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信長(女)戦記  作者: 伊勢新九郎
2/2

初陣(2)

「であるか…」


そういって再び信長は横になった


(ともあれ、まずはこの国、いや世界のことを知らねばならぬな…村ではダメだ首都か城下町に行かねばなるまいな)


深く目を閉じどのようにしてこの国で生き残るか、そして地位をあるかの試案をしていた                     


しばらくすると数人の男たちが家に入って来るとシュリーのそばにより、慌てた様子で話しかけた


「村長大変なことになりました…」


男がそう言うと信長は村で倒された獣たちの亡骸の安置場所へ案内された


そこには血まみれになり息絶えたゴブリンとコボルトと呼ばれる獣が並べられていた

両者を観察してみた、ゴブリンは比較的人間の見た目に近いが手足が短く小柄で体毛は生えていないが皮膚が厚く緑色の体色であった。

コボルトは反対に手足が長く人間に近い体型ではあるものの顔はオオカミに似て全身毛皮でおおわれている、だが皮膚は薄く毛皮も剣や弓を防ぐほど毛深くは無い。

村の者がいうには意思疎通はできず普段は群れを作り森で生活しているらしい


(これが異形の獣か、熊やオオカミならば火を恐れるがこ奴らは違うのか?人と何か関係があるのかもしれぬの)


脅威ではあるが初めて目にする、異形の生物を信長は興味津々に観察していた、そしてある共通したことに気づく


「この腕の焼き印はなんだ?」


横たわる3匹の左腕に見慣れる文様の焼き印が押されていた、そう聞くと信長をここに連れてきた男が焼き印について話した


「行商人から聞いた話なんですが、なんでもここ数年で異形の獣たちを集め軍隊にしたやつがいるらしいです…」


男が言うには、ここよりもっと中央の国々では近年組織化された異形の獣たちの襲撃を受け大きな被害を受けているらしい。

そして、それらの獣には組織の証しとして腕に焼き印を入れているのだという。                           


獣の軍団は各地に大小様々に点在している、特に組織だった軍団はまず斥候として威力偵察を行いその後全軍で攻めてくるという

数百近い獣に襲われた村ではこの焼き印と似たような印をした獣たちに襲われたと男は話した。


「ということは、こ奴らがじきこの村に大挙して押し寄せてくるということか?」


「商人の話が間違えでなければ…」


実際に腕に焼き印があり、普段は大人しい異形の獣が目的をもって村を襲ったのだ商人の話は本当だろう。確信を得た信長はすぐさま男たちに


「村の代表達を集めよ、時は一刻を争うぞ」                                             



---------------------------------------------------------------------------------


しばらくして各家の代表たちが村長の家であるシュリーの家へ集まった、村長の家とはいえさほど大きくないためテーブルをどけ床に座りながら話し合った

話の内容は無論今後の村の方針についてである。


議論は当然穏やかではなく現実に絶望している者は「村を捨てて逃げるべきだろ!」と主張し、老人は穏やかに「ここはわしたちの村滅びるなら共に…」

と村と心中すべきと反論する、今日の勝利に酔うものは「戦えばいい、今日みたいに力を合わせれば必ず勝つ」しかし諦観しているものが

「勝てるものか数匹の獣をやっと追い払えたんだ、大群で来られたらひとたまりもねえよ」と正論を述べた。


議論が白熱し収拾のつかな状態の中で信長はただただ沈黙していた、村長とはいえ若年の小娘だ、自分の意見に皆がすんなり従うとは思えぬからである


(とるべき道は二つだ…)


一つは村を捨て領主がいる西の町まで逃げ延びる、二つ目はこの村で獣の軍団を迎え撃つ


本来ならば領主が兵を出して討伐すべきだが、今から嘆願しても兵が到着するのは最低でも7日はかかるらしい


(逃げても獣や野党に襲われる、逃げ延びても町じゃみじめのものだろうよ……ならばやるしかあるまい)


(くくくっ、この歳で初陣とはのう)ロウソクで揺れる陰の裏で信長の顔は静かに笑っていた



数時間して議論は熱を失い皆はただただこれから起こる災害の絶望と失意を受け入れようとしていた


そしてこのタイミングで信長が重々しく口を開いた


「勝てる策がある」


絶望の混沌の場で出される一筋の光、半信半疑だが皆の注目が集まる。信長は立ち上がり強い口調で言う。


「この策は勝っても負けても多くを失うだから…」


「村を捨て、獣や夜盗に怯えながら、みじめに町でよそ者として暮らそうというものは止めはしない、今すぐ立ち去れ」


しかし、その場を立ち去るものはいなかった、むしろ皆の眼差しが真剣なものへと変わった


「もしこの策が成功すれば、村の多くを失うが、胸をはって言えようここが我々の土地だと!誇りをもって語り継がれるであろう!我々は勝ち取って生きていると!!」


皆の声が漏れた「そうだここは俺たちの土地だ!」「私たちが安心して暮らせるのはこの村だけよっ!!」再び家の中に熱が灯った


このタイミングでしかなしえなかった、これから信長が話す秘策の代償を受け入れるためにはこの熱狂の中でしかなかった、

そしてそれはシュリーが得ていた信頼と信長の術中によって皆の心を一つにまとめ上げたことにより成功する。


熱狂の中、信長は獣の軍団に立ち向かう秘策を滔々と語った。                                      




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



次の日から作業が始まった、村の入り口は東西南北の4か所ありその近くに小さな見張り台が建てられている、まずはそれらを取り壊しつぎはぎで

遠くまで見渡せる見張り台を村中央に建てた。

男たちが櫓を作っている間、女たちは日用品から農具や食料を周囲の小麦畑に隠した、さらに藁や草など急いでかき集めた。

櫓と村の整理が終わると東以外の3か所の入り口を壁で塞いだ、資材が足らなければ家を壊してまでも急いで作業を行った。

そして、あっという間に3日が過ぎその時は訪れた。

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