2つ目、あなたの周りに座っている人も神様ですか?」
大は自身が褒められたのにもかかわらず、機械的に2つ目の質問をする。
「そうだよー!、みんな神様です。ちょっとした理由で一人いないけど」
フィリアがそう答えると、僅かに周りの神々の頰が動いた。
「では3つ目俺と一緒にいた二人の女の子はどうした?」
大の雰囲気と口調が変わった。
「そんな怒んないでって!無事だよ。後で会えるはずだから我慢して」
フィリアは手を合わせて、それでもなおおちゃらけて答える。
「そうですか。取り乱してすみません。」
大は答えに満足したのか普段の落ち着きを取り戻す。
「うんうん。気を取り直して次の段階に進もう。」
「次?」
俺は首をかしげる。
「そうそう!スキルとか、あっちの世界の説明とかだよ」
「なるほど。お願いします。」
「まず、あっちの世界の説明から行きます!あっちの世界はー」
フィリアが向こうの世界の説明を始めた。向こうの世界の名前はアルガンドというらしい。人口、面積共に地球の約5倍で、魔法が存在するとのことだ。そのほかは魔王と勇者のこと、そして大の役割などが説明されていく。
大はそんな話を聞きながらもフィリアとのさきほどの会話を思い出していた。
「ーてのがアルガンドの説明だよ!ちゃんと聞いてたー?」
フィリアは頰を膨らませて大を見つめる。
「聞いてましたよ。」
機械的に俺が答えるとフィリアはつまらなそうにする。
「まっいいや。続いてあなたに3つのスキルを与えます。」
フィリアがそういうやいなや頭の中に数多くのスキルの情報が流れ込んでくる。
「この中から3つに絞ってね。」
スキルには生活に役に立つだろうもの、戦いに役に立つだろうもの、金稼ぎに役に立つだろうものなど様々な種類があった。
それから数時間大はスキル選択に時間を費やした。神々は飽きてしまったのかぼーっとしている。
大がその中から選択したものは…
(フィリア様聞こえますか?)
俺はスキルの1つ目に念話を選んだのだ。
「!!」
(聞こえているようですね。あまり顔に出さないようにしてください。)
「…」
フィリアは黙って出来るだけ大を見ないようにする。
フィリアは大が念話を取得したことに気づいたが、ここにいる神々ならいくら念話を使ったって無駄なことを知っている。
しかしあたりを見渡しても大の念話に気づく素振りはない。
(フィリア様のその反応を見るにやはり念話だけではダメだったようですね)
俺は神々に念話がバレることを見越して残りの2つのスキルを選択していた。
2つ目のスキルとして隠蔽を取得していた。隠蔽とはその名の通り、スキルや経歴などを隠したりすることのできるスキルである。
3つ目は隠密。このスキルは使用者の行動を他の人に気づきにくくするものだ。
大はさきほどあえて何時間も悩んだふりをし、神々の注意を散漫にさせて、スキルを素早く選択した。
その後まず隠密を発動する。次に隠蔽を使って自身のスキルが何も考えていないアホが選択するような戦闘系のものに隠蔽した。
隠密はそれ自体使用がバレにくいスキルである為、注意散漫な神々たちには気づかれなかった。
そして今現在フィリアと念話を交わす状況になる。
(ということです。)
フィリアは大から説明を聞き感銘を受けた。大の推測は当たっており、神々はスキルの発動に敏感であり、やろうと思えば全てのスキルを打ち消すことができる。つまりそうしようと思わない状況を作ることが大切だったわけである。
(説明も終わりましたし本題に移ります。俺の推測だと俺がここに呼ばれたのは魔王を倒すという程ですよね?当たっているのなら今後右頰を掻いてください。)
フィリア黙ったまま右頰を掻く。
(俺を呼んだ本当の目的は、裏切り者を見つけるためですね?)
フィリアは再び右頰を掻く。
(はじめにこの部屋に入ってあなたの座る椅子がおかしいことに気づいきました。十字架はキリスト教の宗教的象徴です。キリスト教は地球の宗教なためそれがここにあることに違和感を感じました。
次に違和感を感じたのが左から5番目の空席です。普通なら本来そこに座るはずのものの都合が悪いと考えるのですが、貴方がその話をした時の周りの雰囲気からそうではないとわかりました。
この十字架と13席の椅子から連想されるものそれは、ダヴィンチが書いたとされる最後の晩餐です。特に左から5番目の席はキリストを裏切ったとされるユダの席です。
貴方は俺に裏切り者を探してもらうべくここに呼んだが、誰が裏切り者か分からないので直接俺にいうことができずこのような工作を施したんですよね?)
フィリアは大の推測を聞き何故か頰を赤らめながらその赤く染まった右頰を掻いたのだった。