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黒から私は色を作る  作者: 西川 涼
最後のクリスマス
9/97

09.ポインセチア

 ロザリーが買ってきてくれた服は、残念ながら真っ黒だった。

 私は、この街に合わないあの真っ黒の服は嫌だったから、せっかく服を買ってくれる機会に、内心嬉しく思っていたのに…


「どうして、黒にしたの?」

「申し訳ありません。あの城では黒い服じゃないといけない決まりなので…」

「でも、街だけなら…」

「だって、せっかく服のお金を払ってくれるのに、一日だけしか着ないだなんて、クレイグさんに失礼です!」

 理にかなっているけど…なんだか、悲しい。


「あの…オディール様。これ…これを着たら、少し気がまぎれると」

 そう言うと、ロザリーが上品な赤いマントを私に渡した。

 マントには、ふわふわした白い毛皮を端にあしらい、金色のボタンが付いていた。ボタンの絵柄が可愛らしい。

「これ…」

「召使いのみんなで決めてたんです。マントだけなら、なんとか買えるかな…って」

 私は震える子猫を抱きかかえるように、そっとマントを受け取った。ロザリーがずっと持っていたからか、ほんのり温かい。

「ありがとう…ありがとう、ロザリー」



 なぜだろう。マントを着ただけで、心が躍る。しかも、赤と白。街に彩られている飾りとお揃いで、とても嬉しかった。

「オディール様。他に何か欲しい物はありますか?」

「そうね…少し、花屋を見にいきたいわ」

 ちょうど、ロザリーの近くにあった花屋を見ると、彼女はうやうやしく私を店に案内した。


 季節のせいか、少ししか売っていないが、久しぶりに花を見たので、すべて宝石のように見える。

「これ。なんという名前ですか?」

 私が店員に尋ねると、じっと私の顔を見つめた。

「これは!マジックのお嬢さんじゃありませんか」

「え、ええ。そうよ」

 …あまり思い出したくないんだけど。

「これはねぇ。ポインセチアという花さ」

 へー。と言いながら、私はじっと花を観察した。

 四方八方に付いている真っ赤な花弁は、私が着ているマントと似ていて好感を持った。


「君は、ポインセチアの赤い部分が花弁と思っているのかい?」

「え?違うのですか?」

「ああ。本物の花は、真ん中の黄色い所なんだ」

「花弁は?」

「ないんだよ。不思議だろう?」

 私は、じっと花を見つめた。

「じゃあ、赤い部分は…」

「葉っぱだよ。えらくお上品な、葉っぱだけどねえ」


 その葉っぱは綺麗だけど、なんだか、地味な花が自分の存在を薄くするために、こんなに目立つ葉っぱを着飾ったのかな。と感じた。

 その時、私は気づかなかったかもしれないけど、私とポインセチアを重ねてしまっていた。


「これ…おひとつもらってもよろしくて?」

「ああ。もしよければ、髪飾りにしてみせようか?」

「ええ。お願いします」

 店を出た時、私の頭には小さなポインセチアが乗っていた。

 黒髪によく映える、堂々としたポインセチアだった。



「ああ。君!」

 急に声をかけられたかと思ったら、その声の主はクレイグだった。アンドリューも横にいる。

「クレイグさん。なんの御用ですか?」

 ロザリーがすっと私の前に立ちはだかる。クレイグには、あなたも警戒しているのね。

「いや…そこのオディールに、ぜひ服を見せてもらいたいなってね。」

「オディール!?初対面のくせに図々しい!『さん』か、『様』を付けるべきだわ!」

 クレイグとロザリーの不毛な口論が始まり、私はそっとその場から離れた。ああ…ロザリー、噛み付く勢いだわ。


「なあ。お前の偽名、オディールなのか?」

「ええ。偽名っぽいでしょ?」

「確かに。『白鳥の湖』から名前をとってくるだなんて。サラ…オディール、の召使いもセンスあるな」

「あら、嫌味?」

「いいや。ただ、お前にはオディールよりオデットの方が似合うと思っただけだ」

 私が白鳥だなんて…冗談が過ぎるわ。まあ、オディールらしくない、と言われたら言い返せないけど。

「ポインセチアか…マントとよく似合っている」

「ありがとう」

 私は照れながら、髪飾りを触った。花屋の店員が言った通り、葉っぱらしい触りごごちだ。


 …あ、そういえば。

「アンドリュー。『白鳥の湖』って、女の子向けの話でしょ?なんで、そんなに詳しく…」

「オディール!デニッシュでも奢ろう。美味しい店があるんだ!」

 強気なくせに、嘘下手なのね。

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