91.根本的に違う
「なぜだ…」
サタンの周りに、また黒い煙がもくもくと現れる。ゾンビのような立ち姿で、彼は私に赤い目を向ける。
「なぜ、その男なんだ!別に、俺とそうそう変わらないだろ!?」
憎悪と悲しみ。煙の隙間からギリギリ見える彼の顔は、そんな黒い感情でぐちゃぐちゃになっていた。
彼の目から、黒い水が溢れてくる。どういうこと…?
「アンドリューと俺。あいつより、俺はちゃんとした言葉遣いをしている!俺はあいつより、背も高い!かっこいい!なのに…なのに…!」
アンドリューの顔が、少しだけ歪む。イラっとした彼は、剣を握り直して戦おうとする。
「やめて」
私が制すると、彼は少し落ち着いて後ろへ下がった。
一歩前に出て、私は深呼吸をする。
「アンドリューとあなたは似ていると思う」
私はちらっとアンドリューの顔を見た。
「でもね。それは幻想だと思うの。鏡に映った…幻想。実際は右も左も違う」
サタンの黒煙が、少し薄れて、膝から崩れ落ちた。
「アンドリューは私を見てくれている。でも、あなたはオディールとしての私しか見ていない。根本的に違うの。だから…諦めて」
私が冷たく言い放つと、アンドリューとクレイグが私の前に立った。
赤髪の彼が、私に喋りかけた。
「いいか?戦いが始まったら、絶対逃げろ」
「なんで?さっきみたいに…」
「そうじゃなくても、絶対さっきみたいになるよ」
ぼそりと呟いた彼は、小さな舌打をした。…余裕がないの?
「あいつ…意地でもサラを奪いにくるぞ」
「え…?」
サタンの涙が、地面にポツリと落ちた。その瞬間、大きな池のように地面に黒が侵食し、そこからさっきよりも多くの黒い煙が出てくる。
「…憎い」
私はそのセリフにハッとした。…さっき、私が呟いた、あのセリフに。
「憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い… !」
サタンの赤い目がギロッと光ったかと思うと、その煙はサタンを包み込み、体の形に沿って巻きつかれていく。
「真っ黒…」
私は小さく呟いた。
ふわっと浮き上がった彼は、煙が体から漏れ出しているように見えた。
シャーロットも、同じようなことをしたけれど、彼とは方向性が全く違う。言うなれば…本当に悪魔が取り憑いたようだった。
「…さっきは、黒いボール状に変形して襲いかかってきていたんだ」
クレイグが歯ぎしりをしながら説明した。
「あの時も、とてつもなく恐ろしかったです。でも、さっきよりも…恐ろしい」
ロザリーが私の袖をぐっと持った。…怖いよね。とてつもなく…怖い。
「…死ね」
ハスキーボイスで悪魔が囁き、私たちに襲いかかってきた。
「きゃあ!」
「サラ様!こっちです!」
この状況で一番怖いのは彼女のはずなのに、気丈に私の腕を引っ張った。ロザリーは唇を噛んで、木を避けながら走った。
私は置いていかれないように、アンドリューたちに迷惑をかけないように、ただただ彼女に引っ張られるまま、走り続けた。
「行かせるかっ!」
俺とクレイグは、二人で剣をクロスさせて、サタンの暴走を抑えた。やべーよ…こんなばか力とか…!
しかし、俺とクレイグの剣は純銀。さすがのサタンも対抗できなくなったのか、後ろに飛んで距離を置いた。
「なあ、アンドリュー。さっきの話し、覚えているか?」
「さっきのって…」
「テレポート前だ」
彼はサタンから見えないように、銃に弾を入れた。
「いいか?あの煙をバリアー&エネルギー補給機と定義付けをする。そうなると、煙を消したらすぐに済むかもしれないが、バリアーだから攻撃しても意味がない。となると?」
「頭だろ?さっき言ってたじゃないか」
「その通り」
不敵に彼は笑う。なんだか、俺がばかにした笑い方みたいで気に入らねー…
「さっき、アンドリューが言っていた通り、サタンはサラを狙うだろう。つまり、移動ばっかりの戦いになっちゃう」
「移動しながらの剣術は向かない…となると?」
「俺が銃で引き付ける。でも、きっと銃だけじゃ殺せないから…」
俺たちの上を、黒い男が飛んで行った。
「俺が会心の一撃を。ってか!?」
悪魔を追いかけるように、走り出した。
絶対、消す。
サタンはこの俺の手で、必ず。




