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1─2 神騎士学園

「――それで? 君はその男をどうするつもりだ?」


 神騎士学園〈フローライト〉、本校舎学園長室。

 その名の通り、この〈フローライト〉を統べる学園長の部屋である。


 学園長の部屋とだけあってかなり広い。軽い組み手くらいなら簡単に出来るだろうし、正直無駄ではないかと思えるほどだ。調度品も、例によって高級な物ばかりが置かれている。

 その中でも一際目を引く巨大な執務机。書類などが置かれつつも、しかし丁寧に整頓されている机の上に肘を立てて、指を組んでいる女性――いや、少女はレインを横目で見つつ言った。


 答えるのは、件の赤髪の少女。


「どうもこうもありません。憲兵に突き出すか、可能であれば私自身が罰を与えます。そうですね……死刑でいいでしょうか?」

「痴漢の罰でそれは重すぎないか!?」


 あまりに一方的かつ重すぎる刑に、少年――今なお鎖で厳重に縛られたレインは思わず声を荒らげた。


 そう。見事捕らえられたレインは、こうして学園長室に連行されたのだ。


「黙りなさい痴漢……いえ、罪人。執行官の決定に異論を唱えるのは許されないわ」

「もう執行官はお前に決定したの!?」

「――静かにしたまえ。ここをどこだと思っている」


 一喝したのは、部屋の主である少女。

 外見とはまるで違う老獪な口調が辺りに響いた。


 その薄い水色の髪は座っていれば地に着くほど長い。顔立ちはかなり幼いが眼差しには確かな意思の光が見え、静かな覇気を纏っている、その少女。

 いや、少女と呼んでもまだ適切ではないかもしれない。どちらかというと、幼女――。


「まさかとは思うが、私の外見から淫らな想像などしていないだろうな、レイン」

「し、してませんよ! ただ相変わらず幼――全然変わってないなと思って! ……お久しぶりです、ミコトさん。いえ、ミコト学園長」


 少女の名はミコト・フリル。〈フローライト〉の学園長その人である。


 外見は少女だが、実際の年齢は不詳。彼女自身も神器の使い手ではあるが、あまりの強さから普段の力の使用は禁止されているという。

 王に仕えることを打診されたこともあるほどの強者だ。しかし、それをにべもなく断ってこの〈フローライト〉の学園長に就いたらしい。


「ならいいが、何やら興味深い単語が聞こえかけたな。後で詳しく教えてくれ」

「…………」


 ――結局死ぬかもな。

 心の中でレインは思った。


「ちょ、ちょっと待ってください、学園長。この罪人を知っているのですか?」

「知っているも何も、彼をここに呼んだのは私だ。まさかその途中で痴漢に及ぶとは考えもしていなかったがな」

「だから違いますってば!?」


 レインの悲痛な叫びに、ミコトはわずかに微笑む。


「冗談だ。彼にそんな行動をする勇気はないよ、アリア。大方何か届けたい物でもあったんじゃないのか?」


 さらっと皮肉を混ぜつつアリアに問うミコト。そんな言葉に、アリアというらしい赤髪の少女は少し戸惑ったようだった。


「いえ、しかし確かにこの者は……」

「そうだな、例えば――部屋の鍵、とかか? レイン」

「そ、そうです……ってか、何で分かるんですか……?」


 正確に言い当てたミコトにレインは驚く。確か昔もこんな風に隠していたことを言い当てられた記憶があった。


「なに、ちょっと“視えた”だけだ。それより、確認してみたらどうだ?」

「鍵……? でも鍵はここに……あ」


 慌てたようにポケットを探るアリア。しかしその動きが止まる。鍵がないことに気付いたようだ。


「寮の前の道に落ちてたんだよ。ないと不便だと思って……」

「…………」


 アリアは何も言い返せず黙ってしまった。自分の行動が完全に早とちりだったと気付いたのだ。


「まあそういうことだ、アリア。怒りたい気持ちも分かるが、今回は退いてくれ」

「……はい」


 どこかまだ不満げなアリア。それを見て申し訳なかったなと思いつつ、レインは罰がなくなったことに安堵する。


「それより、だ」

 

