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黒から私は色を作る  作者: 西川 涼
最終章
78/97

78.なにがあっても

 口づけが終わると、ふと私は思い出したように、テントから顔を出した。


「どうかした?」

「ううん。別に…」

 思わず安堵のため息が出る。木漏れ日一つもない、真っ暗な森。暗い場所はあんまり好きじゃないけど、今は助かったと思うべきだ。


「ロザリー達は?」

「二人で薪を取りに行ってる」

 アンドリューが私の手を握った。

 彼の美しい瞳は、私をとらえ続ける。


「あのさ。辛いことがあったら、なんでも言ってよね。俺ばっか色々言って…なんか悪いし」

「そんなことないよ」

 私は微笑んで彼を安心させようとしたのに、逆に彼の顔を曇らせてしまった。

 アンドリューはしきりに口を開けたり塞いだりして、何か言葉にしたいらしくても、うまくできていない。その魚みたいな姿に思わず笑ってしまった。


「ねえ、アンドリュー」

「何?」

「外に出よう?」

「え…?ええ!?」

 私が彼の腕をとって、強引にテントから出た。

 きっと、外は明るいんだろう。でも、森が全部影にしてしまい、夜みたいに真っ暗。夜以上に怖い。

 おばけがやってきても、おかしくない雰囲気。

 でも、アンドリューの姿だけはっきりと見えて、その姿が、もう見ることができない太陽のように見えて。

 彼の赤髪が、私の暗くなってしまった世界に、色をつけ出す。


「髪…綺麗だよね」

「え?」

 アンドリューは微笑みながら、私の髪を触った。彼の細い指が、私の肌をくすぐる。


「初めて見た時から思ってた。君の漆黒の髪と、海のような真っ青な目。すっごい綺麗だなって」

「だったら、私はアンドリューの髪が好き。赤髪って、どこでもすぐに見つかるじゃない?」

「からかってんのか?」

 私が微笑んで返事すると、彼は肩をすくめた。


 私は、自分の容姿が、あんまり好きじゃなかった。真っ暗な城に住んでいて、もし金髪なら、まだ気持ちが楽だったのかもしれない。でも、真っ黒な色で、よく悲しくなっていたりした。

 …あの時はまだバンパイアじゃなかったのに、バンパイアになってしまった気分で。暗い気持ちにさせた黒が、私は嫌いだった。

 でも、アンドリューに褒められた。私の黒髮を、綺麗と言ってくれた。

 それだけなのに、とても自分の髪が、愛しく思うようになった。不思議よね、アンドリューって。

 アンドリューが急に真剣な目になると、私の頭を強引に彼の肩に預けた。


「お願いがある」

「なに?」

 私の声が、少し震えていた。アンドリューの首筋が…近い。

 心臓がバクバクと音を上げた。私の理性とは違うどこからか、彼を殺せと命じている。


「生きることを諦めんなよ。俺は…何があっても、サラが好きだから」

 このセリフで、私の悪魔がまた囁いた。


『殺せ。彼を殺せ』

 違う…違うよ!

『好きな男を、殺せ』

「違う!」

 私はアンドリューを突き放して、座り込んだ。

 消えろ…消えろ、サタン!あんたなんか、要らない!

 アンドリューだけでいい。彼とずっと笑って過ごしたい!

 だから、やめて!

 私の…私の人生に口出ししないで!


『みーつけた』

 ハッとして、私は体を縮めた。間違いない。悪魔だ。

 みーつけたって?まさか、この近くに…?


「サラ!」

 アンドリューがしゃがんで、私の顔を覗いた。

 私は泣きながら、彼に笑いかけた。牙が見えてしまったかもしれないぐらい、思いっきり笑った。

「アンドリュー…私、あなたのこ…」

 目の前が、急に回り出す。


 まるで…そう。

 『オズの魔法使い』の冒頭。ドロシーが、竜巻に巻き込まれた時のような。

 そんな、恐ろしい予感。

 私は、彼女のように楽しい気分ではない。



「とが好き!」

 私が頭を回しながら叫び、目を開けると、その景色は、真っ暗な森じゃなかった。

 見覚えがある。とても、見覚えがある場所。


 でも、今は私がいた頃とは違い…まるで、獣をここで飼っているのか?と思うぐらい、ぐっちゃぐちゃだった。

 まさか…ここ…


「私がオディールだった頃の…部屋?」

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