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2―4 知っていること全部

 ――五戦五敗。盛大にミーシャに叩きのめされ、アリアは片膝を舞台リングに突いて荒く息を吐いていた。


 ミーシャに肉薄するような惜しい場面さえなく、一方的に蹂躙されたと言っていい。〈ヘスティア〉が火力を武器にしていると割れた時点で、ミーシャがすぐに対策をとったからだ。


「大丈夫? ちょっと休もうか」


 疲労困憊のアリアに対し、息一つ切れていないミーシャ。差し出された手を強く握り、アリアは立ち上がる。

 ミーシャが何かを詠唱すると障壁は消え、アリアたちは舞台の端に腰かけた。


 神器は人間の異能を引き出し、神能という超常の力を与えるほか、人間の身体能力をも引き上げる。逆に言えば聖具からはそのような神器の加護を得られないということだ。つまり、ミーシャは素の力でアリアと渡り合っている……否、凌駕しているのである。


 アリアとミーシャ、体格に大きな差は見られない。一体どこに違いがあるのかとアリアは疑問に思った。


「ミーシャさんは、何か特別なトレーニングでもしてるんですか? 神器の加護なしでそれだけの身体能力を得るのは難しい気もするんですけど」

「んー? 別に身体を鍛えるために何かしてる訳じゃないよ。もちろん最低限の鍛練はこなしてるけど、ずば抜けて多いってこともないだろうし。それに、純粋な身体能力なら多分アリアさんの方が高いんじゃない?」


 言われてアリアは首を捻る。模擬戦においてミーシャはアリアと同等に動き、斬り結んでいた。体力面でアリアの方が有利だったとはとても考えられない。


 しかし、ミーシャは、


「アリアさんは自分の能力を最大限引き出せてないんだと思う。いつも身体のどこかに余計な力が入ってるね。――何かに焦ってるでしょ」


 完全な図星。アリアの拍動が一瞬速まった。


「強さへの執着心が自分を縛ってる。言いたくないなら無視してくれていいんだけど、どうしてアリアさんはそんなに焦ってるの?」

「…………」


 刹那、アリアは黙っていようかとも思った。個人的な問題は騎士団の輪を乱す。アムルにもそのことを指摘されたばかりで、ここで言うべきではないと考えたのだ。


 だが、敢えて聞いてくれたミーシャを無下にはできないとも思った。親身に接してくれる先輩を一蹴するほどアリアは無礼ではない。

 それに、見知った仲間たちには絶対に聞かれたくない弱音も、出会って間もないミーシャだからこそ聞かれてもよいと思えたのだ。


「……助けなきゃいけない友人がいるんです。少しでも早く近付かないと、どこまでも離れてしまう気がして。そのことを考えると、じっとしてられないというか…………」


 レインに関する情報については箝口令が敷かれている。そのため重要な部分をぼやかした抽象的な表現になってしまったが、これはアリアの紛れもない本心だ。レインを失った今、猶予はない。

 しかし、他人にはあまりにも迂遠な表現だったことに気付き、アリアは俯く。こんな理由を語ったところでミーシャには何も分からないだろうに。


「そっか。やっぱりあなたも誰かのために頑張れる人なんだね」


 だが、ミーシャは何も聞き返すことなくアリアを認めた。


 適当に返事をしただけなのだろうか。いや、それにしては実感がこもった言葉だったようにアリアは感じた。何かの答え合わせが済み、納得した響きがミーシャの声にはあった。


 その真意が気にはなったが、先輩相手にずけずけと直接聞くことはできず、代わりにふと思ったことをアリアは聞いた。


「ミーシャさんはどうして“王属騎士団”に?」

「私? 私は……………………騎士団に支えたい人がいたから、かな」


 視線を伏せ、足をぷらぷらと振りながら、長い沈黙の後にミーシャはぽそりと呟いた。先程までの溌剌としていた様子は鳴りを潜め、どこか幼いそぶりを見せるミーシャにアリアは少し驚く。


