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黒から私は色を作る  作者: 西川 涼
最終章
84/97

84.好き。

「ゲホッ…ゲホッ!」

 やっと、足が地面についた。煙が気管に入って苦しい。

 目をこすりながら、周りを見渡した。うっ…さっきより煙たい。なかなか周りを確認できない。


 ズッ。


 この…地面は、土!?つまり、外ってことか。

 俺は闇雲に腕を振って、何かを掴もうとする。木?森!?

 しかし…この黒煙の量は異常だ。誰だ?誰から発せられた!


 …まさか、そんなことないよな?まさか…まさか…

 ゆっくりと見えてきた世界で、一番最初に見つけたのは、サラ。

 普通なら、ここで困惑するんだろう。でも、俺は全く動揺しなかった。

 彼女は俺が渡したネックレスを握りしめながら、うずくまっている。その心臓から、真っ黒な煙が流れ出している。

 その煙は、もくもくと確実に目の前を黒に染めていく。


「…サラ」

 俺は彼女に駆け寄って、抱きしめた。ぎゅっとテディベアを抱きしめるみたいな感じじゃなくて、まるですぐに溶けちゃう、ふわふわな雪だるまを抱くような…そんな風に抱きしめた。


「大丈夫、サラ。大丈夫だから…」

「…」

 サラは、顔を上げることを拒む。俺はそっと黒煙を包み込んだ。消えてくれ…お願いだから。

 だんだん、だんだん煙は消えていく。黒は目の前から消えていき、やっと周りが澄んでいく。


「サラ。ありがとう」

 彼女はゆっくりと顔を上げた。目を泳がせながら、俺と目を合わせる。

 その目は、とても潤んでいた。



 アンドリューがいた。真っ暗な世界で、彼の赤髪が、綺麗に見えた。

 見えていた彼の顔は、だんだんぼやけていく。


 ごめんね…ごめんね、アンドリュー。

 私、頑張っていたのに。

 人間でいようって、頑張っていたのに。

 憎しみを止めることができなかった。


「…ごめん、アンドリュー。本当に…本当にごめん…!」

 心の底からの叫びは、森の中へサッと残酷に消えていく。

 もう…居られない。アンドリューと、居られない。


「ハハハハハハ…!」

 悪魔の声が、響き渡った。

 ハッとして振り返ると、そこにはサタンとシャーロット。そして、反対側にはクレイグとロザリー。何が…あったの?


「ようこそ!バンパイアの世界へ!」


 彼の声が、私の頭の中でガオンガオンと反響する。

 バンパイアの世界…

 私、魔術を使っちゃった。後戻りできないところまで来てしまった。

 さっきの黒い煙だって、もしかしたら有害だったのかもしれない。

 飛躍しやすい私の想像力は、自ら首を絞めつけていく。


「何を言ってるんですか!」

 自称元メイドのロザリーが、泣き叫んだ。あ、もう蛇に巻かれていない。よかった…


「バンパイアの世界って!何言ってるんですか!?」

「へえ。聞きたいのか?それは…」


 グッ。


「黙れ。キャラ被り」

 くすんだ金髪のクレイグが、サタンのお腹をパンチし、黙らせた。

「悪魔野郎。絶対口きけねーようにしてやる」

「威勢がいいな。でも…」

 サタンの目が、真っ赤に光る。


「いつまで続くなかなぁ!?」

 狂った声。奇妙なほどに上がった口角。目玉が飛び出そうなぐらいに見開いた眼球。

「やめて!」

「サラ。大丈夫だ。クレイグは、あんなのに負けるタマじゃねえ」

 アンドリューが私を一瞬でお姫様抱っこ…!?

 なんで!?


「距離を取るぞ」

「ちょ、ちょっと、アンドリュー!」

 彼は真剣な表情で、私たちは逃げた。


「逃すもんですか」

 後方から、冷たいシャーロットの声がした。彼女が…彼女が追ってくる。

 でも、そんな恐怖なんてどうでもいい。

 彼にお…お姫様抱っこされている。

 顔が紅潮していく。ああ…恥ずかしい。


「サラ」

 目の前の彼が、息を切らしながら言った。

「俺は!サラが好きだ!だいっすきだ!」


 ドクン。


 …まただ!

 また、私の悪魔が…バンパイアの感情が!


「サラは?サラはどうなんだよ!」

 彼の声が、私の心臓をすっと通っていく。

 ああ、だめだ。好きだわ。

 アンドリューがいるだけで、この世界は色味を帯びていく。

 私が黒でも、彼が変えて…ううん。


 彼のおかげで、私は黒から色を作ろうとしているんだ。

 わかったよ。アンドリュー。あなたが好きな理由(わけ)

 あなたは勇気。あなたは希望。あなたは…私の色。


「あなたが好き。どんなことがあっても、あなたが好き!」

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