悲しみよ、こんにちは。
この小説を書いたサガンは、
僕と同じタイプの人間だと思う。
僕と同じタイプというのはつまり、
「悲しみ」を完全に自分から切り離して、
となりに座らせて一緒にバーで酒を飲める関係になる、という意味だ。
あるいは、いまそいつがそうしてるように、
僕のスマホ画面を見てニヤニヤ笑ったりしてるのを見れるということだ。
「そういうことだな」
「悲しみ」が笑う。
僕は君を初めて見たとき、やっぱりなと思ったよ。つまりさ、これまで生きてきて色んな悲しみがあったけど、悲しみが起こす身体的な痛みは同じだとずっと感じてたんだ。それで、ある時から君を思いきって僕から引き剥がすタイミングを図ってたんだ。
「まったく珍しいヤツだよ、あんたは。それに俺のことを引き剥がして、第一声は『こんにちは』だったからな。おどろいたよ。サガン以来さ」
「悲しみ」が言ったことに
僕は肩をすくめた。
「それで?今日は何の相談だ?」
君とまた一緒になりたい。
「よく考えたのか?」
僕は頷いた。
「悪くない選択だ。もともと別れたことが不自然だっただけさ。ただ......本当にいいのか?」
僕はまた肩をすくめてみせた。
「悲しみ」は笑いながら立ち上がり、
バーから出ていった。
そしてバーに一人残された僕には、
あの懐かしい胸の痛みが少しずつ戻ってきている。