第1話 プロローグ1
窓から春の心地よい風がそよそよと吹いている。それに加えて、昼下がりの満腹感から、教室内に春風に揺られる船が4、5隻見られる。その他は真面目に授業を受けるもの、机の下で指を動かすものなどがいる。その中に窓際の後方からぼーっと黒板を見ている生徒がいる。黒板を見ているのか、考え事をしているのか、はたまた何も考えていないのか、それは彼の頭の中を見てみないことには分からない。
ーあの先生今日デートだな。髪と爪がいつもより整っている。何より今日の授業中のテンションが高い。
俺は古代ギリシアの歴史について楽しそうに語る教師の話を聞くわけでもなく、授業と関係のないことを考えていた。
「最上君、ペロポネソス同盟を結んだ国は?」
「スパルタとアテナイです。」
「正解です。みんなもここテストに出すから覚えておいてね。」
教師は俺がぼーっとしていたのに気づいたのだろう中々いい観察眼だ。
もう苗字は出てきたが、改めて自己紹介しよう。俺の名前は最上 大 (もがみ ひろと)だ。現在高校2年で、実はー
キーンコーンカーンコーンーーー
チャイムが鳴ると同時に大は教室を足早に出る。その足先は別館2階の再奥にある教室に向いている。
ガラガラガラ
一見あまり使用されてないように感じるその部屋をよく見ると、コップが3つあったり、お菓子などがあることから普段人の出入りがあることが分かる。
大は教室に入るやいなや、入り口から離れた位置にあるソファーに座り、目の前にあるパソコンを起動させた。
「うーん、本日も依頼なしか…」
誰もいない空間にに大の呟きが吸い込まれる。
その後大はカバンの中から本を取り出し読みふけっている。
ガラガラガラ
「大!おつかれー。今日は依頼きたー?」
短めの黒髪を風で揺らせている彼女の名前は冴木 萌絵 (さえき もえ)
大と同じ高2で、学校一の美少女と言われている。
「おつかれ冴木。」
大は挨拶をしながら首を横にふる。
「そっかー!」
彼女はそこまで気にしていないらしく、そのまま進み大の横にすぐ横に座った。
「冴木、近いって」
その距離感のせいか大の顔が赤くなる。
「ふんふんふーん♪」
その一方で少女は嬉しそうに鼻歌を歌いながら、スマホを触る。
大も諦めた様子で再び本を読み始める。
一時間後、大の目の前にはコーヒーが入ったカップが3つ。
「大、どーぞ」
彼女は青いカップを大の手元に置く。赤いものは自分の前に、白いものは大の右に。
「ありがとう、冴木。」
大が萌絵にお礼を言うとすぐに
ガラガラガラ
「最上君、冴木さん、こんにちは」
長めの黒髪を揺らしながら女は挨拶をした。白いカップの持ち主である彼女は、葵 さくら
(あおい さくら)。大の高校の化学の教師をしており、今年で25歳である。その大人びた雰囲気と、持ち前の美貌から生徒・教師から多大なる人気を誇る。
「葵先生、こんにちは」
「さくらちゃん、こんにちはー」
生徒たちは各々の挨拶を返す。
さくらも挨拶の返答を聞くと大のとなりに何の抵抗もなしに座り、コーヒーを啜る。
その後は会話もなく心地よい雰囲気の中に時計の針音だけが響く。
暇なのでさきほどチャイムで遮られた。大自身に自己紹介の続きと、そろそろこの集まりについての説明をお願いしましょう。
あー、俺の名前は最上 大。実はあの時言おうとしたことがこの部と関わりがある。この部は探偵部。メンバーは俺と冴木と葵先生の3人だ。このような活動をしているのは俺の祖先が割と有名な探偵だったことが一番の理由だ。
現在の日本では探偵と呼ばれる人間はほぼゼロに等しい。その理由は鑑定技術のAIの発達である。大はAIだけでは人間の心は測れないと、探偵を目指している。まさか現代よりも先にある異世界で探偵になるとは知らずに。