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信長(女)戦記  作者: 伊勢新九郎
1/2

初陣(1)

曇天の雲が空を覆い昼にもかかわらず薄暗いの静かな大地にそれらは大きな地鳴りとともに迫ってきた


粗末な武器と防具しかまわず群れでしか行動しないそれらがやってきた


背丈は人と同じかそれよりも大きいそれらは人にはとても真似できない異形の形相と力で大地を駆けてきた


それらは「ゴブリン」や「コボルト」と呼ばれる異形のけものである、それらがまさに非力で戦うすべを持たない小さな村へと襲い掛かろうとしている


そんな村の中心に建てられた村には見合わぬ大きな物見やぐらから農夫の男が自揺れにおびえ上ずった声で怒鳴った


「きっきやした!か、数は300か400はいやす!」


それを聞き、櫓の下で胡坐をかいていた少女が立ち上がり不敵に笑いながらつぶやく


「であるか」


そうつぶやくと各所に隠れている農夫や女子供たちに檄をとばした


「敵が奪うのはお前たちの命だけぞ、ほかのすべてはくれてやれ、その代わり敵のすべてをもらうぞ!!」


その檄により農夫たちの拳に力がこもる


だがその少女だけは不敵な笑みを浮かべながら、戦の高揚感と天下普武を墓標とする情念に燃えていた


彼女はそう戦国時代が生んだ風雲児「織田信長」その人である。




-------------------------------------------------------------




数日前-ランテ村-




暖炉と蝋燭で灯される薄暗い家にはけが人たちが所狭しと並んでいる、部屋自体は大きくないが薪が燃える音とともに苦しいうめき声そしてそれらを看病する真剣な声が飛ぶ。

その一角に女性としてはまだ幼さが残るが十分凛々しく美しい少女が簡素な長椅子に横たわっていた、少女は目をつぶりながらぼんやりと記憶をたどる


(わしは生きておるのか…)


(確か本能寺で夜襲をかけられ…骸をさらすまいと寺に火をかけさせ…自害した)


(謀反人は誰じゃ…桔梗の家紋、大量の鉄砲侍…金柑か、惟任光秀…明智 光秀!! )


「明智十兵衛光秀!!」


腹のそこから叫び後を上げた、怒りと憎悪が込められた名前を自分の意志とは関係なく叫んだ


その叫び声に驚き、呻く怪我人以外は声を潜め歩みを止めた


「明智の兵はどこじゃ!今すぐ馬回り集と信忠を呼べ!わし自ら金柑の首を落としてくれる!!」


少女は立ち上がり外へ出ようとするが足に力が入らずよろけてしまう、しかし周りは彼女を胡乱と困惑そしてわずかばかりの安堵表情で注目を集めた


「わしはどれほど眠っておった、本能寺を抜け出せたのなら今すぐ兵を集めよ!」


覇気に押され周りの人間は少女を避けるように1、2歩下がっている、さらによく見ると周りの者たちは汚れ擦り切れてはいるが南蛮商人たちが見せた南蛮の服を着ている

その様子に少女は違和感を抱いたが束の間、部屋の奥からどすどすと恰幅のいい中年の女性が大股で少女に近寄りながら大声で


「シュリー!よかった、無事だったんだね!」


そういって彼女は分厚い手のひらで彼女をきつく抱きしめた、しかし少女の興奮は収まらず声を上げる


「離さぬか!こんなところで寝ている暇などない!」


「いいえ離さないわシュリー!あんたはよく戦ったよ、あんたがいなければこれだけの怪我人じゃすまなかったはずだよ…」


そういってさらに強く抱きしめた、そのおかげか少女は少し落ち着き自分がおかれている状況を受け入れ始めた


(…そうだ確かにおかしい、わしは本能寺で腹を切って確かに死んだはずだ)


