81.クールに
俺がサタンの首元めがけて切りつけた。
しかし…奴も一応バカじゃない。スピードを上げた太刀は、一回回って俺のところへ。
やべっ。俺は体が真っ二つにされる前に、しゃがみこんだ。
はらりと数本赤髪が落ちる。はえーよ…
でも…
ザクッ。
安全圏から、サタンの足首を刺した。
しかし、血は全く出ず、サタンが痛がる様子もない。な、なんで…!?
「小賢しい」
彼の冷ややかな声で、俺の意識は戻った。背中で感じた…切り裂く風。
俺は瞬時に、サタンから距離を取った。ズキッ…
「大丈夫か、アンドリュー?」
「ただのかすり傷だよ」
本当に、かすり傷…なのに、異常に痛む。左腕に刺さる痛みの正体はきっと…毒だ。
この毒…まさか、死ぬのか?グッと腕を掴み、無理矢理止血する。
死ぬかどうかのことはさて置き、利き手ではない左腕の負傷で済んでよかった。戦えない訳ではない…
「今のでわかった」
俺の相棒は、俺に不敵な笑顔を向けた。
「バンパイアってのは、体を攻撃したところで、なんの意味の無いらしい。じゃあ、どこをやれば、ダメージを与えることができるか?」
「…武器か」
「正解」
彼はスッと天井に銃を向けた。銃口が、シャンデリアの光と重なる。
「太刀は、ジャパニーズトラディショナルな武器。とても、効率的で、かっこいいのはわかる。でも…洋刀とは違う弱点がある」
「…ああ。なーるほどね」
「頼むぞ、アンドリュー」
「頼まれたっ!」
パンと、乾いた音が教会に響く。
サタンの意識が、銃に向けられる。俺も攻撃を仕掛けようとするが、やっぱり近づけられない。
じゃあ、誰が攻撃できるか?クレイグだ。
今のあいつの敵…それは、クレイグ。
クレイグが両手で構えた銃を、サタンにめがけて撃ちまくる。このヨーロッパな世界観の教会で、彼の周りだけウエスタンな風が吹いている。
サタンは太刀で抑えるが、なんせデカブツ武器だ。フットワークが悪い。
クレイグがサタンの近くを走り周りながら、銃で撃っていく。
しかし…銃にだって、弱点がある。
弾切れだ。
でも、これも作戦の内。
弾を一生懸命詰めているフリをしているクレイグに、悪魔の影が映る。
鎌のような大きな太刀を、サタンは振り上げた。
「もーらい」
「!?」
俺は『クール』に呟くと、猫のように、音を立てずに飛び上がった。
不意を突かれた彼は、太刀の軌道を変えることができない。クレイグは安全の確保のため、さっと逃げる。
ちょうどサタンの太刀が地面と平行になった瞬間、俺は太刀の内側に向かって剣を振り下ろした。
カランカラン。
金属の音が、教会に静寂を作る。
止まった時間。
多分、その時間はとても短かったと思う。
でも、何時間も過ぎたような、気持ち悪い風が吹いた。
バン。
飛んだ弾は、敵のマントを貫く。
その一発の後、何発も撃ってマントをズダズダにしてやった。
「羽はもぎ取ったから。バンパイアさん」
後ろからした声は、マジシャンクレイグの時と少し似ていた。
自信に満ち溢れた声。何かを楽しんでいる声。
不謹慎だな…と苦笑するのと同時に、こいつを銃士隊で銃を習わせてよかったと、心から思った。
「…おかしい」
「あ?」
「おかしい!バンパイアの俺がこんな…こんな…!」
「俺たちとお前の違いを言ってやる」
俺は切り落とした刃先を足で蹴り、父がくれた剣を構えた。
「仲間がいるか、仲間がいないか、だ」
「二対一で勝てるわけがっ…!」
「じゃあ、片方はサラ達を探しに行こうか?それでも、勝つ自信はあるけど」
ゆっくりと剣を首筋に近づける。真っ白な首から、うっすらと血が流れ出す。
「うるさいっ!」
サタンは素手で剣を振り払うと、首筋を抑えた。
「フッ…仲間?だったら、仲良しこよしで笑って死ね」




