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prologue 純白は漆黒の中にこそ

「…………」


 ――少年が一人、言葉なく立ち尽くしている。


 彼の前には二つの亡骸。綺麗な遺体ではない。腕は千切れ足は潰され、無事な部位は一つとして見当たらない死体だ。地面に染み込みつつも固まりきっていない血溜まりが、この一方的な蹂躙が起こってからまだそれほど時間が経っていないことを示している。

 「尊厳ある死」など口が裂けても言えないような、酷い有り様だった。


「…………」


 少年は押し黙ったまま一言も言葉を発しない。なぜならその歯は固く固く食い縛られていたから。砕け割れてしまいかねないほどの強さで少年は歯を食い縛り、外へ溢れ出ようとする感情を堰き止める。

 静かに、しかし苛烈に燃え盛る修羅と悔恨、絶望の炎が少年の内で荒れ狂っていた。握り締められた拳には自身の爪が食い込み、やがて赤い雫がこぼれ落ちた。


 辺りには少年と同じく亡骸の前に立ち尽くす人々の姿。小さな村落は、そこかしこに無惨に損壊した死体が転がる地獄へとその様子を一変させていた。


 物言わぬ死体へと成り果てたかつての親しい人たちは、一体どれだけの苦痛と恐怖を味わったのか。想像するだけで胸が張り裂けそうになる。親族を失ったのだろう誰かのすすり泣く声が、一夜にして荒れ果てた村落に静かに流れる。


「…………? お、おい、どこに行くつもりだ。まだ村の外には…………」

「…………」


 まだ十五にも満たない少年は、亡骸を背にゆっくりと歩き出す。その白髪が彼のうつ向き気味な顔の表情を隠した。後ろから呼び止める声を無視して、ぎこちなく一歩を重ねていく。


「……待てって! 気持ちは分かるが、今は――」


 少年の肩を掴んだ青年。おもむろに振り返った少年の表情に青年は動きを止める。


 その前髪の隙間から覗くのは凶悪にぎらつく赤い瞳。見る者に底知れない恐怖を感じさせる絶対的な威圧感。少年が何もしていないのにも関わらず、青年は震える手を肩から離した。


「……俺は、強くなる。強くなって……悪魔デモンを、そして―――」


 前を向き直した少年は怨念のごとく暗い感情を言葉にした。


「――あの黒い男を、殺す」


 『大厄災カタストロフ』の翌日、少年――ヘルビア・ドロニシティアは、消えることのない負の感情を胸に刻みつけて、村を出た。

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