森の中
木苺を求めて森の中に。
別にこれといって特別なところはない。危険なところはない村の子供たちの遊び場だ。
少し森の奥に入ると沢山木苺は実っている。
これを摘みに行くのがお母さんから頼まれる仕事だ。
エレナもいつも通りに木苺を取りに。
しかし今日はいつもと違う木苺の実が全然なっていない。
『あれ、どうして?』エレナは不思議がった。
風がざわめく。
どこからかヒソヒソ声が聞こえる。
ーー人間だ、人間だ
ーーまた木苺奪いに来たよ
ーー私達の物なのに
ーーここでも私達の物を奪うの?
ざわざわ、ザワザワ
騒めきは次第に大きく、大きくなっていく。姿は見えない。
(これは妖精の仕業だ…!)
エレナはすぐに理解した。
妖精。いたずら好きで迷惑をかけてばかり
けどエレナは知っている。妖精は弱いのだ、こちらに危害を加える術はない。
その事がエレナを強気にしていた。
『なんで木苺隠すの!?お母さんのケーキ食べれないじゃない!早く返してよ!!』
ざわざわ、ザワザワ
騒めきは大きくなる
ーー返してだって、私達の森の物だぞ!!!
ーーこの人間嫌い!!!
ーーそんな口聞かなくしてやる!!!
ーー静寂
今までの騒めきが嘘のように静まり返る。いや、微かに聞こえる足音。
ドッ、ドッ、ドッ、ドッ
音は次第に大きくなっていく。なんの足音かわからない、ただ地響きは大きくなっていく。
『グゴゴォアアアァァァッ!!!!』
『………ッ!』
その鳴き声でエレナは動けなくなる。
ーミノタウルス
頭が牛で体は人間。
異形の姿をしている怪物である。
初めて見たのは城下町の闘技場だ、お父さんと見た。
ミノタウルス1体に対して兵士は10人。銀色の鎧がまるで紙のようにくしゃくしゃになる。
エレナは怖くて仕方なかった。何故父はこんな所に連れて来たのか、何故周りの人は盛り上がっているのか。
ミノタウルスが、1人、1人と蹴散らすほどに悲鳴と歓声は大きくなる。
エレナは強く強く耳を塞いでしゃがみ込む。兵士10人がどうなったかは知らない。
家に帰ってとにかく泣いた。お母さんはお父さんに怒っている。お父さんは謝り続けている。私は泣いた、怖くて怖くて仕方なかったのだ。
目の前には大きな斧を持ったあの時のミノタウルス。
エレナはただそこを動くことも出来なかった。