「その人は今も騎士団にいるんですか?」

「まあ…………そうだね」

「ちなみに、どうして支えたいと?」

「うえ!? いや、まあ…………昔の話になるんだけど」


 そこでミーシャはどこかの虚空を見遣り、懐古して語る。


「私も神騎士学園ディバインスクールの生徒だったんだ。第一街区の〈マリノシス〉に通ってたんだけど、『大厄災カタストロフ』のときに悪魔デモン討伐に駆り出されてさ。当時から強化聖具は使ってたし、神器使いには及ばなくても下位級ロウには遅れをとらない自信はあった。けど……戦場の空気っていうか、雰囲気に呑まれてヘマしちゃって。あ、死ぬかもって思った瞬間にその人に助けられたんだ」


 ――どこかで聞いたような話だなとアリアは思った。とある少女も『大厄災』で少年に命を救われ、その少年を想うようになったのだ。もしも少年があの場にいなかったら、少女はきっとここにはいない。


「悪魔から皆を守るために武器を持ったのに、助けられてることが悔しくて、自分の弱さに絶望して……でも、その人から言われたんだ。『諦めさえしなければ、成長できない者はいない』って。それがすごく……その、かっこよくてさ。だから、憧れとかじゃないけど、その人に近付くにはどうしたらいいかなって考えたら、騎士団ここに入るのが一番手っ取り早かった。私もアリアさんと同じで、ある意味個人的な理由で入団を決めたの」


 懐古から我に帰り、ミーシャは腰に吊る聖具へと視線を向ける。


 ミーシャの経験やそこから生じる思いは、アリアが抱いたそれとは全く異なるものなのかもしれない。しかし、アリアは自然とミーシャの境遇を自分に重ねていた。

 ゆえに、思わず口からこぼれていた。


「大切に思ってるんですね。その人のこと」


 刹那、ミーシャは動きを止め、数瞬沈黙した後に猛烈にまくし立てた。


「べ、別に? これはただ単に恩返しというか借りを返したいだけで、そもそもその人を特別意識してる訳でもないし。入団してから結構経ってるのに気付いてもらえないからって何とも思ってないしね。別に。全然。これっぽっちも」

「…………」


 「あぁ……」とアリアは察する。恐らく、自分はこの人に似ているんだろうな、と。アルスやシャルレスは、いつもこのようなアリアを見ていたのだろう。

 そう思うと何とも言えない恥ずかしさを感じ、アリアも視線をわずかに伏せた。改めて客観視してみると、想像以上に自分が単純な人間に思えてしまったのだ。


 ひとしきりの自己弁護を終えたミーシャは深く息を吐くと、周りには誰もいないのに、小さな声でアリアの耳元に囁いた。


「…………このこと、他の誰にも言ってないから秘密にしておいてね。初めて入団理由を聞かれたときだって適当に誤魔化したんだから」

「……なら、どうして私だけに教えてくれたんですか?」


 アリアの疑問に、ミーシャは悪戯めいた微笑みを浮かべて答える。


「他の人のことを知りたいなら、自分のことだって知ってもらわなきゃ対等じゃないでしょ?」

「―――」


 その言葉を聞いたとき、何かがストンとアリアの腑に落ちた。


 ――知りたいなら、知ってもらわなきゃ。


 そうだ。そうだったのだ。どうしてそんな簡単なことを忘れていたのか。


 周りを見渡しているようで、実のところアリアには何もできていなかった。近付いてきてくれないならば、こちらから近付けばいいだけではないか。遠慮や躊躇などは無視してでも突き進むのがアリアという人間だっただろうに。


