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4─4 アルスとアルス

「はあっ!」


 気合の声と共に漆黒の剣が振られる。全てを飲み込むがごとき闇を宿した剣は、金属など比ではない堅さを持つはずのナガルの体を容易に斬り裂く。


「ぐ…………っ」


 飛び散る血、外殻の欠片。魔素再生オートリバイヴにより数瞬後に修復されるとはいえ、斬られれば激痛は避けられない。それも、元人間故に痛みへの耐性は純粋な悪魔には劣るはずだ。


 しかし、それでもナガルは止まらない。


「がああああっ!」


 退くどころかレインとの距離をさらに詰め、堅さを増した爪を振るう。あまりの気迫にレインは一度攻撃を止めて防御に徹したが、その間にナガルの傷は完全に塞がり、レインが付け込むことを許さない。


 まさしく常人離れした精神力。ナガル自身意識はしていなかったが、ガトーレンとの戦闘時も、滅魔剣ホーリーを恐れて退いていればその隙に更なる一撃をもらっていただろう。レインを相手にしていまだ生きていられるのは、偏にその度胸故なのだ。


 ――いや、それどころか。


「ちっ……はあっ!」


 ナガルの爪を防ぎきり、攻撃に転じたレイン。放たれた一撃はナガルの外殻を砕くが――。


 ――重い。


 剣に重い手応えがある。最初はこんなことはなかったはずだがと、レインが思った瞬間に。


「……失せろォ!」


 巨躯を生かした死角からのナガルの爪がレインを襲う。

 とはいえその一撃は予測済みだ。剣で防げば余裕を持ってかわせるはずだった。

 が。


「遅い!」


 爪はレインの防御よりわずかに速く、レインの頬を掠めた。


「…………っ!?」


 ほんのわずか、皮一枚に触れたかどうか分からないほど微かな距離だった。にも関わらず、頬には浅いが鋭い傷が描かれ血が流れる。まともに受ければ致命傷は免れない。


 いや、爪の威力は既に分かりきっている。問題なのはそれ以前に。


「まさかこいつ……成長してんのか」


 一度距離をとってから、レインは短く自らの疑念を口にした。


 むしろ疑念というより確信に近い。時間が経つにつれ、ナガルの身体能力は明らかに上昇している。加減していた本気を出していた訳ではなく、能力の上限値そのものが上がっているのは明確だった。

 さらに言えば、成長しているのは身体能力だけではないだろう。ナガルが持つ外殻の堅さは身体能力ではなく異能の類いなのだろうが、砕く度に堅くなっているということはつまり。


「特異体質――それも、かなり質が悪い成長能力。異能まで強化するとなると…………」


 ――少しまずい。レインはその一言を飲み込んだ。


 特異体質が硬化なのではなく、自己の異能がより強化されて付与されている。しかも他の身体能力まで強化されるということはつまり、際限なく強くなるということだ。時間をかければかけるほど厄介な存在になる。


 レインの言葉を聞いたナガルは笑った。


「俺の特異体質を見破ったのは認めよう。しかし、いずれにしろ無駄なこと。この異能“頑強ハーギン”がある限り俺を即死させるのは不可能だ」

「…………」


 レインは押し黙る。


 事実なのだ・・・・・・。どう考えてもナガルの言葉を否定出来ない。


 常に強くなるということは即ち、最も弱いのは今この瞬間ということでもある。少しでも早い内に倒したいが、“頑強”とやらのせいで一撃で倒すのは至難の業だ。あまつさえ、倒しきれなければその分外殻は堅くなり、ますます倒すことが難しくなる。


 悪魔化したことで獲得した特異体質と元より備わっていた異能。今やその組み合わせは、類を見ないほど凶悪な性質となっていた。


「ったく……ま、最悪は――」


 一人ぼやきながら、レインは剣を構え直した。


 脳裏には、ナガルへと対抗出来る力を持つはずの一人の友人の顔が浮かんでいた。

 

