8/50
#8 「独立宣言」
授業にも慣れてきたある日、勇樹はとある少年に隣に座って良いかと声をかけられた。地味でメガネを掛けた大人しくて優しそうな男だったが、予備校では誰とも関わらないと決めていた勇樹は声を出すことはなく、冷たい目で会釈だけをした。側から見たら態度の悪いやつに映ったのだろう。それから数日後その少年は勇樹に声をかけなくなり、別の人と仲良くしていた。
この瞬間、勇樹は今までの自分と決別した。間違いなく高校時代の勇樹なら楽しく話していたことだろう。それでもそれは昔の話。いまの勇樹は浪人生。目的を果たすためならこの程度のことは仕方ないことだった。