「さて、時間も時間だし、そろそろ切り上げようか。続きはまた明日だね。私でよければ修練にはいつでも…………アリアさん?」


 腰掛けていた舞台から降りたミーシャが呼ぶ声で、アリアは我に帰った。不思議そうな顔でこちらを見つめているミーシャに謝りつつ、アリアも舞台を降りて後を追う。


「ミーシャさん」

「ん?」


 修練場を出る直前、アリアは真っ直ぐにミーシャを見据えて言った。


「ありがとうございます。おかげで大切なことに気付けました」

「……? 私、何か大層なこと言ったっけ?」


 首をひねるミーシャにもう一度礼をして、アリアは自室へと向かった。


 自信に満ちた傲岸不遜な足音が、廊下に響き渡っていた。


  ***


 日々の事務作業、訓練、そしてミーシャとの修練。休日二日を挟んでその全てをこなすこと三日。


 入団からちょうど一週間後――約束の期日を迎え、規定の訓練を終えたアリアは、アムルの前に立っていた。


 他の団員は全員修練場から出ていったが、ミーシャだけはこの場に残り、少し離れたところに立っている。離席しようとしたミーシャをアリアが引き留めたのだ。この一週間、最も親身に接してくれたミーシャには、結末を見届けてほしかったのである。


「約束の期日だ。答えは用意できたか?」


 獣のように太い腕を組み、仁王立ちするアムル。面と向かって立つだけで感じる圧倒的な覇気に、しかしアリアは動じない。

 問いに対してアリアがこくりと頷くと、アムルは表情を微塵も変えずに言葉を継ぐ。


「……では、答えを聞く前に、問いの意図を伝えておこう。お前も実感しているだろうが、神器使いの価値は神器の力をどれだけ引き出せるかによって決まる。限界まで引き出すには、神器への理解が必要不可欠だ」


 神器とは、神が宿る武器。しかし神は誰にでもその力の恩恵を振りまくものではない。神器を手にし、認められた者にのみ、その力を振るうことが許されるのだ。


 ならば、神に認められた段階で神器使いは極致に至るのか――答えは否。〈顕神デュオライズ〉を体得する者とそうでない者に分かたれる事実が、まさしくそのことを証明している。あるいは、アリアが認識しているように、〈顕神〉を実現してもなお埋まらない極致との隔絶が存在するのだ。


 その差とは何か。隔絶に座す門が開く条件とは何なのか。


 それこそが、神器、ひいては神器に宿る神への理解だ。


「ゆえに、お前が持つ神器への理解を問う。これまでの経験から、お前が神器の何を学んできたのか、それを俺に示してみろ」


 アムルが確かめたいのはアリアの素質。神を理解する――その意味を正しく捉えられているのか、捉えられる可能性があるのかを量るための問い。


 ヘスティアについての知識や情報などどうでもいい。そんなものは重要ではないのだ。もっと本質的で、神器の核心に迫る“何か”さえあれば、それでいい。


「…………私が〈ヘスティア〉について知っていることは」


 アムルの問いに対して、アリアは身動みじろぎ一つせず、アムルを見据えたまま言った。


「一つもありませんでした」


 一瞬、場を静寂が包んだ。


 離れて聞いていたミーシャは耳を疑った。何かを聞き間違えたのかと思ってしまうほど、アリアの答えは堂々としていたのだ。


「……思考を放棄したか? あるいは、追求を諦めたのか」


 アムルは静かに問う。少しでも答え方を誤れば爆ぜてしまいそうな緊張が場に漂った。


 それでも、アリアは恐れず、萎縮せず告げる。


「諦めてはいません。しかし、直接話すこともできなかったヘスティアを私が語れば、それは虚偽……いえ、想像でしかありませんから。なので――」


 アリアはアムル相手に傲岸不遜に微笑んで、〈ヘスティア〉を抜剣し、目を瞑った。


「我が身に顕れよ、焔と共に」


 〈ヘスティア〉を焔が包み、アリアの意識は精神世界へと沈む――




 ――不思議な世界だ。何も見えない闇に包まれているはずなのに、自分の体の輪郭を知覚できる。見渡せるはずはないのに、どこにも壁や天井がないことが分かる。唯一、継ぎ目のない床だけが無限に広がっている。


