76.VSカラス
森…
「一番の理由は、サタン様のビッグ太刀を、使用不可にさせることができるからです」
そう…なの?アンドリューも、ぽかんと口を開けている。
「あ、わかった!」
クレイグが指をパチンと鳴らした。
「日中に戦う場合、真っ暗な場所じゃないと、バンパイアは灰になってしまう。でも、木漏れ日のない森なら、太陽を避けることができる」
「おいおい。あいつらを太陽の下に持ってくことを考えるべきじゃねーか?」
「えー?アンドリューが嫌がると思って考えているのにー?」
すると、彼は少し顔を赤くして、そっぽを向いた。…図星なのね。
そして、クレイグが得意顔で続ける。
「だが、サタンが太刀をむやみやたらに振り回したら、木が切られて太陽があらわれる。つまり、サタンの太刀を封印できるって寸法か」
「そういうこと」
ロザリーとクレイグの息ぴったり。小さく鼻で笑うところも、ハモっちゃっている。
しかし、アンドリューはふてくされたまんま。ちょっと私と目線が合うと、彼はすぐに目をそらした。
でも、その目は恥ずかしいとかじゃなくて…結構真剣だった。何を考えているんだろう?アンドリュー…
「ついでに言いますとね」
私の思考は、ロザリーの意気揚々とした声に遮られた。
「仮面女もおそらくなんとかなります」
「その根拠は?」
今度はアンドリューが尋ねた。
シャーロットのことだもんね。
でも…もしシャーロットと対決するならどっちなんだろう?
アンドリュー…はサタンでしょ?なら、クレイグ?状況判断ってやつかしら?
「仮面をつけているだけで、彼女には視界のハンデが発生します。そして、森の木々。隠れるのも簡単です。視界が開けていない彼女は、そう簡単には見つけることができない。早い段階で仮面女の耳を潰してしまえば、こっちのもんですよ!」
「…そんなに簡単なのか?」
アンドリューが呟いたが、ロザリーはテンションが上がっていて、知らぬ間に無視。クレイグと楽しそうに笑っている。付き合っちゃえばいいのに…
でも、よかった。太陽が無い場所なら、私も大丈夫。まだ、アンドリューのそばに居られる。
だけど…そろそろ決めなきゃ。ちゃんと、覚悟決めなきゃ。
彼の隣には…居られない。
そんな雰囲気の中、彼だけはまだ考えている。目を閉じて、考えている。
わかるよ。私もなんとなく、そううまくは行かない気がする。
でも、理由がないから、黙っている。ああ…大丈夫なのかしら?
夜。
星は雲に隠されており、月の光もぼやけて、不穏な空気が漂う。
悪い予感しかしない。
でも、計画は完璧。やるしかない。
私達は、夜逃げをしたんだろうと皆に思わせるために、提案者のアレクさん以外には誰にもこのことを喋っていない。
お世話になった、マリオンとジョニーさんにも…
でも、さよならは、私たちの足を鈍らせるだけ。それに、バンパイアサイドが、いつどこで何が聞いているかわからない。慎重に。慎重に行動しなければ。
「さあ、行こう」
アンドリューが小さな荷物片手に、呼びかけた。その言葉に、みんなで同時に頷く。
クレイグが黙って煙突まで歩く。
パアアン。
空に銃声が響きわたる。
バサバサバサ。
カラスが逃げる。よかった…一応、鳥の習性はあるのね。
ドアを開けて、私、ロザリー、クレイグ、そしてアンドリューが部屋から出る。
ガチャリ。
アンドリューがドアに鍵をかけ、ダッシュで外へ出る。
もちろん、マリオンたちの家のポストに、鍵とささやかなお礼。そして、手紙を入れる。
アンドリューの目の合図で、私達は暗い通路に逃げた。
さて。ここからよ…うまくいって!
カラスが戻ってきた。そして、我先と煙突の中に入り込む。
アンドリューとクレイグが静かにハシゴを立てかける。途中まで登って、煙突に入っているカラス達にギリギリ見えない場所で止まる。
全部入った。その瞬間、彼らは屋根に登る。
ここからは見えない…でも、トンカチが、カンコンカンコン鳴っているのは聞こえる。
音が止んでアンドリュー達が降りてくると、私は二人に駆け寄った。
「うまくいった?」
「「うまくいった」」
彼らが不敵な笑顔を見せると、みんなで同時にハイタッチ。
「さあ。走ろう」
リーダーの声で、私たちは笑いながら駆け出した。
その頃には、月は雲から出てきていた。
アンドリュー達は何をしたかって?
ロザリーの代わりに、私が説明しましょう。
要するに、彼らは煙突に蓋をしたってこと。
カラスを追いやるために使った銃を煙突で鳴らしたのは、後でカラス達にそこに入ってもらうため。そして、煙突を閉じて、カラスを閉じ込めるため。
今頃、あの部屋はカラスだらけね…と、少し苦笑いをする。
きっと、数日経てば餓死。または、魔法が解けちゃったりするでしょう。
でも、マリオン達にそんなカラスを処理してもらうのは、さすがにお願いしちゃダメ。
だから、明日には逃してもらうようにお願いした。
つまり…タイムリミットは、マリオンが起きる頃まで。
それまでに、どこか遠くへ。




