憑依
『それでは、今からお主の器になる堕天使の身体をここに呼び出すぞ。』
「·····呼び出す?」
『そうじゃ。よう見とれ。今から使うのが魔法じゃ。ーーー指定のものをここへ。【物質転移】』
老人が短い言葉を発した直後、目の前に魔法陣のようなものが現れ、どこからとも無く生気のない黒い羽を生やした身体が現れた。
「・・・・・。」
背中には黒く大きな羽。
輪っかは割れたのか無く、耳は俺達のよく知るエルフのような長い耳がある。
基本聞いてた通りの特徴だ。
·····しかし、予想外だったのは、余りにも整いすぎている事だ。
警戒するのも忘れて、暫く惚けてしまうぐらいに、作り物のような顔。バランスのとれた身体。
もしこの顔で優しくでもされたら開けてはいけない扉を開きそうになる。
そのぐらいは整ってる。
『·····おい。いつまで惚けているつもりじゃ?』
「ーーー··········ッ!?あ、あぁ。悪い…。」
『いや、お主はようやったほうじゃ。初めて天使にあった者は、基本お主のような反応をするからのぅ。
呼びかけて戻ってきただけでも、大したものじゃよ。』
「そ、そうなのか…。てか、これで天使の中では平均、なのか?」
『そうじゃなぁ、どちらかと言えば整っているほうじゃな。上の中と言ったところかのぅ…。』
「·····マジかよ…。」
ーー平均って、普通ってなんだろう…。
人生で初めてそんなことを思った。
『……何やら落ち込んどるとこ悪いが、はようお主の魂を移してええか?』
「あ、あぁ。いいぞ。俺はないをすればいい?」
『そこで立っとるだけてええよ。ワシが魔法で全部やるからの。強いていうなら、じっとしておいてくれ。』
「了解した。」
『それじゃあ、やるぞ。
全ての生命よ、我に従え。罪深き魂を新たなる器へ。ーーー【魂移】!』
ぐにゃりと視界が曲がる。
一瞬の浮遊感が俺に襲い、気がついた時には既に終わっていた。
ゆっくりと瞼を開けて、起き上がる。
実体がなかったため先程までは体が軽かったが、今では全身に何かを着ているという感覚があり、若干重い。
「·····おぉ…。」
『意識もしっかりしておるようじゃな。身体に違和感はないか?』
俺はその場で跳ねたり、腕を回したり、手をグーパーグーパーして確かめる。
「特に大丈夫だ。」
『ふむ。本当に大丈夫なようじゃな。
まだしばらく時間はある。
少しだけここで羽をしまう練習をして言ったらどうじゃ?』
「いいのか?」
『もちろんじゃ。』
「なら、遠慮なく。どうやればいいんだ?」
『基本、念じれば消えるはずじゃ。』
「りょーかい。」
念じるってどうやるんだ?
とりあえず心の中で色々試すか。
えーっと、羽よー消えろ!収納!無くなれ!
ーーシュッ
まさにそんな音が鳴ったのではないかと思うぐらいのスピードで羽が消えた。
よく良く考えれば、あんなでかい羽が一体どこに行くんだ?
「·····なんか、ムズムズするな…。」
『そうか?きっと時期になくなると思うぞ。
あと、言い忘れとったが、あっちに行った時『ステータス』と念じてみるが良い。お主の情報が表示されるはずじゃ。』
「『ステータス』ってマジであんのかよ…。
まぁ、向こうに行ったら試してみるわ。」
『うむ。それがいいじゃろ。そろそろええかの?』
「あぁ。世話になったな。」
『なに。こちらの事情でもあるしな。達者での。ーーー【転移】』
老人が何やら唱えた瞬間、再び俺の意識は暗闇の中に消えた。