 レインの耳が、ミコトの真剣さを増した声を捉えた。


「ここからが君をここに呼んだ理由、本題だ。と言っても簡単なことではあるがな」


 ミコトの言葉が場を切り替える。張りつめた空気が広がり、レインは背筋を伸ばした。


「汝、レイン・フォークス。君の〈フローライト〉への編入を推薦しよう。そのために今日、ここに来てもらった」

 

「……はい」


 わずかに緊張した面持ちで、レインは言葉の意味を反芻した。事前に伝えられていたとはいえ、やはり体が強張る。


 レインがここに来た目的。それは、この〈フローライト〉への編入をすること。


 本来、神騎士学園に入学するには、毎年冬の終わり頃に行われる選抜試験に合格しなければならない。基礎的な学力を計る学力試験に加え、体力試験や実技試験が行われ、その合計点によって入学者が決まるのだ。 

 しかしレインは今年の選抜試験を受けていない。そのため、普通なら入学するためには来年の選抜試験を待たなければならないのだが――。


「ま、待ってください、神騎士学園への編入なんて前例が――」


 思わず声を発したアリアに、ミコトは頷く。


「ああ、その通りだ。今まで一度もなかっただろうな、こんなことは」

「ならば何故ですか? 何故今回こんなことを?」

「…………」


 アリアの詰問にミコトは少しの間押し黙った。わずかに目を伏せ、逡巡するように机の表面を見つめる。

 しかしやがて決心したのか、ミコトは、レインとアリアを真っ直ぐに見て話し始めた。


「……悪魔デモンを知っているか?」


 投げかけられた問いは、この上なくシンプルで簡単なものだった。


「曰く、怪物。曰く、化け物。曰く、最悪の生物。まあ、今の世において知らぬ者はいないだろう。特に、“あの日”を経験した者はな」


 静かにミコトは語る。可愛らしい声なのに、そこには確かな重みと深刻さが含まれていた。確信、いや、経験か。瑠璃色ラピスラズリの瞳は、まるで昔を思い出しているような光と苦悩に満ちている。


 悪魔とは、神器が発見されると同時に各地に現れるようになった生物である。


 生態や起源などそのほとんどは謎に包まれ、情報はほぼないと言っても過言ではない。しかし、高い身体能力を持ち、個体や種族によっては知性すら持つと言われる。


 そんな悪魔の行動原理はただ一つ――人を殺すこと。


 『大厄災』がそれを証明した。

 故に“最悪の生物”とも言われ、人類最大の敵とされる。


「もちろん悪魔の存在は知っていますが……それが何か関係しているのですか?」

「その前に問おう。君は本当に悪魔のことを知っているのか? 例えば、今どんなことが起きているのか」

「え……?」


 戸惑うアリアにミコトは静かに言う。


「――悪魔の動きが、最近活発化してきているんだ」


 ミコトの言葉にアリアは、そしてレインも息をのんだ。


「……! それは一体――」

「言葉の通りだ。この頃、悪魔の目撃情報が極端に増えている。原因や理由は一切不明、加えて新種や強力な個体の発見も相次いでいるらしい。国境の周辺は、悪魔討伐で大忙しだそうだ」


 基本的に、悪魔がゴルジオン国内に発生することはない。

 理由は解明されていないが、地に眠る神器たちの力が悪魔を退けているとも言われる。そして逆に言えばそれは、悪魔が発生するとすれば国の外、国境の外側であるということ。

 そのため国境である神壁――外側はどこの国も統治していない公域となる――の近くには“国境騎士団”という特殊な騎士団が配置されているのだ。


 国境を守るための訓練を受けた彼らは、国の中でも、王に仕える“王属騎士団”に次ぐ実力を持つ。

 対悪魔に特化していて、当然全員が神騎士である。中には神器の使い手もいるらしく、総戦力はそこらの小国の全戦力を優に超える。国を守るという直接的な役割から国民の信頼も厚い。


