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黒から私は色を作る  作者: 西川 涼
最終章
92/97

92.幼い

 クレイグがサタンめがけて銃をぶっ放す。

 しかし、奴は上空、クレイグは地面。バリアーしか撃てられない。だんだんイライラしだす彼は、ちょっとずつ標的がずれていってしまう。

 まずい…こいつ、いつになったら降りてくるんだ…!


 バタン。


 前方で、アリスのような服装の女子がこけていた。

 サラ…!早く…早く逃げろ!


「もーいーかーい?」

 甘ったるい声に狂気が混ざり、彼女たちに恐怖を与える。実際、二人とも涙目だ。


「クレイグ!」

「わかってるよ!」

 相棒はサタンの耳を狙って銃を放った。

 音もなく落ちたやつの右耳は、どす黒い血にまみれていた。

 そして一瞬、彼の黒煙が薄くなる。


「…じゃーま」

 黒がぐらりと動いて、真っ赤な目がこちらを睨んできた。

 …赤い目が陽炎に見える。ゆらっと揺れた彼の眼。その目から現れる殺気に、俺は思わず動揺してしまう。

 意識が俺の方に向いている隙を見て、サラたちがサタンの右から逃げていく。

 しかし、サタンは一度も振り向いたり、反応したりしなかった。

 もしかして、あいつ…


「…聞こえていない?」

 サタンが面倒くさそうに、右耳を拾う。一切表情を変えずに、もともとあった場所に右耳をあてる。

 グチャっと音を立てながら、耳を引っ付けた。

 …魔術。でも、一時的に、聴覚を潰すことができる…!?


「クレイグ。これ、使えるぞ?」

「あ。同じこと思った」

 彼は宝石のようにキラッと目を輝かせ、ニヤリと笑いかける。クレイグは…勝算しかないという顔をしていた。


「飛ぶ前にやれ」

「了解」

 クレイグが左腕を曲げて、右腕をまっすぐにして銃を構える。


 パアアン。


 飛んだ。奴の左耳が、空へ飛んだ。

 今だ!


 俺は走り高飛びをするように、左側から攻撃にかかる。

 サタンが俺の方を向いた。でも、片耳が聞こえていないから、足音にほんの少しだけ時差が出る。俺の力を存分に発揮すりゃあ、負けるわけねえ!


 カン。


 あー。受けられちゃった。

 でも、これで…


「…ちゃんと戦える」

 クスリと笑ったあと、俺は距離を詰めながら、攻撃していく。

 クレイグが右耳を飛ばした。これで、音は聞こえない…!

 さすがに動揺したんだろう。黒煙がさっと薄くなる。


 俺は一点に絞って攻撃する。あっちは二刀流で応戦するが、俺が隙を見せなきゃ問題じゃない。

 それに…音が聞こえないから、俺の気配にも…クレイグの気配にも感じることはないだろう。

 彼はそっとサタンの後ろへ、全く殺気を漂わせずに動く。


「うっとうしい…」

「だったら、返してみろよ!!」

 彼の腹へ向けて、突きをする。サタンは避けながら俺の足元を狙うが、小さく飛び上がって片方の剣を落とす。…剣が一本に減った!

 俺がふっと笑った瞬間、サタンからの黒煙が増えていった。もくもくと増えていき、さっきサラに怒った時と同じぐらいの煙が現れる。


「…死ね」

 久しぶりに、サタンの声がクリアに聞こえた。これって…やばい!

 すっと俺の腕を切ろうとする。避けようとしたが…間に合わなかった!


「ぐはっ…!」

 腕が切られはしなかったが、さっきよりも、深い傷。いっだ…

 毒が回るのを感じる。心臓の鼓動が、俺の死を急がせる。


 パン。


 クレイグがサタンの脳天を撃とうとしたが、さらりと避ける。どうして…聞こえないはずなのに!

 瞬間移動みたいなつむじ風が起こり、戻ってくると耳が戻っていた。これ…ガチだぞ?


「くっそ…!」

「アンドリュー、やめろ!」

 俺は左手で剣を握り、悪魔を切ろうとした。

 なのに…なのに、黒煙が俺の目の前に捲き上る。彼が真剣な目で俺を睨んだかと思うと、恐ろしい笑顔をした瞬間に、黒煙が俺に襲いかかってきた。


「…え?」

 黒い煙は俺を宙に飛ばし、木にぶつけた。

 全身にやってくる、電気のような痛み。


 その痛みは、自らの幼さを感じさせる。

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