  ***


「レイン君……だったのか」


 アルスは座り込みながら、一人呟いた。


 レインがナガルと激突してから既に結構な時間が経っている。アルス自身の傷は、いつかは分からないが恐らくレインに付与された術式によってかなり癒えている。今ならばもう一度戦うことも出来そうだ。


 ――もっとも、そんなことが出来る隙はなさそうだが。


 眼前で繰り広げられるのはまさに次元が違う戦闘。正直アルスには動きを追うだけで精一杯であり、あれに入ってまともに戦えるとは思わない。いつの間にか自分は自分・・へと戻ってしまっているし、先程までナガルと戦っていた時のような動きは到底出来ないだろう。


 その時ふと、アルスは思う。


 あの感覚は一体何なのか。

 まるで血が叫ぶように体が熱くなる感覚。思考の全てが燃えて弾けるような感覚。


 幼い頃から度々感じてきたものだ。ふとした瞬間に一切の思考は消え失せ、ただただ剣を振るう自分がいる。自分ではない誰か――或いは自分の中にいた何かが表面化したように、体が勝手に動く。血が何かを喚き散らす。心臓が強く脈打つ。


 決まって強くなりたいと思った瞬間に宿る感覚は、アルス自身ほとんど制御出来ない。感覚を失った途端に自分が何をしていたかを悟るのだ。そんなことを繰り返す内に、いつしかアルスは自分自身を恐れるようになっていった。いつか自分は暴走し、周りを破滅に追い込むのではと。

 だからこそ、悪魔化したナガルを見た時に言い様のない恐怖を感じたのだ。自分もこうなってしまうのだろうかという不安に襲われたのだ。


「…………」


 情けない。本当に情けない。強くなりたいと言いながら、その思い故に自分に枷をかけている。しかも、そこまで分かっていてなお、先へ進めない。


 ――どうしてここへ来たのだったかとアルスは思い出す。


 元々はラムルの死の原因を探るために来たのだった。幸か不幸か原因は分かった。なのに、結局どうすることも出来ずにここにいる。またしても、友人に頼りっきりになっている。

 王国の王子などと言っておきながら、本質は優れた者に頼るだけの軟弱者だ。自分では何一つしない、出来ないくせに、周りの力を頼ろうとする愚か者だ。これを情けないと言わずして何と言おう。


「………………っ!」


 悔しい。悔しい悔しい悔しい。だがそこまでしても体は動かない。レインに任せようと、体は必死にアルスの意思に抵抗する。


「何で……僕は……こんなに…………っ」


 握りしめた拳の爪が肉に食い込んでいても痛みは感じなかった。そんなことより自分への怒りが方がよほど強い。自分を苛む自分の声の方がよほど辛い。


 その時。


 ドガァァァン! と、轟音がアルスの耳に届いた。


「―――ッ!?」


 驚いてうつむきかけていた顔を上げると、そこにはナガルが映った。ナガルしか映っていなかった。


 レイン君は――と辺りを見回して、アルスはようやく壁際に倒れるレインを見つける。

 恐らくナガルに吹き飛ばされたのだ。だが、どうして。


 レインは先程までの動きが嘘のように弱々しく立ち上がった。


「…………!」


 いつの間にかその姿はぼろぼろになっていた。纏っていた外套コートは端端が千切れ、ひどいところでは鋭利な爪で綺麗に両断されている。顔には疲労の色があった。

 有り得ない消耗の度合いにアルスは言葉を失った。


「っ痛ぇ……。さすがに、厳しいか……」


 半ば呻くように一人呟きながらレインは剣を構えた。いまだに瞳に宿る底知れない輝きは消えていないが、体はどう考えても限界に近いように思える。

 あれだけ優勢だったはずのレイン。しかし今では明らかに劣勢。

 その前に、音もなくナガルは現れた。


「―――」


 ――速い。アルスにはもはやナガルの動きは捉えられなかった。視界の端には映っていたはずなのに、いつ動いたのかが全く分からない。


 それでもレインは辛うじて反応出来たらしく、剣を立てる。横薙ぎの爪を防ぐためだろう。何とか耐えられれば反撃に移れるはず――。

 とアルスが思った時には、レインは再び吹き飛んでいた。


 爪が剣を叩く音とレインが壁に激突する音はほぼ同時に聞こえた。進路上の剣など関係なく、ナガルの爪はレインを吹き飛ばしたのだ。


「が……は…………っ」


 壁に激突した衝撃でレインは激しく吐血した。崩れた本棚に埋まったまま、抜け出せる力も残っていないのか、荒く息を吐く。受けた傷は大きく、もはやまともに剣を握ることも出来ないだろう。


