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黒から私は色を作る  作者: 西川 涼
最終章
89/97

89.初めて話す

 サラが遠くへ行ったのを確認せず、俺は心の内を吐き出した。


「ごめん。シャーロット…ごめんよ」

 ばかかよ、俺。こんなに謝るぐらいなら、なんで殺したんだ?なんで…なんで!?

 涙は俺の手から溢れ出て、遺体にボトボトと模様をつけだす。


「こんな兄貴、最悪だよな」

 泣き疲れた俺は、もうろうとする頭を使って、ちゃんと整理しながら話しだした。


「俺、気づいてた。シャーロットがバンパイアになってたって…多分、俺が親父を殺した日にもう気がついていた」

 俺は、すっと彼女の頰を撫でた。

 こんなに…こんなに綺麗な顔だったんだな。って、妹にそんな風に思うとか…シスコンかよ。

 そう自分で突っ込むと、何故かシャーロットが笑ったように見えた。


「…なのに、シャーロットから目を背けて、遠ざけて…そうやって、兄妹の仲を自然に引き裂いて。ばかだよな?触らないように、傷つけないようにって気をつかっていたら、まさかシャーロットがあんな風に思ってただなんて…全く知らなかったよ」

 気づかなかった。気づこうだなんて、思ってもみなかった。


『…じゃあ、そのたった一人のお兄ちゃんが、どうしてあんなに冷たかったの?なんで!?』


 自分可愛さにだよ。

 家族から一人でもバンパイアが出たら問題なのに、二人も出てみろ?俺のイメージ…ガタ落ちじゃん。

 そうやって、自己中心的に物事を進めたから、シャーロットを傷つけた。


 でも、本当は違ってたんだって思う。今だからこそ、はっきりと言える。

 シャーロットを世間の冷たい風に当たらせたくなかったんだ。都に住む人々は、あまりにも非情だったから。

 だから…ずっと閉じ込めちゃったんだ。

 ハハ…これじゃあ、ルシフェル伯爵と同じだな。


 彼女の顔に、一つの雫が落ちる。

 もっと話せばよかった。ちゃんと、このことを伝えるべきだった。

 シャーロットと二人で、美味しい物でも食べながら喋ればよかった。

 彼女がバンパイアになってしまったことを取り消しはできなかったとしても、こんなに未練タラタラな終わりにはならなかったはずだ。


「ごめん」

 そして、俺は彼女の髪に目をやった。赤茶色の毛は、とても綺麗なストレートで、まるで不真面目な天使みたいだと思った。

 結局、妹をこんなにしっかりと見たのは、彼女が死んでからになってしまった。

 生きていた時、今の何倍も綺麗だったんだろうな。

 彼女も大人になった。昔より、とてもお姉さんになっている。


「ちゃんと、話すべきだった」

 俺の定義なら、バンパイアは生きていない。生きた屍だ。

 なのに、俺は彼女の生きていた頃に…バンパイアだった時の彼女に、会いたい。そう純粋に思った。


「シャーロットは大丈夫。絶対、天国に行ける。地獄に行くのは…俺だけで十分だ」

 そっと額にキスをする。彼女の肌は、もうすでに冷たくなっていた。

 俺は、恐る恐るマッチを擦る。真っ赤な炎が、彼女の髪色と重なる。

 涙をこらえて、俺の感情をギリギリ抑えて、精一杯笑った。


 知ってるか?兄ちゃん、こんな風に笑うんだぞ?

 こんな変な顔で笑うんだよ。だから、シャーロットも笑って。天国で…笑って。

 俺は落ち葉に火をつけた。


「永遠にさよなら。俺の大好きな、シャーロット。世界にたった一人の、大切な妹」


 燃え上がる炎。

 その炎はシャーロットを包んでいき、だんだん彼女の姿を隠していく。

 俺は中途半端に信じている神に願った。

 炎がシャーロットの罪を、浄化してくれますようにと。



 私はパチパチという火の音が消えたのを確認して、アンドリューのそばに行った。


「アンドリュー…?」

 肩を落としていた彼の後ろから、私はそっと声をかけた。

 傷ついているんだろう。でも、ここで立ち止まってはいられない。

 遠くでは、クレイグ達が戦っている。しかも、相手はサタン。グズグズしてらんない。こんなこと…不謹慎だと思うけど。

 きっと、アンドリューだってわかっている。短時間で済む作戦で、シャーロットを倒したんだから。


 彼の大きな背中が、ゆっくりと動いた。

 アンドリューは細身だけど…オーラだけで見たら、まるで、冬眠から覚めた大きな熊のように見えた。


「行こう」

 赤のまっすぐな目は、全く迷いがなかった。


「サタンを倒す。何が何でも」

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