prologue 悪魔の子
自分は何者なのか。
あの日から、ずっと思っている。
その存在をその存在たらしめるモノが何なのか。
あの日から、ずっと考えている。
人か。悪魔か。
容れ物か。中身か。
いずれにしろ、自分はまともではないのだろう。何となくそれだけは分かっていた。もし自分がまともであるのなら、こんなことを静かに考え続けていられるはずがない。
――その青髪の少女が持つのは血に濡れた短刀。少女の前に倒れているのは、首筋から大量の血を流し絶命したばかりのよく肥えた男。
まだ十にも満たないだろう幼い少女が醜い男の死体を見下ろす姿は、異常すぎるほどに異常だった。
「これで……何人目だろ……」
これまでに何人その手にかけてきたのかはもう分からない。十を越えた辺りから数えるのを止めたからだ。いや、止めたというより、どうでもよくなったと言うべきか。
何人殺したかなど、少女にとっては些事に過ぎなかった。大事なのは、唯一求めるのは、自分という存在が一体どう表されるのかを知ること。自分がはたしてどういう形で世界に許容されるのかを理解すること。
「……帰らなきゃ」
少女は男の死体には一切興味を示さず踵を返した。短刀を素早く振るって滴る血を切ってから、スカートの下に隠した鞘に静かに納める。そんな動作の全てが滑らかで、明らかに手慣れているのが分かる。
自分は何者なのか。歩きながら少女は再び自問する。
答えはない。多分、この問いに明確な解は存在しない。そうと分かっていながら、やはり少女は考えることを止められなかった。
今や少女に与えられた自由は思考のみ。無駄なことと知りつつも、唯一の自由を放棄することだけは出来ない。それだけが、少女の「父」と「兄」と名乗る者への、せめてもの反抗だった。
いつ終わるとも知れない――否、終わることはない思考の中で少女は仄かに思う。
いつか、私が何なのかを教えてくれる人が現れたら――。
もしもそんな人が現れたのなら、その時こそ自分は、本当に世界に許容されるのではないか、と。
幼い顔立ちに感情のない瞳を持つ少女は、叶わぬはずの妄想を心の奥底に抱いていた。




