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黒から私は色を作る  作者: 西川 涼
最終章
77/97

77.キス

 私達は、走って馬小屋まで行った。


「早く…早く…!」

 アンドリューが私達を急かす。その雰囲気が伝わったからか、馬達にも緊張が走る。

 私は前の時のように、ウォルの上に跳び箱に似たジャンプで乗っかる。


「よろしくね。ウォル」

 声をかけると、彼女らしくないほどのビックサウンドで、鼻を鳴らした。そして、闘牛のように、ヒズメをガシガシと地面に打ち付ける。


「突っ走れーっ!」

 アンドリューが叫び、パシンと馬を叩いた。ヒヒーンという鳴き声が、リレーのピストルがわり。我先と馬達が走り出した。

 風になる。とっても、気持ちがいい。


 その時…一瞬だけ。一瞬だけだよ?

 前を走るアンドリューの髪が、サラサラと風になびき、その姿に一瞬、キュンとした。

 でも、その心は、恋愛感情とは違い、とても…生物的。

 真っ赤を奪いたい。そんな、感情。


 私の中に、黒が進入してきている。

 着実に、ゆっくりと。



 夜明け前、全員疲れ切って、森の中で倒れた。

 馬達も、もう無理…という声が聞こえるような表情をしている。


「ダメだ…行かないと」

「アンドリュー、まだ動く気か!?」

「寝場所…だけ」

 ふらふらなアンドリューは、クレイグの声を遮って、ゆっくりと歩き出す。

 きっとテコでも動かない…と判断したクレイグは、ロザリーの近くに駆け寄る。

 ラブラブなところに入っちゃダメね。私はそっとウォルのところまで移動した。


「ありがとう、ウォル…」

 そう言っても、返事はない。

 彼女は体を上下させながら、深く眠っている。

 私も寝ようかな?

 ウォルのお腹に身を寄せて、私は夢の中に入り込んだ。



 起きた頃には、ウォル以外の馬は消えていた。


「…あれ?他の馬は?」

「逃した」

 アンドリューが優しい目でウォルの頭を撫でた。とても大きな手。ウォルの毛並みを揃えるように、優しく撫でる。

 いいな…


「お前も、自由だよ」

 ポツリと彼が言うと、ウォルが腑抜けた声を出した。

「何を言ってるのよ!?ウォルは…一緒にいたいのよね?」

 私が尋ねると、彼女は大きな頭を下げた。

「じゃあ、サラはウォルを危険な目にあわせていいのかよ!?」

「それは…」

 私は、ウルウルとしたウォルの目を覗いた。綺麗な瞳…この瞳を殺しちゃいけないわ。

 ゆっくりと、彼女の首に抱きついた。あったかい…生き物の暖かさ。

 私はもう生き物じゃない。だから…だから…


「バイバイ、ウォル」

 彼女はゆっくりと立ち上がる。顔が…見えないよ。

 私は立つことができない。最後まで、見送れない。

 でも、大好きだから。

 バイバイ。



 テントを張って、私達は眠った。

 深い、深い眠りについた。

 見張りは無しだけど、それでもよかった。

 何と無く大丈夫だと思っていたし、とにかく…疲れていた。


 そして、私は夢を見た。

 私は真っ白な箱の中。一人でポツンと立っている。


 ハッとすると、私の隣にマリオンが居た。そして、彼女は笑ってどこかへ消えてしまう。

 それが、何人も続いた。

 ジョニーさん。アレクさん。ウォル。召使いのみんな。

 全員、笑ってどこかへ消える。


 そして…ロザリーが隣に来た。

 彼女はそばかすだらけの顔で、思いっきり笑った。大きく手を振り、去っていく。

 次は、クレイグ。

 彼は私にマジックを披露し、得意げな顔で去って行った。珍しい…クレイグのマジックが成功した。


「サラ」

 優しい声に振り返った。赤茶色のサラサラヘア。子供っぽい、あどけない笑顔をする彼…

「アンドリュー…!」

 そして、彼は少しだけ悲しそうな顔をした。丸い目が、ちょっとだけきらりと光る。


「大好き。ありがとう。さよなら」

 そのスリーワードを告げると、私の頭をポンポンと叩き、くるりと背を向けた。

 一歩。また、一歩。

 彼は歩き出す。彼は、私から離れる。


「待って、アンドリュー!」

 私は走ろうとする。でも、走れない。

 ずっと、そこで足踏みをしてしまう。

「アンドリュー!アンドリュー!!」

 消えた。急に、すっと。

 私は泣きじゃくった。声が枯れるまで、泣いた。


「行かないで、アンドリュー!行かない…」

 その時、ハッとした。

 アンドリューが行ったんじゃない。私が…どこかへ引きずられていく。

 どこへ?どこへ行くの!?


 ぐらりと急に襲われた頭痛。冷気とともに、私の頭が冴える。

 ここ…黒?



 悲鳴をあげて飛び起きると、心配そうなアンドリューの顔が見えた。

 …寒っ!

 私は汗で体が冷えていたことに気がついた。そして、涙も…


「大丈夫?サラ」

「…」

 私は何も答えられず、呆然としつづける。

 なんで、こんな夢を見ちゃったんだろう。


 ウォルとさよならしたからかな?マリオンとジョニーさんとアレクさんとも…

 縁を切ってしまった。そうしないと傷つけてしまう。だから、離れたのに…

 そしていつか…ロザリーやクレイグとも縁を切らないといけないのかな?

 アンドリューとも…バイバイしちゃうのかな?


「アンドリュー…」

 私は彼に抱きついた。それしかできない。

「サラ…どうしたんだよ」

「…」

「変な夢でも見たのか?」

 私は小さく頷いた。


「怖かったね」

「…」

「大丈夫。今は夢じゃないよ」

 そして、彼は私の顔を覗いた。とっても優しい、夢の中のアンドリューと同じ表情だった。

「大丈夫…」


 アンドリューは、私の唇に唇を重ねた。

 酔いしれるような口づけ。そして、だんだん強引になっていく口づけ。

 あったかい…


「俺が守る。だから、大丈夫」

 私が答える前に、彼はまた私の唇を奪う。熱いキスが、永遠に続くような気がした。


 もし、このことがきっかけで私がバンパイアとバレてしまってもいい。

 そして、アンドリューと引き裂かれてしまうことになってもいい。


 今が続けば、それでいい。

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