 そんなレインに、ナガルは言葉はなくとも歪な笑みを浮かべながら近付いていく。


「あ……あ、あ…………」


 ――殺される。アルスはそう直感した。このままでは、レインは間違いなくナガルに殺される。アルスの目の前で一つの命が消える。

 何度もアルスを助けてくれた、かけがえのない友人が死ぬ。


「……助け、なきゃ……僕が…………!」


 掠れた声はナガルやレインには聞こえないほど弱く小さかった。必死に体を動かそうとするが、それでもアルスの体は動くことを頑なに拒む。傷はほとんど癒えているはずなのに、まるで鉛で出来ているかのように重く、動かない。

 助けなければという使命感と、行ったら死ぬという恐怖。相反した感情がアルスを縛る。だがその葛藤は、恐怖の方がやや優位にあった。アルスには、使命感を後押しする「勇気」が足りなかった。


「嫌だよ……目の前で誰かが死ぬなんて、そんなの…………っ」


 必死に自分に言い聞かせるようにアルスは呟く。どこかに眠っているはずの勇気を奮い立たせようとする。なのに。

 心の中の灯火は、深すぎる闇に飲み込まれてどこにも見えなかった。


 ナガルはついにレインの前に立った。


「“漆黒の勇者”もこうなれば哀れだな。所詮は人の身で悪魔に立ち向かおうとしたのが間違いだったのだ。さらに言えば、あの屑に与したことか」


 ナガルは笑みを消して言った。レインはぴくりと顔を動かす。


「はは……何言ってんだよ。あいつは……アルスは、屑でも出来損ないでもない。今でも俺は信じてるよ。アルスはお前より強い」


「―――!」


 レインの言葉にアルスは泣きそうになった。


 どの口が言えるのだ。僕はナガルより強い、などと。恐怖を前にして一歩も動けない自分が、あの“漆黒の勇者”をも上回る悪魔に勝てる訳がない。


「あれがか? いまだに動くことさえ出来ない臆病者が俺に勝ると?」


 視線をアルスに向けることさえせず笑いながらナガルは言った。しかし、侮辱されたことに対する怒りよりも恐怖は強い。体は熱くなるどころか冷たくなった。


 ――違う。僕は強くなんかない。この期に及んで動くことすらままならない僕が、強い訳がない。


 それでもレインは言った。


「ああ。ただ、ちょっと時期が早いだけだ。だから――」


 レインはわずかに回復した力で壁から抜け、剣を構えて、


「――アルス! ここから逃げろ!」

「…………!!」


 アルスは一瞬、本当に言葉を失った。


「ひたすら走って王都まで……いや、神王の視界にまで辿り着け! 一分は耐える!」


 ――レインが何を言っているのか、アルスは最初理解することが出来なかった。何故ならそれは。


「貴様だけで一分耐える……その体で俺を足止めしようというのか? だとしたら、些か笑えない冗談だ」


 ナガルから苛立ちとも思える邪気が放たれる。濃密な恐怖の気配はアルスをも包むが、レインは体こそぼろぼろでも微動だにしない。

 それどころか不敵に笑って言った。


「生憎とこっちは本気だよ。……今度は生きて戻れるか分からないけどな」

「……――」


 アルスは悟る。レインは死ぬ気なのだ。死んでまでナガルを足止めする気なのだ。


 元賊の男たちに囲まれた時はどうにかして退けたのだろう。それこそ“漆黒の勇者”の力を以てして倒してきたのかもしれない。だが、今は状況が違う。既に今のナガルが単身のレインの手に負える相手でないことは明白なのに。


