09.ポインセチア
ロザリーが買ってきてくれた服は、残念ながら真っ黒だった。
私は、この街に合わないあの真っ黒の服は嫌だったから、せっかく服を買ってくれる機会に、内心嬉しく思っていたのに…
「どうして、黒にしたの?」
「申し訳ありません。あの城では黒い服じゃないといけない決まりなので…」
「でも、街だけなら…」
「だって、せっかく服のお金を払ってくれるのに、一日だけしか着ないだなんて、クレイグさんに失礼です!」
理にかなっているけど…なんだか、悲しい。
「あの…オディール様。これ…これを着たら、少し気がまぎれると」
そう言うと、ロザリーが上品な赤いマントを私に渡した。
マントには、ふわふわした白い毛皮を端にあしらい、金色のボタンが付いていた。ボタンの絵柄が可愛らしい。
「これ…」
「召使いのみんなで決めてたんです。マントだけなら、なんとか買えるかな…って」
私は震える子猫を抱きかかえるように、そっとマントを受け取った。ロザリーがずっと持っていたからか、ほんのり温かい。
「ありがとう…ありがとう、ロザリー」
なぜだろう。マントを着ただけで、心が躍る。しかも、赤と白。街に彩られている飾りとお揃いで、とても嬉しかった。
「オディール様。他に何か欲しい物はありますか?」
「そうね…少し、花屋を見にいきたいわ」
ちょうど、ロザリーの近くにあった花屋を見ると、彼女はうやうやしく私を店に案内した。
季節のせいか、少ししか売っていないが、久しぶりに花を見たので、すべて宝石のように見える。
「これ。なんという名前ですか?」
私が店員に尋ねると、じっと私の顔を見つめた。
「これは!マジックのお嬢さんじゃありませんか」
「え、ええ。そうよ」
…あまり思い出したくないんだけど。
「これはねぇ。ポインセチアという花さ」
へー。と言いながら、私はじっと花を観察した。
四方八方に付いている真っ赤な花弁は、私が着ているマントと似ていて好感を持った。
「君は、ポインセチアの赤い部分が花弁と思っているのかい?」
「え?違うのですか?」
「ああ。本物の花は、真ん中の黄色い所なんだ」
「花弁は?」
「ないんだよ。不思議だろう?」
私は、じっと花を見つめた。
「じゃあ、赤い部分は…」
「葉っぱだよ。えらくお上品な、葉っぱだけどねえ」
その葉っぱは綺麗だけど、なんだか、地味な花が自分の存在を薄くするために、こんなに目立つ葉っぱを着飾ったのかな。と感じた。
その時、私は気づかなかったかもしれないけど、私とポインセチアを重ねてしまっていた。
「これ…おひとつもらってもよろしくて?」
「ああ。もしよければ、髪飾りにしてみせようか?」
「ええ。お願いします」
店を出た時、私の頭には小さなポインセチアが乗っていた。
黒髪によく映える、堂々としたポインセチアだった。
「ああ。君!」
急に声をかけられたかと思ったら、その声の主はクレイグだった。アンドリューも横にいる。
「クレイグさん。なんの御用ですか?」
ロザリーがすっと私の前に立ちはだかる。クレイグには、あなたも警戒しているのね。
「いや…そこのオディールに、ぜひ服を見せてもらいたいなってね。」
「オディール!?初対面のくせに図々しい!『さん』か、『様』を付けるべきだわ!」
クレイグとロザリーの不毛な口論が始まり、私はそっとその場から離れた。ああ…ロザリー、噛み付く勢いだわ。
「なあ。お前の偽名、オディールなのか?」
「ええ。偽名っぽいでしょ?」
「確かに。『白鳥の湖』から名前をとってくるだなんて。サラ…オディール、の召使いもセンスあるな」
「あら、嫌味?」
「いいや。ただ、お前にはオディールよりオデットの方が似合うと思っただけだ」
私が白鳥だなんて…冗談が過ぎるわ。まあ、オディールらしくない、と言われたら言い返せないけど。
「ポインセチアか…マントとよく似合っている」
「ありがとう」
私は照れながら、髪飾りを触った。花屋の店員が言った通り、葉っぱらしい触りごごちだ。
…あ、そういえば。
「アンドリュー。『白鳥の湖』って、女の子向けの話でしょ?なんで、そんなに詳しく…」
「オディール!デニッシュでも奢ろう。美味しい店があるんだ!」
強気なくせに、嘘下手なのね。




