85.ラストゲーム
「うっ…」
私は下ろしてもらうと、恥ずかしい感情が一瞬かすめたが、アンドリューのうめき声でハッとした。
「アンドリュー!大丈夫?」
「ああ…大丈夫」
彼は私に苦笑いを向けたが、汗をかいていて、顔を歪めている。少し赤い顔は、私に苦しみを訴えていた。
「…何を隠しているの?」
「何も…」
震えている左手を、私は無理矢理掴んで見た。切り傷…
この傷、剣でつけられたものだわ。浅いけど…周りが青くなっている。
これって…毒!?
「離せ、サラ!」
「ダメ!」
私は白いハンカチを取り出し、彼の腕にキュッと巻いた。
「やめろ…」
「いいから!」
傷のせいで、アンドリューの体温が高くなっている。なんとかしないと…
でも、私は応急処置の心得なんてない。でも、必死に頑張った。
昔、マリオンが怪我した私にやってくれたように、ハンカチの上に手を乗せる。
「お願い…治って」
そう呟いただけ。何にも起こりはしない。
ああ…バンパイアの魔術とかって、こんな時に…使えないか。
ダメだな、私。バンパイアなんて嫌いなのに、こんな時に頼っちゃって。
なのに、アンドリューの表情はだんだん穏やかになっていく。私…何かした?
「ありがとう。痛くなくなった」
彼が笑うと、私はそっと手で包んでいたハンカチを見た。あれ…?
「なんで、こんな黒い色をしているの?」
「さあ。でも、そんなの今はどうでもいい」
アンドリューが一瞬唇を噛むと、私の肩を抱いてゴロンと転がった。
「な、何よ!」
「サラ。お前、まさか忘れたとか言わねーよな?」
「へ?」
私は恐る恐るアンドリューの後ろを覗いた。
「シャーロット…」
…忘れていた。
「よ。妹ちゃん」
「うるさい。私はもう、アンドリュー殿の妹ではない」
「あっそ」
アンドリューはハンカチを私に預けながら立ち上がった。
「言っとくけど、俺はもう、お前を殺すことにちゅうちょなんてねーから」
「あら、そう」
双方共に、完璧な笑みを浮かべる。
こんな言い合いしてたって…一応兄妹なのね。顔が、本当によく似ている。
すると、アンドリューはゆっくりと洋刀を鞘から抜いた。
「本当のデスゲームを始めようじゃねーか」
「最高な兄妹ゲンカでもしましょう?お兄ちゃん」
アンドリューがシャーロットに飛びかかる。
まるで…そう。鷹みたいに。
しかし、シャーロットはアンドリューの剣を挑発しながら避けていく。
彼女も短剣をくっしして、対抗する。攻撃したり、避けたり…私からしたら超人VS超人にしか見えない、壮絶な戦い…いや、兄妹ゲンカだった。
カン。
シャーロットの短剣が、アンドリューの剣で弾かれた。
すぐさま彼女は闇の中から取り出そうとする。
「させるかっ!」
アンドリューが闇を剣で切り裂いた。こんな風に止められるんだ…
「そんなことをしても無駄よ?」
またシャーロットが闇を作り出すが、アンドリューも負けちゃいない。
「そのセリフ、そっくりそのままお返ししてやる!」
闇を切ってすぐに、彼女の腹を攻撃する。
避けられてしまったが、アンドリューにはシャーロットに武器を持たせない方法を導き出したようだった。全く問題無いっていう表情で、また切り込みにかかる。
その行動に、さすがのシャーロットも焦り出した。
それに…アンドリューが確実に強くなった。だから、動揺している。こんなに強くなったアンドリューに、彼女は動揺している。
そして、その動揺っていうのは、人に伝わりやすい。アンドリューは短時間でもう一つの短剣を弾いた。
「くそっ!」
彼女は距離をとって、両手で闇を作ろうとする。
ビュ。
短剣が、一つの闇に刺さる。
「残念だな。シャーロット」
アンドリューがもう片方の闇を切り、一瞬で彼女の後ろに周った。
ザクッ。
真っ暗な森に舞う、どす黒い赤。背中から血を吹き出した彼女は、ふらっとして前に倒れる。
アンドリューは彼女が妹だってことを忘れて、背中に足を乗せた。
「んなわけねーよな?」
…え?
私は、アンドリューを凝視する。
どういう…こと?
「バンパイアのくせに、この程度で終わるわけねーよな?」
「…ふふふ」
彼女の背中で何かが動いた。あれって…蛇!?
アンドリューの足につきまとったが、何もなかったかのように蛇を切ってしまった。
含み笑いを続けながら、彼女は立ち上がった。
「そうよ。よくわかったわね」
「どーせ、近づいて切ろうとする瞬間に、蛇あたりを使って俺を殺す予定だったんだろ?」
「ちょっと嫌な手かしら?」
「俺のポリシーには合わねーな」
彼の真剣な表情は、シャーロットのふざけた笑みに負けてしまう。
「まだまだ何かあるんだろ?」
「なんでそう思うの?」
「楽しそうだ」
すると、彼女は急に高笑いをしだした。
その甲高い声は、正直言って…気持ち悪い。
「じゃあ、いいわ。本気の私、見せてあげる」
セクシーな笑顔を向けた後、彼女はチャイナドレスのスリットを使って、私たちに美脚を見せつけた。
「あの子…何したいの?」
「あんなタイプな女子とか周りにいないから知らねーよ」
アンドリューの返答は、正直言って嫌味にしか聞こえない…いいもん!私、あんな路線じゃなくていいもん!
「ちょ、おい」
「なんですかー?」
「いや、ふくれる暇とか…無いよ」
「はい?」
私が腕を組みながら、シャーロットの足を見た。
え?
「あの靴…なんか、煙出てない?」




