75.勝つ術
真っ暗な城。妖艶に輝くシャンデリア。
ほんと、すってき。これからの私たちのゲームを、悪魔に賞賛されているみたい。
ふっと笑いながら、真っ赤な血が入った、ワイングラスを眺めた。どーしよ。飲まないで、取っておこうかなー?
「シャーロット。久しぶりの兄貴との再会はどうだった?」
「おかげ様で。相変わらず、イケメンでお人好しなのは変わらなかったわ」
金髪パーマの我が主人は、私の目の前に美しく座った。
私は、美しいものは全部好き。シャンデリアも、城も、サタン様も、お兄ちゃんも、私も。
でも、美しさは見た目だけでいい。それ以上美しかったら、逆に醜い。例えば…あの女。サラ…だったかしら?
でも、サタン様は、彼女に夢中。よくわからないバンパイアね。
「いつかな?君の兄貴が動き出すのは」
「さあ。相当なダメージは食らったはずだけどね」
お兄ちゃんは、よくわからない人間。父が死んだと知った後、彼は悲しみなんか一切見せず、必死に働いた。父を殺し、母が殺された後も、彼はすぐに遺体の埋葬に行った。そして…私がサタン様のところへ行った後も、サラだなんて女と恋に落ちた。
本当に…あの男と血が繋がっていなかったら、絶対サラのように嫌っていたわ。
だから、わからない。私には、彼の行動や心情を理解することは不可能だ。
「サタン様。どうして、サラってやつに依存するの?私じゃダメ?」
私は頬杖をついて、彼の顔を覗く。主人の目は死んでいた。でも、口元は、とっても楽しそうに笑っている。
「変わったね」
「どこが?」
「行動の全体が。とっても…セクシーって言うのかな?」
私は少し頰を染めながら、くねくねと動いてみせる。
「サタン様のおかげ」
「そうかい?」
彼の挑戦的な笑みは、私の心をくすぐらす。
あーあ。なんで、あの子なのかな?
私でいいじゃない。私の方が、よっぽど美人で、よっぽど愛している。なのに、彼女。彼女ばかりを見る。
きっと、サタン様の性格なのね。
手に入れたい女が、他の男の手の中にあったとしても、意地でも手に入れる。
彼は恋愛をゲームと捉えている。その姿は、まるで秘宝を求めるトレジャーハンター。でも、秘宝は目的じゃない。大義名分であり、本当の目的は、辿りつくまでの経過…
「まあ、まだ動かなくてもいいだろう。気長に行こう」
サタン様は、真っ赤な液体が入ったグラスを持ち上げた。
いやよ。私は気長になんて無理。
きっとゲームが終わったら、彼は私のところへやってくる。
だから、さっさと終わらせましょう?サタン様。
「敵の状況を予測できるか?」
アンドリューの質問に、クレイグが手を挙げた。
「あっちの城にいた何人もののバンパイアは、おそらく捨て駒。元から当てにはしていなかったはずだ」
「その通りだな」
「あっちもこっちも、本命は目に見えている」
クレイグの真剣な眼差しに、皆が息を飲む音がしたような気がした。
つまり…こっちはアンドリューとクレイグ。あっちは、サタンと仮面…シャーロット。
「本命同士の正面衝突…が、普通の考え方」
すると、彼はロザリーに目を向けた。
昨日、彼らは一緒に夕飯を食べたが、多分、私が期待したお話しはしなかったんだろう。状況説明に、これからの予定…そんなところね。
「まず、動物を使ってくることは、ほとんど確定です。あれは、魔術次第で、いくつでも出せるでしょう。そこで叫んでいるカラスも…」
彼女はちらりと、カーテンのかかった窓を見た。
最近カラスが急激に増えてきた。理由は…きっと城への報告のためだろう。
「とにかく、ここら出るためには、カラスの目を巻かなければなりません。その作戦は…これです」
彼女は私達に詳しい図解を見せた。カラスに聞かれないための対策…ね。
それにしても、この作戦は素晴らしい。いつもながら、メイドにはもったいない人材。
「さすがだ、ロザリー。ほーんとうに、こいつてーんさい!」
アンドリューがわざと叫びながら、彼女を讃える。カラスに聞かせているのかしら?でも、ロザリーの顔には、うっすら怒りが…
クレイグが苦笑いをしながら止めているが、少し楽しそう。とても、美しい計画。アンドリューとクレイグの好きなタイプの計画だわ。
少し不謹慎かもしれないが、これは成功フラグ。きっと、うまくいく。
「で?どこに誘い出すか決めているのか?」
「もちろんです」
アンドリュー君が嫌いなの?ロザリー。
いつも尖ったような口調で返事しちゃって…
でも、彼女のぶすっとした顔の目は、私の方をじっと見つめている。…あら、可愛い。
そして、クレイグさん。ロザリーとおんなじ目…
ちょっと。集団でそんな目しないでよ。
彼女は気をとりなおして、説明しだした。
「敵の情報を整理します。サタン様は、太刀を使います。しかも、それはかなりの規格外の大きさ。他の武器を使う可能性もありますが、一軍はあの太刀でしょう。そして、仮面の女性。彼女は短剣を主に使うので、接近戦が上手いと思いきや、投げることによって、遠距離戦も得意とします」
アンドリューがコクリと頷く。両方ともと戦ったことがあるのは、彼だけらしい。
「そして、こっちサイド。まず、アンドリューさんは、とにかく剣の腕が立ちます。サラ様を連れ出した時の何倍も強くなったことは、私にもわかります。そして、クレイグさん。アンドリューさんには負けますが、剣の腕は確か。そして、銃も使える。クレイグさんはこっちを重視すべきでしょう」
アンドリューとクレイグの顔が、微妙に歪む。なんだか複雑よね。
「この情報から分析して、一番私たちに有利なフィールドは…」
彼女はゆっくりと、目を開いた。
「森、です」




