08.新しい友達
熱さに思わず目を開けてしまった。
…嘘でしょ。
ごうごうと燃える炎は私の周りを取り囲んでいた。足が震えて動けない。す、スリルを楽しみたいからって、これは大袈裟よ!
「あぶねぇ!」
どこかで誰かが叫んだ。危ないことはわかっている。だからって、私がなんとかできる話じゃない!
私が死期を悟った瞬間、見知らぬ男が炎の中に飛び込んできた。
「…!」
彼は、私を一瞬でお姫様だっこをし、炎の中から脱出した。
炎のせいではないはずだが、少し赤みがかった茶髪の男だ。さらりと風によくなびく髪も持っている。
やはり、お姫様だっこを出来るからなのか、細身だがしっかりとした体つきだ。
やっと、私を降ろしてくれた彼は、息を整えながら、私の炭がうっすらついている肌を適当に拭いた。ついでに女子の黄色い悲鳴も聞こえた。
「死ぬところだったぞ、ばか」
ば…ばか!?
「クレイグ。俺、言ったよね。人体消失マジックをすんなって言ったよね!?」
「い、言ってたけー?」
クレイグと呼ばれたマジシャンは、目をそらしながら消火活動にかかる。ここは一般的なやり方で、水をかけていくそうだ。マジシャンなのに。
「おい。お前…見ない顔だな」
「え、ええ…」
「…旅人でもなさそうだな」
私の服を見て、彼は呟いた。
「まさかだけど、クレイグの催眠術にかかったのか?」
「いいえ。目を閉じてただけよ」
すると、彼はこめかみを押さえながら、ため息をついた。
「催眠術もかけられないインチキ魔術師の言うことなんて聞くなよ…」
インチキ…その通りね。命の危機にあいかけたんだもの。
「ねえ。なんで失敗するって、すぐにわかったの?」
「あいつ、失敗したとき、必ず首の後ろに手をまわすんだ。幼いときからの友だからな。簡単にわかる」
吐き捨てるように彼が言うと、ロザリーが駆け寄ってきた。
「オディール様!大丈夫ですか?」
「ええ。大丈夫よ」
ロザリーの声で、彼の眉毛がピクリと動いた。彼が私の手をさっと取り、腰を支えながら私を立ち上がらせた。
「申し訳ない。またクレイグが、人体消失マジックだなんてばかげたことをしたから、少し口が悪くなってしまった」
…態度が、変わった?
「おい、クレイグ。このお嬢様に、お詫びをしなきゃいけないんじゃないか?」
「お、お詫び?ああ。すまなかったな」
「そうじゃないだろ」
すると、彼がクレイグを睨みつけた。
「こんな金持ちのお嬢様に、ススだらけで街を歩けって言うのか?」
クレイグが、頭を掻きながら、近くの宿場に案内してくれた。
「君は、この子の召使いかな?これで、かわいい服を買ってきてくれ」
クレイグが銀貨をロザリーに渡すと、一緒に部屋から出て行った。
私が通された部屋は、私の部屋よりはあれだが、花が生けてあり、ふかふかのベットが置いてあった。
あの、インチキ魔法使いさんの宿場の割には素敵な作り。
泊まることはできないが、趣があるかわいい部屋だ。
「そこの奥にシャワー室があるから、適当に洗っといて」
「ねえ!待って」
私が声をかけると、彼は面倒くさそうに振り返り、腕を組んだ。
「何で…途中から態度が?」
すると、彼の目が一瞬見開かれると、すぐに目をそらした。
「お前…いい家の子なんだろ?そんな子にあんな目合わせたとなったら…さすがのあいつもまずいだろ?」
「どういうこと?」
「だから…チクられでもしたらってよ…」
そんな回答に、私は思わず笑ってしまった。
「なっ…なんだよ!?」
「あなた、私のことばか呼ばわりしたくせに、あなただってさほど頭が良くないんじゃなくって?」
かっとなっている彼が、また面白くって笑ってしまう。
「ばかってなんだよ!?」
「だって、ばかじゃない」
私は涙を拭いながら、彼に微笑んだ。
「あなた、私がマジックに参加した時点で、よそ者だってわかったわよね?そこで、こうとも考えられない?ただ単に、スリルを楽しむために、マジックに参加したって」
私がふふっと笑うと、彼は眉を寄せた。
「よそ者でも、よそ者でなかろうと、あの状況を見ればクレイグのマジックが訳ありってわかるわ。そして、私の召使いがマジック失敗後にすぐにやってきたよね?そこから、マジックが始まる前から召使いがいたのに、反対を押し切ってマジックに参加した…そのくらい、気づけなくって?」
彼が小さく舌打ちをして、嫌味ったらしく笑った。
「おもしろいやつ」
「あなたほどじゃないわ」
二人で顔を見合わせると、同時に吹いてしまった。
「名前、何ていったけ?確か…」
「サラよ」
私はじっと彼を見つめた。少しだけ、唇が震えているけど。
「え?オ…何ちゃらじゃなかったけ?」
「それは、偽の名前よ。ほら。お、じょ、う、さ、ま。だからね」
私が首を左右に振りながら、とぼけて見せた。
「へえ。お、じょ、う、さ、ま。ね」
彼がにやりと笑うと、すっと片手を私に向けた。
「俺の名前は、アンドリュー。見習い剣士さ」
「見習い?」
「ああ。必ず、都で王宮に使えるって決めてるんだ。今は、家の馬貸家を手伝っているけど、いずれ、必ず」
握手をした後、私は思わず悲しい顔になってしまった。
「いいわね。夢があるだなんて」
「お前…サラは夢を持っていないのか?」
「ええ。私、もうちょっとしたら、お嫁に行くの」
「へえ…そっか…」
アンドリューが苦虫を噛んだような顔をした後、私の肩をガシッと掴んだ。
「じゃあ、さっさと綺麗になって、さっさと服着替えるべきだな」
そう言うと、彼は私のことをバッとシャワー室に突っ込んだ。
…もう。扱いが悪いこと。