 そんな彼らですら、苦戦するほどの悪魔たち。


 数だけではなく、一体一体の力まで増しているというのなら、その事実も納得出来ないことはなかった。


「このまま悪魔の活発化が進んでいけば、国境騎士団でさえ抑えられなくなるだろう。そしてここから先は私の勘だが……いずれ、第二の『大厄災』が起きる」


 重い響きが辺りに響いた。

 『大厄災』。

 かつてこの国で起こった惨劇。

 あんな悲劇は、もう二度と経験したくない。


「今、王国では、それらに対する力を求めている。もちろん〈フローライト〉の生徒たちもその候補の内の一つだ。……そしてレインも、そうなれるであろう力を十分に持っている」

「……この男が……?」


 アリアは怪訝そうに眉を潜めながらレインを見た。

 レインとしてもさすがに過大評価だと思ったが、ミコトは話を続ける。


「見縊らないほうがいいぞ。なめてかかれば君ですら負けるかもしれん。そこで、異例ではあるが〈フローライト〉への編入を推薦したんだ」


「――待ってください」


 しかしミコトを遮るように、アリアは声を発した。


「いくら何でもそう簡単にこの男を信用することは出来ません。朝のこともそうですし、私より強いかも知れないということもです。第一、そんな方法で入学を認めたならば、正当な努力をして学園に入学した者たちから不満が上がります」

「…………」


 学園長の決定を前にしてなお、アリアははっきりと言いきった。


 迷いがないどころか、むしろ威厳すら感じる姿。ミコトはアリアを真っ直ぐに見たまま沈黙する。


 口には出さないものの、レインも同じ気持ちだった。学園長の伝手があるからと言ってこんなやり方はおかしい。冬を待って、正々堂々入学するべきだ。


 ――けれど。


 それでもレインには、この学園に入らなければならない理由があった。

 


 思い出すのは“あの日”のこと。

 『大厄災』と呼ばれた、悪魔が全てを覆った日。

 あったのは、炎。悲鳴。怒り。恐怖。絶望。


 ――死。


 あの時見た光景を忘れたことなどない。ある訳がない。記憶を放棄する権利すら、自分にはないのだから。

 もう二度とあんなことは起こさせない。



 それは自分に課せられた責任であり、代償だ。全てを贖えるとは思わないが、そうすることぐらいしか自分には出来ない。

 

 そのためにここに来たのだ。


「……それでも」


 レインは唐突に口を開いた。自分でも、何故そうしたのは分からない。けれど自然と、レインの口は自らの意思を代弁する。


「それでも、俺はここに入らなきゃいけないんだ。卑怯かも知れないけど、ずるいかも知れないけど、何があってもここに」

「……どうして?」


 アリアの問いに、レインは答える。


「それが俺の――すべきことだから」

「…………」


 重い沈黙が辺りに広がった。

 説得するにはあまりに稚拙な言葉だと、レイン自身も自覚していた。ただ、それ以外に出来る術をレインは知らない。何故ならレインでさえ、言葉に出来る理由なんてないのだから。


「……ふふっ」


 ――沈黙を破ったのは、ミコトの小さな笑い声だった。


 少女は可愛らしい笑顔で、アリアとレインを見ていた。


「やはり君たちは面白い。学園長として君たちのことを誇りに思うよ。まさか私の前で、こんなにもはっきりと意見を述べられるとはな」


 純粋な尊敬が込められた言葉。優しい微笑みは、レインが彼女と初めて会った時のことを思い出させた。


「もちろん、このように意見が分かれることも予想していた。特にアリアあたりは反対するだろうとな。だからこそ、私は“推薦”と言ったんだ」

「……? どういうことですか?」


 アリアは首を傾げる。一方レインは、込められた意味を的確に理解した。


「つまり、俺の入学を納得出来ないというならば、納得させるまで……ってことですか」

「その通りだ」


 学園長がしたのはあくまで推薦。従って、レインはまだ〈フローライト〉に入学する権利自体を持っている訳ではないということだ。もしレインの実力が分からないが故に入学を反対するというならば、入学してもおかしくないほどの実力を示せばいい。


