95.あの街一番に
俺はフラフラと歩き回りながら、森の中を探し回った。
「…サラ」
いくら流れても、俺の目から水は止まらない。
「………サラ」
これ以上、何があるんだ。
「……………サラ!」
これ以上、俺の大切な物は…あるのかよ。
「うっ…」
俺は木の根に引っかかって、すっ転んでしまった。腕の傷が、転んだ衝撃でえぐれてしまう。
その痛みで、自分が残念ながら生きていることに気がついた。
…死にたい。サラを守りきれなかった俺に、何の価値があるのだろうか?
「アンドリューさん…」
俺に手を差し伸べた彼女は、俺の愛した人間じゃない。
「…じゃま」
ロザリーの手を払いのけ、怪我をしなかった方の腕を使って、立ち上がる。どくどくと波打つような血の動きに、また悲しくなってくる。
「…サラ」
俺はまた歩き出す。
「アンドリュー。もうやめろ」
「…」
「アンドリュー」
「…」
「アンドリュー!」
クレイグの怒りの声で、俺はやっと動きを止める。
「お前、大丈夫か?」
俺は震えながら、首を垂れた。大丈夫な訳…ねーだろ。
クレイグが貧乏ゆすりをして、俺に怒鳴った。
「現実を見ろよ!サラは死んだんだ!!」
「…んなわけねーだろ」
「全部受け入れろよ!」
「受け入れられるかよ!?」
思わず俺はクレイグの胸ぐらをつかんだ。俺の腕には全然力が入らず、彼に恐怖の何にも与えることができない。
俺…どんな顔をしているんだろう?捨て犬みたいな顔で、ガキみたいな顔で…ぐしゃぐしゃなんだろうな。
「アンドリュー。帰れ」
「…え?」
「今すぐ帰って、治療してもらえ。死ぬぞ」
「…死んでもいいよ」
「よくねーよ!」
クレイグが拳を振り上げたかと思ったら、震えながら静かに手を下ろした。彼は左を向いて顔を隠しながら、歯ぎしりをしだした。怒りが…奴から止まらない。
「帰れ。今すぐ」
俺は頭をふらりと揺らしながら、森から出て行った。
人間というのは、頭が真っ白になったとしても、目的ができたら一応行動する生き物らしい。
俺に、『死に場所探し』という目的ができた。
俺にはもう何もない。
生きる意味も、価値もない。
サラはどこへ行ったんだろう?
城?みんなで暮らした部屋?
…いや。違う。見当は、簡単についていた。
あの街一番に、太陽が挨拶する場所。
丘に登ると、なぜか心臓がドキドキしていた。
違っていたらいい。俺の予想が…外れていたらいい。
そう思って登って来たのに…
アリスのような水色のドレスと、真っ黒なタキシードが、脱ぎ捨てられたように雑に置いてあった。
俺はそっとドレスを触った。灰色の粉が、ほんの少し俺の膝にかかった。
「…終わったんだね」
彼女のドレスを、ぎゅっと抱きしめた。
…こんな風に、もっと抱きしめたらよかった。もっと、彼女と一緒にいるべきだった。
あの時、止めるべきだった。
走馬灯のようによみがえる彼女との思い出。笑った日も、泣いた日も、怒った日も、全部全部美しい色で染まっていた。
彼女のおかげだ。こんなに幸せな…日々を過ごせたのは。
俺はドレスを置くと、剣を取り出した。
大きな剣は、人を斬るのには向いているが、自殺には向いていない。
俺はゆっくりと首筋まで剣を持っていく。冷たい…俺は、結局一人なんだ。一人で死ぬんだ…
その時、俺は悲しいことに気がついてしまった。
俺の大切な人は…みんな不幸になるんだ。
父さんも、母さんも、シャーロットも…サラも。
いつもいつも、俺の後ろには死神がいて、一度でも大切に思った人は死んじゃうのかな?
「…へへ。じゃあ、死んじまった方がいいじゃん」
俺が息を吸って覚悟を決めた瞬間だった。
風が吹いた。
『やめて。アンドリュー』
懐かしいあの声。探し求めていた…あの声。
「サラ!」
後ろを振り向いた瞬間、俺の手から剣が滑り落ちる。




