74.彼女の物語 第4章 〜結果論〜
そして、バンパイア荒らしが起きた。
その日は、普通の日だった。
普通に食事して、普通に馬と遊んで、普通に買い物して、普通に寝た、普通の日。
なのに、バンパイア荒らしが起こった。
俺の仮説が正しいのならば。
もう、彼女にとって人間でいる我慢の限界だったのだろう。
物音に気がついて、俺は飛び起きた。
壁に立てかけた時計で時間を確認する。…二時?
ちょっと待てよ…外が明るいぞ?
しかし、それは太陽の光ではなかった。火事だ。
カーテンを開けなくったってわかる。薄い生地からは、真っ赤な外の様子が伺えた。
…どうしよう。行った方がいいかな?
そう思った瞬間だった。黒い影が、一瞬真っ赤な風景を遮った。
それは大きかった。鳥のサイズじゃない。つまり…
「バンパイアかよ!?」
俺は、剣を片手に飛び出した。
偶然、同じタイミングでクレイグが出てきた。彼も、俺と同じ剣を持っていた。
「アンドリュー、何があった?」
そして、俺のバカな頭は、規格外にフル回転。俺は目をゆっくりと開けた瞬間、冷たい海の底に落とされたような気がした。
まさか…!
「あいつら…ボヤ騒ぎを餌に、人間を外に出すって寸法かっ!」
失笑のあと、俺はまだ見ぬ敵を睨みつけた。…なら、いいさ。正面衝突してやるよ!
「…行くぞ。クレイグ」
俺達が火災が起きた場所に行くと、まさに地獄絵図という雰囲気だった。
真っ赤な炎に、逃げ回る人々。悲鳴と激しい靴音が、忌々しいBGMとして流れる。
やっべ…この混乱の中で、助けることはできるのか?
ぞっ…
…なんだ?この寒気…
バンパイア?
後ろをチラリと振り向いた瞬間、俺は凍りついてしまった。
大きな牙。ひんむいた目。こいつ…俺の馬借屋によく来ていたガキだ…
…殺せない。切れない。どうしたらいいんだっ…!
ザクッ。
俺は、空に飛んだ頭に、俺は目がクギ付けになってしまった。
「嘘…」
「何やってんだガキ!」
ハッとした瞬間、俺は逃げ出した。
誰かわからない…今思ったら多分アレクさんだと思うけど、その人に助けてもらった俺は、さっきの威勢はなんだ?ってぐらい、走って逃げた。
どこに向かっているんだろう?わかんないよ。
助けろよ…親父。
俺は涙を噛み締めながら、角を曲がった。
その時見た光景は、未だに忘れることができない。
バンパイア…いや。サタンが、シャーロットと一緒にいた。
なぜわかったかって?それはね…あいつが、まっすぐ俺の方を見て、「バイバイ。お兄ちゃん」って言ったからだ。
そして、彼らは満月に向かって飛んで行った。
最初は明るくて見えていた影は、いつしか闇に溶けて見えなくなってしまった。
何もできなかった。
助けられなかった。
だけど、俺はどこかでこうとも考えていた。
最初から助けられなかった、って。
「シャーロットは、親父がバンパイアになって街を襲った時から、バンパイアになってしまっていたんだ。そのことに、俺は多分気がついていた。だけど、気づかないふりをしていた」
「…」
「そして、結局、彼女はバンパイア荒らしの犯人となってしまった。そして、その原因を作ったのは、俺」
彼の言葉に、私はなんとも言えなかった。
その通りかもしれない。でも、そうじゃないって言いたい。
「知らない間にさ。あいつ、ガチでバンパイアになっちまったんだよ。バンパイアの考え方しかできなくなってしまったんだよ。あいつは…もう人間じゃない」
…やめてよ。そんなこと、言わないでよ!
私は、だんだん震えが止まらなくなって来た。いつか…私も…?
「俺に刃を向け、俺と似た色の髪を染めてしまった女なんか、俺の妹じゃない」
淡々と話すアンドリュー。その目に悲しみは、一切無かった。
隣にいる彼が、とてつもなく遠く見えた。いつか、そんな風に私も突き放されるんですか?
バンパイアになりたくてなったわけじゃないのに!やめたくて、人間をやめてしまったわけじゃないのに!
「俺は、サラを守る。絶対、バンパイアなんかさせない。だから…お願いだ。俺について来てくれ」
私は頷くことができない。暗黙の了解という空気が流れてしまった。
ああ…あの時と同じ。アンドリューが、自分の家族の話をした時と同じ。
彼の目に、闇夜が美しく映った。でも、その闇は…見たことのないほど、真っ黒でした。
次回から、最終章に入ります!
最後まで、このブラックファンタジーにお付き合いください。
Bye, see you next story...