 と、言葉にすれば簡単だが、正直かなり難しい気がする。


 学園の選抜試験で合格するにはかなりの能力が必要とされるらしく、自分が条件を満たしているかが不安だ。そもそも力を示す手段がない。試験をやる訳にはいかないだろうし、中途半端に示しても納得されない恐れがある。


「この男の実力を試すというのは分かりました。しかし、どうやって……?」

「簡単なことだ。模擬戦を行い、レインが勝てば良いだろう」

「うえ!?」


 そんな問題に対して提案された解決法は、ひどく単純だった。


「一番手っ取り早いだろう? 選抜試験でも学力などより実技試験の方が重要視されている。いくら知識があっても、体が動かないのでは悪魔には勝てんからな。そういう意味では、模擬戦は力を示すのに最適だと思うが?」


 さも当然という風にミコトは言う。


「なるほど、確かに理には適っていると思います。しかし誰が相手を?」


 アリアも、ミコトに同意するように話を進める。


 ――何故そんなにやる気があるのか。というか、それでいいのか?


 疑問に思いつつ話を聞くレイン。


 てっきりアリアが反対すると思っていたのだ。学力とかも全部やるべき、とか言いそうだったが、意外と戦闘力を気にしているらしい。

 まあ多少不満は残るものの、それで入学が認められるならばやるしかない。レインはそう思っていた。


 だがそんな時である。ミコトから、とんでもない提案がされたのは。


「相手、か……。そうだな、君がやれば良い。アリア」

「はあ!?」


 思わず声を上げたのは、アリアではなくまたしてもレインだった。


「な、何でこの人と!? よりによって――」

「アリアは学園でもトップクラスの成績上位者だからな。相手にとって不足はないだろう」

「相手より俺的に不足ですよ! 神器使いになんて……」

「どうした、怖じ気付いたのか、レイン。人相手に勝てない状態で、悪魔に臨もうと?」

「……っ!」


 ――カチン、と。


 ミコトの挑発ともとれる言葉に、レインは見事に反応してしまった。


  まあ確かに学園長の言うことにも一理ある。これからも悪魔と戦うというなら、せめて神騎士には勝てるようにしておいて損はない。

 さらには、アリアがそこまでの実力を持つならば、それに勝つことで確実に実力を示せる。


 ――と、後々理由を後付けする訳だが、この時のレインは反射的に動いてしまった。


「いいですよ、それで。俺が入学出来るなら文句はありません」


 そして、この判断が間違っていたとすぐ後に気付くのだ。


「よし、よく言った。アリアはどうだ?」

「もちろん異論はありません。決まりに則って、合法的に――」


 ふと何気なくアリアを見たレイン。


「……っ!?」


 その背筋を、ゾクリと悪寒が走った。何故なら。


「――この男を叩き潰せるなら、どんな方法だろうと構いません」


 赤髪の少女が、凄絶な笑みを浮かべていたから。


「期待してるわ。私にも勝つという実力を」

「……っ」


 今の今まで完全に失念していたが、このアリアという少女は恐らく心の底からレインを恨んでいる。理由など言うまでもない。


 ――もしや、このために模擬戦に賛成したのか。


 今更ながら、レインはアリアの真意に気付く。

 アリアが学園長の提案に同意したのは、自らがレインを裁くため。同時に、学園への入学を阻止するため。


「…………」


 レインのこめかみの辺りを、ツーッと冷や汗が流れた。

 そんな凄まじい態度で互いを見るアリアとレイン。

 それを眺めながら、ミコトは微笑んでいた。


「よしよし、話もまとまったな。では早速始めようじゃないか。レインの入学試験を」


 嬉しそうに話すその様子からレインは確信する。ミコトまでこれを狙っていたのだと。