 そして、視界の中央、歩いて五歩先に何者かが座っていた。


 両足を横に揃え、片腕を床についた、女性らしいたおやかなシルエットが浮かび上がる。こちらに背を向けているのか顔は見えず、床につくほど長い髪が特徴的だ。


「ようやくここに通してくれたわね。待ちくたびれたわよ」


 辺りを見回しながらアリアは女性へと近付く。初めて見るはずのその女性が何者なのかは、直接目にする前から分かっていた。


「……貴女は誰?」


 一方で女性はそんなことを聞いてきた。高貴、妖艶、そんな表現が当てはまる声だ。


 女性のあまりにも素っ頓狂な質問をアリアは訝しんだ。


「はぁ? 別に今さらそんなこと聞かなくても…………」


 と、口にしてからアリアは気付く。

 そうだ、こうやって省略してはいけないのだ。いつもアリアは無視してきてしまった。知りたいと思い続け、それに執着して、知られることを怠った。だが、本当に対等でいたいと思うのなら――


「……いや、そうよね。私はアリア。貴女のことをもっと知りたくてここに来たの」


 ――知ってもらわなくては意味がない。例え相手が馴染んだ顔だったとしても、もう一度。正しく理解してもらうために何度でも、丁寧に、知ってもらうのだ。


 女性は、ふふ、と笑った。


「私の情報は安くないわよ?」

「強くなれるなら何だってあげるわ。だから……全部、教えて」


 振り返った女性の顔は髪に隠れてよく見えない。だが、彼女が何者なのかさえ分かっていれば、そんなことはどうでもよかった。他ならぬ本心を秘めた言葉だけを返して、アリアは女性が差し出した手に触れる。