「片腹痛いな。一分どころか、俺がその気になれば一秒も満たずに貴様を殺せるぞ」


 ナガルは距離を詰める。言葉通り、あの位置で爪を振るえばレインは恐らく死ぬ。


 だがレインは笑みを崩さない。そのまま、ちらりとアルスを見た。


「俺のことは気にすんな。こういうことには慣れてるし――友達を殺させる訳にはいかない」

「…………ッ」


 その笑顔を見た瞬間に、アルスの心臓が震えた。


 ――また、逃げるのか?


 聞こえるのはもう一人の自分の声。アルスの奥底に眠っていた灯火を体現する自分の声。アルスの本能が叫ぶ声。


 逃げるべきだ。自分がここに残っても出来ることはあまりに少なすぎる。むしろここで逃げた方が、まだナガルの企みを阻止出来る可能性は高いだろう。それならば、きっとその方がレインのためにもなる――。


 対して理性という名で誤魔化した醜い自分はそう捲し立てる。レインの命がけの好意に甘え、少しでも早くここから去ろうと喚く。

 いつもなら、迷ってもきっとすぐに逃げることを決断した。臆病で虚弱なアルスはそうした。

 だが今は。


 ――それで、いいのか?


 アルスに残された最後の灯火は、か細くとも消えずに残っていた。


「これでいい訳…………ない……っ」


 逃げた方が賢明だと、例え誰が見てもそう思うだろう。何しろアルス自身もそうなのだから。理性の判断は正しく、恐らくそれ以上の最適解は存在しない。

 だがそれでも本能は抗っている。アルスの核が確かに叫んでいる。それでいいのかと。本当に後悔しないのかと。


「……早く逃げろ、アルス! お前は――」


 しかしその時、そのか細い炎に。


「お前は――王になるんだろ!!」


 一陣の強い風が、レインの言葉が吹き込まれた。

 炎はゆらめき、消えた。


「あ…………」


 王になる――。

 それはアルスが目指していた未来。理由などなく、妄信的に描いていた夢。王家に生まれたから、といつしか義務のように感じていた将来の姿。


 第二王子だったナガルが悪魔であった以上、王位継承権を持つのはアルスだけだ。もし王になることを願えば、誰が何と言おうとアルスが王になる。

 逆に言えば王になれるのは――アルスしかいない。


 王の血を途絶えさせないためには、アルスはここを生き延びねばならない。何があろうと血を繋げなければならない。


 ならば。


「…………」


 アルスは一度俯き、呟いた。


「ごめん、レイン君…………」


 消え入るような声で、しかしレインにだけは届くようにアルスは言い、足をレインとは対極の書庫の入り口へと向けた。


 ナガルは鼻で笑い、レインへと意識を戻した。


「ふん、やはり所詮は屑に過ぎん。或いはそれにすら劣る塵芥以下か。いずれ追い付いて殺すが、今はひとまずレイン、貴様を――」


「――レイン君から離れろ、ナガル」


「――あ?」


 爪を振りかぶろうとしたナガルの耳に届いたのはアルスの声。

 思ってもみなかったことに振り返ると。


 アルスは、ナガルに対して半身になり、神器〈アポロン〉を構えていた。


「……ごめんレイン君。やっぱり逃げられないよ」

「アルス…………っ」


 微笑んだアルスにレインが言葉を失う。


 ナガルは初めてアルスに向き直った。


「……何のつもりだ? まさか、貴様は今俺に命令したのか?」


 レインの「一分は耐える」という言葉を聞いた時と同じ、いや、それ以上の邪気がナガルから溢れだす。空間を絶望で塗り潰すような圧倒的な暴力は、しかしもうアルスを怯ませることは出来ない。


