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黒から私は色を作る  作者: 西川 涼
最終章
82/97

82.黒い煙

 標本のような姿にされてしまった私は、元仮面女の顔を睨むこともできず、ただただ怯えていた。

 そして、また一本、闇の中から短剣を取り出した。

 その時の表情が、怖かった。でも、釘付けになってしまった。その…怖さと美しさのあまり。


 初めて会った時、私は思った。彼女は天使じゃないのか?って。

 実際は堕天使だったけど、ほとんど間違えていなかった。

 悲しいことに…いや、アンドリューの妹っていう理由もあるけど、やっぱり綺麗だった。

 だから…目が離せない。私より、オディールという名が似合うぐらい、美しい。


 取り出した短剣を私に向けるかと思いきや、壁やベットを傷付け出した。

 ビリッと破いたり、ズグッと刺したり。その表情は狂気に満ちていて…怖い。


「この部屋、私好きだわ」

 そして、また剣を突き立てる。今度は…クローゼットに。

「黒ばっかりで、とっても綺麗なゴシック調で、大好き。でもね…」

 ふっと笑い、私に語りかけた。

「あなたの匂いがして、あなたが居たっていう証拠があって、大嫌い」


 シャッ。


 カーテンに手をかけ、短剣でばっさりと切った。しかし、カーテンが無くなっても、お外は真っ暗。太陽の姿は見えない。


「ねえ、どうしたらいいの?あんたの姿があるだけでイラつく。あんたの香りだけでイラつく」

 すると、彼女はパッと短剣から手を離し、また闇の中から何かを取り出した。

 あれ…鞭!?


 パシン。


 地面を叩きつけ、痛々しい音がする。


「だから、いっぱい傷付けて、いっぱいつらい目に遭わせて、殺してあげる」

 すると、シャーロットは、なぜか私の方ではなく、ロザリーの方に足を運ぶ。

 ロザリーの目から、大粒の涙が流れる。締め付けていた蛇が、ロザリーに向かって笑ったように見えた。


「ロザリーちゃん。怖い?」

「グスッ…グスン」

「そっか。怖いよね」

「…」

「大丈夫。すぐ死んじゃうから」


 パシン。


 部屋に鞭の音が響き渡る。

 ロザリーの悲痛な声に、私は泣いてしまった。


 パシン。


 ロザリーが倒れ、荒い息をあげる。頰を真っ赤にし、顔を歪める。

 彼女が大声で泣いても、助けは来ない。助けられない。


 パシン。


「関係ないじゃない!」

 私の声で、鞭の音が止む。

「あんたが嫌いなのは、私でしょ!?私を殺して、サタンを奪いたいんでしょ!?」

「…そうねえ」

「じゃあ、私を叩きなさいよ!」

 私は歯をくいしばり、シャーロットを睨み付けた。

 彼女は呆れたように、頭を抱えた。


「バカねえ、あんた」

「…え?」

「ロザリーを傷付けたら、あんたが傷つく。それだけが目的よ」

「!?」

 なんて…なんて卑劣なの!?


 ふと、倒れたロザリーが目に入った。

 その目は、悲しみ、苦しみ、恥ずかしさ、辛さ。その全てがぐちゃぐちゃにして、彼女は感情の全てを私に訴える。


 憎い。

 こんな気持ちは初めて。

 私の真っ黒でねっとりした感情が、心の中でゆっくりと染み渡っていく。

 憎悪だ。この感情は、間違いなく憎悪。


「サ、サラ様…!」

 ロザリーの叫びは、私が沈んだ黒い海の中で、粉のように消えていく。


「その、黒い煙はなんですか!?」

 彼女は枯れそうな声で、私に訴える。

 憎悪の奥からやってきた私の正気は、胸の方から出てくる黒煙を一瞥して、すぐに去っていく。

 何だろう?…どうでもいい。


 なぜか焦ったような表情をしたシャーロットは、すぐに私に向き直り、鞭で叩きだした。

 それでも、私は彼女を睨む。憎悪の塊を、シャーロットに向ける。


 痛い。焼けるように痛い。

 でも、感じない。何とも思わない。

 私の顔に鞭が攻撃した。ピリッとした痛みが走る。

 でも、知らない。

 憎い。それだけが私を支配している。


「やめろ…サラ!死ねっ!死ねっ…!」

 鞭の勢いが増す。痛みが、連続で襲いかかる。

 そして、黒い煙が増えていく。憎悪と比例して、黒い煙が現れる。


 シャーロットが見えずらくなってきた。

 前が見えなくなった。

 胸が高鳴ってきた。

 息が荒くなってきた。

 そして…不意に冷静になった。


「…憎い」

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