遭遇
身体は動かない。何であの時のミノタウルスが?
ーーくすくす
ーー涙目になってる、かわいー
ーーさっさと倒しちゃいなよ
声が聞こえる、妖精たちの声だ。
(そうか、これは幻だ!だってあの時のミノタウルスがここにいるわけないもの)
エレナは近くの木の棒を構えた。
(お父さんとの稽古を思い出せ…)
お父さんは昔凄腕の剣士だったらしい。ミカちゃんのお父さんとの稽古でお父さんが圧倒しているのを見たことがある。どうしてあんなに強いのか、エレナはすぐに問いかけたがお父さんもお母さんも教えてくれなかった。
ミカちゃんのお父さんが後で『エレナちゃんのお父さんは昔凄い人だったんだよ』と教えてくれた。
わたしはつよい、私はツヨイ、僕は強い。
心の中で何度も繰り返す。僕は強い。僕は強い。僕は強い。
自分を強い姿に想像するのだ。私は女だから弱いのだ、なら男の子のように強くなればいい。
稽古の時にわたしから僕に一人称が変わる。
僕は棒切れを構えてミノタウルスを正面に捉える。
(これは幻、これは幻。)
何度も自分に言い聞かす。
『これは幻、これはまぼろ…』
目の前の木が倒れる。何で倒れたのか理解が追いつかなかった。まるで刃物で切られたよう…
エレナは再び固まる、幻じゃない。幻じゃない。
ーーこれは本物のミノタウルスだ。