「そうだ。お前の相手は僕のはずだ。王子を殺したいなら僕に向かってこい」


 アルスの声は別人のような響きを帯びていた。


 アルスの中の消えかけた灯火は、風をすら取り込んで大火となり、煌々と燃えていた。もう一人の自分がここにいると自覚出来るほどだ。あと少しで、自分は自分でなくなるとアルスは理解していた。また、全てを斬ろうとする自分が現れる。


 しかし、だとしても今だけは自分なのだから。

 アルスは自分で恐怖に立ち向かったのだ。


「随分と威勢がいいな。……死ぬ覚悟は出来たか……?」


 怖気立つほどの邪気を感じながらもアルスは退かない。退くという選択肢は、たった今自分で断ち切った。


 アルスは目を逸らさず言葉を返す。


「覚悟は出来てる。でも……死ぬ気は更々ない」


 アルスの言葉に、ナガルは見ただけで分かるほどに苛立ちを募らせた。少しだけ低く変質した声が響く。


「……腹立たしいな。貴様一人で何が出来る。“漆黒の勇者”ですら敵わぬ俺相手に、出来損ないの貴様が――」

「――一人じゃない!」

「……ッ!」


 ナガルを遮りアルスは叫ぶ。


「僕は一人なんかじゃない。皆が……今まで僕を支えてきてくれた人たちがいる。学園の皆や教官たち、城の人たち、アリアさんやレイン君だっている! それに――〈アポロン〉だって!」


 とくん、とアルスが握る〈アポロン〉が震える。流麗な神器は主の言葉に呼応するかのように仄かに輝く。


 途端、ナガルは目を血走らせ激昂した。


「黙れ……黙れ! 何が神だ! 何が皆だ! そんなものが一体何だと言うのだ!」


 自分でも制御出来ていないのか、体がさらに硬質化していく。より堅く、より大きく、より悪魔らしく、異形の姿へと変わり果てていく。


「この世を統べるのは人でも神でもない! 我らだ! 我ら悪魔こそが世を統べるに相応しいのだ! この俺が王になるべきなのだ!」


 聞くだけで精神を蝕みそうな怒号が響く。大広間ホールが異物を嫌うかのように震える。純白の本たちですら一時その輝きを失う。


「答えてみろ! 神や人間が――仲間とやらが一体貴様に何をした!」


 しかしそれでも。

 アルスは怯まなかった。


「――助けてくれた。救ってくれた。支えてくれた」


 そう、いつだって自分は支えてもらっていた。王族でありながら何も出来ない自分を、厭うことなく支えてくれた。どんな失敗をしても許してくれた。


 それどころか命すら懸けて守ろうとしてくれる人がいる。そんな人を捨て逃げるなど、アルスが願う王ではない。なりたいと思った王ではない。


「どんな時も支えてもらって僕はここにいるんだ。僕が皆を守りたいと思ったことだって何度もあるけど、そんなことが無理なのは分かってる。僕に皆を守りきる力がないことは、僕自身が一番分かってる」


 幾度となく願った。自分に力があれば、と。でもそれは叶わない。アルスには絶対的な力はない。


 しかし、思ってしまったのだ。王になる、王になりたいと、いつの日か夢想したのだ。父親のような力はなくとも、いずれ自分も王になりたいと希ったのだ。


 だから。


「だから願うんだ。皆を守りきることは出来ないけど、僕にも出来ることで皆を助けたい。苦しくなった時に、立ち上がるための手を差し出せるような王になりたい。一人で倒すことの出来ない脅威に一緒に立ち向かえる王になりたい」


 思い出すのはあの日のこと。

 薄暗い宝物庫の中で、初めて〈アポロン〉と会った日のこと。


『貴方が願うことを、望むものを思って下さい。願いが正しければ、神は必ず力を貸してくれるでしょう』


 聞こえた声に従って、アルスは願ったのだ。たった一つ、アルスが望むことを。


 守ることは出来ない。そんな力はない。でもだとしても、アルスが願うこと。


 それは――。


「僕は――皆を支える王になる!」


 その時。


 もう一人のアルスはついにアルスと一つになる。


 ――真なる王が誕生する。

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