73.彼女の物語 第3章 〜平穏〜
天使という生き物は、本当に嘘をつけないらしい。
俺に助言しにきたことをごまかすためについた嘘が、『雲を追いかけて来たの』。ファンタジーにも程がある。
そして、俺は前よりはずっと明るくなって、街へ戻った。
自分ではよくわかんなかったが、俺の家で待っててくれたクレイグの表情から、結構変わったんだろうと自負した。
そして、彼は俺に紙を一枚渡して去って行った。
それは、クレイグの父親からの手紙だった。
『アンドリューくん。もし、君がこの街を捨てて、どこかへ行くつもりなら、一緒に行かせてくれないか?
私のできることならなんでもしよう。いい返事を待っている』
丁寧な字だった。きっと、俺がクレイグを突き放してしまった後、頑張って説得したのだろう。
でも…俺がクレイグやクレイグ一家の、人生を狂わせていいのか?という疑問が走った。
クレイグ達は今、小さな宿場を経営している。国の首都だから、需要は結構高いだろう。
でも、俺達は、父さんの給料に頼ってばっかりだった。いくらバイトをしても、金はすぐに底をつく。バンパイアが出た家族を、雇いたい人間なんて居ない。
それに…俺はここでやっていけない気がする。永遠に影がいそうで…ここから消えないと、俺の神経が崩れちまいそうで…
甘えていいだろうか?
俺はいつしか、足をクレイグの家に向けていた。
それからの行動は早かった。
ぱっと見、『夜逃げ』と思ってくれるように、色々細工した。そっちの方が、後々名前が残らないからな。
まあ、国の中心部なんだ。夜のうちに数人減ってたところで、なんとも思わないのだろう。
そして、たどり着いた場所は、首都からは結構離れたところ。でも、観光地として有名で、クレイグ達はまた宿場を始めた。
俺は、馬借にバイト。そこまでしないと、生活できない。
でも、変わった。みんなが俺を好奇の目で見ることは無くなった。
それで、十分。十分、生きていける。
「兄ちゃん、兄ちゃん!」
「ん?どうした?」
「今日も乗せてよ!」
「オッケー!」
俺は五歳ぐらいの男の子をひょいと持ち上げ、馬のウォルの上に乗せた。
ウォルは、子供うけがいい。もう今では、仕事用の馬ではなく、子供と遊ぶ用になってしまってるぐらい。
でも、彼女は楽しそうだし、その事に対して、不満は持ってないらしい。
俺も男の子の後ろに乗り、パンとウォルを叩いた。彼女は俺たちに気を遣いながら、ゆっくりと歩き出す。
俺は、この街が好きだ。
首都はゴテゴテしていて、人も多い。ガキと馬に乗るだなんて、あそこじゃ信じられない。
それに代わって、ここはとってもいい。
みんな、のんびりな時もあたっり、素早いときもあったり。時期に合わせて変動する行動で、必要以上に動いたりしないのは、結構嬉しい。
そして、俺の性分にも合ってる。
パカラパカラと軽快なリズムを刻みながら、街を一周する。
挨拶をしながら廻って、みんなすんだら、馬小屋に到着。
そして降ろして、バイバーイと声をかける。
こんなスローライフは、だいたい二年ぐらい前から始まった。そのおかげかはわからないが…シャーロットと本当に疎遠になっていた。一緒に住んでいるのに。
そして…なぜかシャーロットの影に男が見え出した。一日中、外に出ないのに。なぜだろう…
「お、お兄ちゃん…」
「ん?どうかした?」
すると、少女はもじもじしながら、俺を見上げた。
もしかして…
「乗る?」
俺がニコッと笑ったら、彼女はゆっくりと頷いた。
女の子だから丁寧にウォルの上に乗せ、俺は後ろに乗った。
…もし、父さんがバンパイアにならなかったら、俺とシャーロットはこんな風に過ごしていたのかな?