そう思い、腹を探るが傷一つ付いてはいない、それどころか女柔肌のように綺麗だった


「ここは地獄か?」


抱きしめられた胸の中で少女は小さく尋ねた、中年の女性は少し困りながらもこう答える


「そうかもしれないね、だけどあたしもあんたも生きているそれは確かだよ」


「であるか…」


少女は落着き納得したように答えた、女性は抱きしめていた手を少女の肩に乗せ顔を覗き込んだ


「とにかくあんた、頭を打って混乱してるみたいだね、あたしが誰だかわかるかい?自分のことは?」


「いや、なにもわからん…」


少女の答えに女性はため息を漏らした


「…そうかい、それじゃ一から全部教えてあげるから思い出したことがあったら言うんだよ」


そういて女性はシュリーと呼ばれる少女の生い立ちから、村の状況、昨晩の襲撃、さまざなことを話した


村は村人が100人程度住むどこにでもある農村だ、どうやらシュリーはこの村の村長の一人娘として生まれこの村で育った普通の村娘だったらしい

しかし数年前に村長が病でなくなると若くしてシュリーが村長を継いだ。

幸いなことにシュリーは学問には疎いが聡明で、村同士の水源の争いや行商人との交渉、納税の円滑化など村の発展に大いに貢献した。

特に近頃異形の獣が頻繁に村を襲うことを知ったシュリーはすぐさま村の防備に力を入れた、村の周囲に高い杭を打ち込み防壁を作り、各所に物見の櫓を立て、

村のたくわえを崩し行商人から剣や槍をそろえた。当然村では過剰な防備に労力と財を割くことを反発する者もいたが、それが無駄ではないことが証明される日が来た。

それが昨晩である、春先だがまだまだ冷える夜に突如として鐘の音が村中に響き渡った。物見が村に異形の獣の侵入を知らせる鐘である。

シュリーはすぐさま飛び起き剣を片手に家を飛び出した。

騒ぎがする方へ向かうとそこにはゴブリン3匹とコボルト2匹が村の中を荒らしまわっていた、あるものは納屋を壊し家畜を襲い、あるものは家の扉を壊そうと

懸命に飛びついていた。シュリーはすぐさま家の扉を壊そうとしているゴブリンに剣を向けた、しかし実戦経験のないシュリーは恐怖と緊張でカタカタと

手を震わせていた。そして意を決し叫び声をあげながらゴブリンに切りかかったが、声に気づいたゴブリンは身をひるがえし容易く剣をかわしシュリーを

殴り飛ばした。シュリーは何メートルも吹き飛ばされたが幸いにも殴られた痛みとかすり傷で済んだ。そうしていると剣や槍、弓を持った男たちが急ぎ集まってきた

すぐさま獣たちと対峙するが、武器を手にしたところで所詮は農民の男たちである、狩人を除けばほとんどが武器の扱いを知らない。

それを悟ったシュリーはすぐさま「一番小さなゴブリンを弓で撃て!!」と叫んだ、それに応じ狩人の矢がゴブリンの肩を射抜いた、しかし致命傷にはなりはしない。

だがわずかにゴブリンが怯んだ隙にすぐさまシュリーは「槍で突き刺せ!」と叫んだ、数人の男達が穂先をゴブリンに向け叫びながら槍を突き刺した、中には槍が折れゴブリンに肩を噛みつかれたものもいたがシュリーは怯まずに「剣で切裂け!」と叫びながら自身もゴブリンに向かって剣を振った。

槍で動きを止められたゴブリンは剣による幾たびの切り付けで深手を多い、とどめに弓を数発射抜かれたところで息絶えた。対峙していた男たちは雄たけびを上げたが、シュリーはすぐさま男たちに油断するなと叱責して他で戦っている男たちの元へ駆け出して行った。

その後は獣たちの乱戦に交じり指揮を執りながらなんとかゴブリン2匹、コボルト1匹を倒し残りを撤退させた、

幸い負傷者は多数出たものの命を落としたものはいなかった、シュリーも多少の怪我は負ったものの戦闘の緊張と疲れから眠るように気を失い病棟代わりの家に運ばれ今に至るのであった。

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