 確かに一番簡単な方法ではある。面倒な手続きもいらないし、何よりミコト自身が何もしなくていい。日々仕事に忙殺されている学園長としては、最も楽な方法だろう。


 ――けどだからって投げっぱなしはどうなんだろうか。


 実際に神器使いと戦うこちらの身にもなってほしい、とレインは思う。いや、ミコトならば、それぐらい大した難題ではないのだろうけど。


「さすがにここでは何だし、せっかくの機会だ。闘技場で行うことにしよう。観客……まあ、生徒たちも集められるしな。君の入学を承認してもらうためにも頑張りたまえ」

「ひ、人前でやるんですか!?」

「当たり前だろう。君の実力を見せるためには実際に戦っているところを見てもらう方が早い。勝ったと言っても、信じない連中が出ることも十分考えられるからな」


 平然とミコトは言うが、レインとしてはもはや冷や汗が止まらない状況だ。

 神器使いと戦うだけでも既にまずい状況なのに、ましてや観戦されるなんて――。


「では準備もあるだろうから、三十分後に闘技場に来たまえ。私も行くからな。話は以上だ、帰っていいぞ」


 ミコトは簡潔に話を締めくくった。


「分かりました。では、失礼します」


 アリアは最後に軽くレインを見てから、颯爽と学園長室を立ち去った。


 だがレインは動けなかった。というより、動きたくなかった。


「ミコトさん……。何であんなことを……」


 ため息を吐きつつレインはミコトに問うた。

 ミコトは微笑みながら答える。


「ここでは学園長と呼べ。お互い、前のように気軽な立場ではないならな。全く、随分とたくましくなったものだ」

「たくましくって……」


 言われてレインは自分の腕を見る。そこにあるのは、同年代の少年よりも細いだろう白い腕だ。剣を振るには、どう考えても貧弱に見える。


「体のことではないよ。体はあの時から十分に強いだろう。私が言っているのは心のことだ」

「心……?」

「私には分かる。君がどんな決意をしてここに来たのか。どんな想いでここを目指したのか。その心の強ささえあれば、こんな試験、とるに足らないものだろう?」

「……そう、ですかね」

「ふふ。ならば聞こうか。君は何のためにここに来た?」

「…………」


 突然の問いにレインは少し沈黙する。

 それでもすぐに。


「……強くなるためです。強くなって、守れるように。俺が守りたいと思った何かを」

「うん。そのためにも、まずはこの学園に入らなければな」


 ミコトは全てお見通しというように微笑みながら頷いた。


「それに、そもそも私は試験の結果など案じていない。君ならやり遂げる。例え相手があのアリアだろうとな。一応試合前に言っておくが、アリアは強いぞ」

「……でしょうね。見れば分かります」


 あの覇気、あの剣、あの姿。剣を実際に交えなくとも、見るだけで相手の実力は分かるものだ。レインの今までの経験からして、あの少女は間違いなく強い。


「だが君が負けるとは思えないな。あれだけのことを成し遂げた君なら――」

「やめて下さい。もう昔のことです」


 ミコトの言葉をレインは遮る。


 “あれ”は、決して褒められることではない。むしろ軽蔑され、蔑まれるべきことだ。そのことについてレインが感謝されることなどあってはならない。

 だからこそ、今度は。次こそは、間違わない。

 そんな力を得るために、ここに来た。


「そろそろ失礼します。準備もあるので」

「ふふ、相変わらずだな。まあ頑張りたまえよ。君の願いを叶えるために――」


 部屋を出るべくドアに向かって歩き出したレインに、ミコトは言った。


「――本当の“勇者”になるために」

 

 苦笑しながら、レインは学園長室を出た。

 向かうは闘技場。

 負けられない。負けてはいけない。

 そんな勝負のために――。

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