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それははるか昔のことであった!
神秘なる山には奇跡をもたらす女神が住んでいるという噂があり、その噂を聞いた力無き少年は奇跡を求め山へ向かうことを決意した!
進む道は険しく、長く辛い道だった。
しかし、少年は諦めずに進み、じき道は開かれ一つの広場と洞窟が現れる
「…ここが…女神の住む場所か」
待ちに待ったその場所に少年は喜ぶもつかの間、目の前にははるかに大きなドラゴンが舞い降りる!
少年は死を覚悟した。
震える手には錆び付いて刃の欠けた頼りない剣が握られているものの、動くことすらその圧倒的存在の前ではままならない!
「また、くだらない願いをしに来たのか、人間よ」
ドラゴンの言葉がビリビリと大地を揺らす。
恐怖心を感じながらも必死に言葉を紡ぎ出す。
「…ぼ、僕には!病気の妹がいるんだ!だから…妹の病気を治してもらうために!今ここに!」
「お前の妹か、そんなものの病など治す価値もなし、引き返すか死を選べ」
圧倒的な力の差を感じてもなお、少年は引くことなくドラゴンの前にい続ける
「どうせ戻っても!たった一人の家族は死んじゃうんだ!なら今この場で死ぬことも厭わない!」
少年の瞳にはドラゴンへの恐怖はなかった。
「そうか、なら、死ぬがよい」
ドラゴンの腹部が大きく膨らみ、辺り一帯の温度が急激に上昇する。
その刹那
「やめなさい!」
ドラゴンの影から一人の女性が現れた。
その姿はまさに女神であった。
「そうか、ならやめよう」
ドラゴンは女神の言葉を聞き、空へと飛びたった。
「…貴方が…女神様ですか…?」
「私は神ではありません、この場所へ捨てられたただの人間です」
「嘘…ですよね…」
「人間でなくとも、死者を生き返らせることはできません、あなたの妹は死んでいるんですよね、でなければ、病気の妹を一人家に置いてくるなんて、出来ませんよね」
女神と呼ばれた女性の声は優しく、そして残酷なものだった。
「そんなことない!そんなこと…ないんだぁ…」
「妹を、弔ってあげなさい、そして、前を向いて、妹の分まで生きなさい、それがあなたのできる唯一のことよ」
少年は少し考え、そして何かを呟き決意したかのように振り向き駆け出した。
「そう、それでいいのです、けして振り向いてはいけない」
ドラゴンがゆっくりと彼女の傍らに舞い降りる。
「全く、人間とは分からないものだな」
「そのわからない人間を妻に迎えたあなたも、私にはわからないことが多いのよ?」
「そうか…ますます分からんな」
「そういうものよ」
少年が振り向くことは無かった。
その後、神秘の山には女神のように美しい女性と、ドラゴンの夫婦が住んでいるという物語が描かれることになるが、それはまた別のお話。