 瞬間、燃え盛る焔の煌めきが、触れた手を介してアリアへと流れ込んだ―――




 ――〈顕神〉。それは人の身をもって神を体現する神器使いの奥義。真に極まった〈顕神〉は自我を持つ完全なる神の顕現を実現させる。


 アムルの眼前に顕現したのは、まさしく神そのもの。


『私はヘスティア。主の命に従って、貴方の質問を許すわ。私の何を知りたいのかしら?』


 脳裏に直接響く声。凄絶な笑みを浮かべたアリア――否、その肉体を得たヘスティアの声が、空気を介さずにアムルへと伝わる。


 「私はヘスティアのことを知らない。だから本人・・に聞け」。それが、アリアが提示する“答え”なのだ。


「……ふっ、はっはっは!」


 アムルは初めて相好を崩し、大きく口を開けて豪快に笑った。これまで副団長補佐を務めてきたミーシャも数えるほどしか見たことのない、混じり気なしの純然な笑いだった。


「ははっ、もう十分だ。主と変わってくれ。彼女に用がある」

『そう? ならいいけど、主をぞんざいに扱うのは許さないわよ』

「約束しよう。どうやら彼女は、俺たちにとっても大事な存在のようだ」


 アムルの返答が気に召したのか、ヘスティアは誇らしげに笑ってから目を瞑った。


 しばらくして彼女が目を開けたとき、そこに神の気配はない。


「私は……合格ですか……?」


 弱々しいアリアの声。体が震えているのは不安からではないだろう。


 返事を聞くまでは倒れられないと、半ば意地で立っているだろうアリアに、アムルは心なしか笑みを浮かべて穏やかに告げた。


「合格だ。明日の修練以降はここに残れ。俺が教えられるだけのことは教えてやろう」


 アムルのその言葉が引き金になったかのように、


「よかっ、た…………」


 前のめりに崩れ落ちるアリア――その肩をアムルが支える。


「ミーシャ」

「は、はい!」


 呼ばれたミーシャが素早く駆け寄り、アリアの背と両膝の裏に手を回して抱き抱える。聖具使いとはいえ、鍛えあげられた騎士であるミーシャは軽々とアリアを持ち上げた。


 腕の中のアリアは気を失っているのか、ぴくりとも動かなかった。


「医務室へ運んでやってくれ。恐らくは初めての完全な〈顕神〉だ。体にかかる負荷は相当のものだったのだろう。それをこの場でやってのけたのには恐れ入ったがな……」


 アムルが珍しく嘆息を漏らす。ミーシャも全くの同感だ。


 完全な〈顕神〉を実現する手段は、神器が発掘されるようになってから今に至っても、いまだに解明されていない。〈顕神〉のプロセスが神器に宿る神に依存するために、画一的な手段では神に認められるのが困難だからだ。逆に言えば、完全な〈顕神〉を成し遂げられるかどうかは究極的に本人の素質に左右されるということである。


 その点で、アリアは完全な〈顕神〉を成し遂げ、歴代の“王属騎士団”でも数少ない、神の目醒めを体験した騎士になったのだ。


 アリアを運ぶミーシャに、アムルも手当てを受ける際の事情の説明のために同行する。医務室への道すがら、ミーシャはふと思ったことを口にした。


「……アリアさんが初めて挨拶に来たとき、『大成する可能性のない者に無意味な時間を投じるつもりはない』って言ってましたけど、嘘ですよね、あれ」

「どうしてそう思う?」

「どうしても何も、『諦めさえしなければ、成長できない者はいない』って言ってたじゃないですか。この若さで神器に認められたアリアさんなら尚更ですよ」

「…………」


 アムルはちらりとアリアを横目に見る。その瞼が閉じられ、意識がないことを確認してから、幾分小さな声でアムルは語った。


「……これは持論だが、意思さえあれば人は前へ進める。死すら恐れない強固な意思があれば、進化する可能性が尽きることはない。その上で、こいつは俺の〈神威カムイ〉を弾いた」


 アムルが纏う特殊な気配――それこそが〈神威〉だ。アムルを上位者と認識した瞬間に、対象は雰囲気に呑まれ、一切の自由を失う。拘束の本質は「抗えば殺される」という死への恐怖だ。〈神威〉はこの恐怖を特異的に増幅し、無意識に対象を縛る。


 異能や神能の類いではなく、あくまでアムルが持つ常軌を逸した気迫に由来するものであるため“無属オリジン”での対処は不可能だ。抵抗するには、本能的な死への恐怖を克服する必要がある。


 つまりアリアは純粋な意思のみで、死への恐怖を抑え込んだのだ。


「目標に貴賤はない。『人を助けたい』、『金を稼ぎたい』、『人に好かれたい』……どれも、立場や関係で意味は変わる。真に見るべきはその意思の強さのみだ。甘い意思ならばそこまで、真に叶えようとする意思だけを俺は信じる。こいつならば、何かしらの確信を俺に抱かせてくれるとは思っていた」


 いつもの仏頂面のまま、アムルはそう語った。


 やれやれとミーシャはため息を吐く。結局のところ、アムルは初めて会ったときからアリアの素質を見抜いていたのだ。しかしそれを確かめるために、わざわざ手間と時間をかけてアリアの覚悟を問うたのだろう。


 相変わらず面倒な上司だ――とミーシャがアリアの今後を案じたとき、「それに」とアムルは言葉を継いだ。


「目標や目的など、口先だけで何とでも言えるだろう。違うか?」


 横目でアムルが見たのはアリアではなくミーシャ。ぎくりとしつつも平静を装うミーシャだが。


「俺が覚えているかぎり、『諦めさえしなければ、成長できない者はいない』なんて言葉を吐いたのは『大厄災』のときぐらいだ。お前の情けない顔と一緒によく覚えている」

「あ、あのときは別に少し混乱してただけで情けない顔なんか―――え?」


 アムルの言葉に違和感を覚え、意味を反芻すること数秒。


 全てを理解しミーシャが赤面するのと、医務室に着いたアムルがその扉を開けるのは、ちょうど一緒だった。

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