Memory with the lover
初恋の人 は、俺にキスをしてから帰ろうとしなかった。
家は暗い。
「旦那まだ帰って来ないの?」
「今日は泊まるって」
「そんなに忙しいの?」
「…うん」
「今日…泊まる?」と 初恋の人
「そんな事出来ないでしょ」
「私 今日一人だよ」
俺は何も言わなかった。
「さっき聞いた いい人 居るから?」
「馬鹿な事言ってないで、乗れ」
初恋の人は、また助手席に乗る。
明らかにおかしい…
何故 今日 俺を誘ったのか?
自分が聴かないアーティストのライブに
それよりも
今までの言動…
こいつは、俺の知る限り、自分からあんな事をいう人ではない。
昔から、自分の気持ちはあまり出さず、人の事ばかり考え、気遣っていた人だった。
何故 片道40キロもあるお寺さんに行きたかったのか?
何故 あんな事を亡くなった彼女に伝えたのか?
何故 今 あんな事を言ったのか?
俺は、初恋の人 を乗せたまま車を走らせた。
「朝になるまで一緒に居てやるよ」
何故か上から目線で言った
「本当に?いいの?」
元気になる 初恋の人
「その代わり、車で走るだけだぞ」
「うん!」
元気に答える。
それからは、一人で楽しそうに話をしてた。
「あの時の席替え覚えてる?」
「いつの?」
「ほら クジでさ あんたの隣に◯◯ちゃんが座って、次の日から 私がその席に座ってて、あんた ? って顔してたじゃん」
「あぁ あったあった!なんでって思ってた」
「あれね、◯◯ちゃんに私から頼んだの」
「あんた いつも筆記用具持って来ないからさ 他の人に迷惑かけない為に私が代わってもらったんだ」
そう…
俺は、昔から 筆記用具を持ち歩かない 癖 があり、隣の人が毎日俺の分を用意してくれてた…
その 癖 が未だに治ってない…
「俺 みんなに迷惑かけてたなぁ…」
「そんな事ないよ あんたはその分 みんなの為にいろいろしたじゃん」
「いろいろって?」
「ん〜〜」
「ほら!出ないじゃん」
「例えば、社会の授業を体育に変えて貰ったり」
体育と社会の先生が同じだった為、社会の時間にみんなを体操着に着替えさせ、校庭に出て体育をしていた事を言っているのだ。
「その為に、中3の夏休みに補習授業受ける羽目になったじゃん」
「でも、あれはあれでみんな楽しんでたんだよ」
「後は?」
「後はね〜 キャンプ!」
「あぁ やったね〜 」
「あれだって あんたが授業中 急に先生に『キャンプやろう』って言ってさ みんな盛り上がって 収集がつかなくなって 先生が承諾せざるを得なくなったからじゃん」
「まぁ 自由過ぎたよなぁ」
「でも それが みんなの為って事にはならないじゃん」
「ううん みんな楽しんでた!」
「あの時は、学級委員長お疲れ様でした」
そうなのだ。
俺は、あの時学級委員長をしてた。
それまでは、こいつ がずっとしてた。
最後の学級委員長を決める時、俺がやる!、って言って決まったのに
先生が後から来て、「誰に決まった?」って言うから
「俺」って言ったら
「もう一度考え直せ」って出て行った事を思い出していた…
「あの時は笑ったね〜」
その事を言っている。
「なんで俺じゃダメだったんだ?」
「まぁ 先生の気持ちもわからなくもなかったけどね」
「なんで?」
「だって あんた自分が正しいって思ったら先生にも食ってかかってたじゃん」
「俺は間違ってない!」
何が?
「最後に あんたが学級委員長やってよかったんだよ…私だったらあんな思い出作れなかった」
「まぁ あの時は、そんな事考えてなかったけどね。自分がやりたい事をやってただけ…」
「楽しかったなぁ」
なんか嬉しかった。
「私ね…」
続きを言わない。
「どうした?」
「私ね…」
「うん」
だからどうした?
「幸せだった」
だった?
「なんで過去形?」
「あの頃が一番幸せだった。」
「今は旦那と子供が居るじゃん」
「女の幸せはね、それ が一番の幸せじゃないんだよ」
「それ以上言うな」
俺は止めた。
「ごめん…」
こいつは苦しんでるのか?
結婚して子供が出来て幸せじゃないのか?
俺が こいつと一緒になってたら、こいつは幸せになったのか?
俺は そんな男じゃない…
自分勝手で、どうしようもない男なんだ
「ごめん」と独り言のように呟いた。




