72.彼女の物語 第2章 〜一番星〜
父さんと母さんが死んだ後、俺はしばらく『勇者』という扱いを受けた。
もちろん、そんな扱いは、ムショに入れられるより酷だった。まあ、入れられたことはないけど。
だから、しばらく無情な人間から離るため、旅に出ようとした。
その事を理解してくれるだろうとクレイグに相談したが、大反対。
「やめろよ!そんなことして、何になるんだ!」
「…いいじゃん。別に」
「よくねーよ!つーか、シャーロットはどうすんだ?放って行く気かよ!?」
この時、シャーロットはすでに部屋にこもっていた。
カーテンを閉め、ドアも閉め、一日一回話せたらいい、というぐらいになってしまっていた。
「…一緒に行く」
「お前の勝手で物事を決めんな!」
その彼のセリフで、俺の脳のどこかがプチンと切れた。
「…くせに」
「は?今なん…」
「何もわかってないくせに!」
そう言い放つと、俺は駆け出していた。
この時、俺は初めてクレイグに対して、強く当たってしまった。
「シャーロット、行こう?」
「やだ!」
「でも、ちゃんと…」
「絶対やだ!」
彼女の対応が冷たくて、俺はショックを受けた。
…守ったのに。父さん殺してまでして守ったのに…
仕方ない。と、俺は二人の遺骨を持った。
俺の街には、火葬の文化はない。でも、バンパイアを恐れた住民が、遺族の俺の許可なく燃やしたのだ。
気持ちはわかる。頭と胴体がバイバイしちゃっているバンパイア。ミイラみたいにしわくちゃで、生きていた様子が全くない人間。
でも、言って欲しかった。
言ってくれたらオーケーしてるわけじゃないと思うけど、でも…とにかく言って欲しかった。
人間って、ひどい。
怖いって大人数が思ったら、ためらいもなく燃やしちゃうんだから。
でも、俺もいつかそっちのサイドに行きそうで。
怖い。
これから、しばらく俺の話。
シャーロットの話は一度置いておくが、これも大事な話。サラさん、しばらく聞いててね。
俺は両手に遺骨を持って、トボトボと坂を登った。
軽かった。人間って、こんなもんなのか。と、悲しくなった。
その軽い遺骨は、星が綺麗に見える丘に埋めた。最期は真っ暗で終わっちゃったから。
遺骨を埋めて、野花を添えた後、本当にどこかに消えてしまおうかと思った。全部捨てて。何もかも捨てて。
でも、無理だった。
俺のそばにはいつもシャーロットがいて、彼女を捨てる勇気は全くなかった。
これからどうしていこう?
全く見えない未来に、俺は思わず泣きだした。
「大丈夫?どうかしたの?」
大丈夫じゃねーし。と顔を上げると、そこにいたのは、見たことのない女の子だった。
同い年ぐらいで…真っ白なワンピースを着ていた。その姿に一瞬見とれたあと、俺は目を背けた。
「別に…なんでもないけど?」
嘘つき。俺は心の中で自分を罵った。
「いいから、お姉ちゃんに話してみなさい」
「俺をガキ扱いするな!」
俺は女に言い放つと、フラフラと座り込んだ。
…なんだよ。結局同じじゃん。こいつだって…ただの偽善者じゃん。
「大丈夫…?」
「大丈夫じゃねーし…」
ばかかよ、こいつ。普通にわかるだろ?人が大丈夫かどうかってぐらい…
今、俺の感情には怒りしかないのに、なぜか泣いてしまった。なぜか、涙が出てきた。
彼女は俺の顔を見ずに、父さんと母さんに手を合わせた。こんなこと、するやつなんだ…
「大切な人?」
そんなこと、聞かなくてもわかるだろ。
「…父さんと母さん。金がないから、綺麗な星空を見れるここに埋めてあげたんだ」
「そっか…」
そっか…じゃねーだろ。他人事ですか?
俺はこんなにも苦しんでいるのに、悲しんでいるのに、誰もわかってくれない。
その時、何かが頭にぽんぽんと…あいつ!?
「な…っ!」
何すんだよ!?
俺は思わず女の手から離れた。
「ここなら天国も近いから、きっとお父さん達も喜んでいるよ」
…は?
天国が…近い?
「そう…なのか?」
よくわからず俺が返事をすると、彼女は俺にニコッと笑った。
「そうよ。こんな綺麗な丘に埋めてもらったんだから…」
綺麗な丘…
俺は少し風を感じたあと、顔を腕に埋めた。…こんなこと言うやつ、初めて見た。
こいつ…もしかして、天使かもしれない。幼い俺は、その仮説に疑いもしなかった。
もし天使なら…俺の言葉を父さん達に届けてくれるかもしれない。そんな淡い欲望を持って、俺は勝手に親の話をした。
「なあ。俺、二人が死ぬ前に、悪いことしちゃったんだ。そのこと、怒られる前に、旅立たれちゃった。後悔しても、しきれないよ…」
俺は、こんなばかげた質問に、天使がどう答えてくれるか期待して顔を覗こうと思ったが、彼女は俺と背中合わせに座った。
「私の母さんがね、言ってたんだ」
…母さん?ってことは、マリア…的なのかな?
不真面目なキリスト信者には、少し難しい。
「人が死んだら、星になるんだって。だから、星に向かって、ごめんなさいしたらいいよ」
星?
俺はゆっくりと空を見上げた。夕焼けがまだ終わっておらず、星は一番星のみ。
でも、その一番星はとっても光っていて…強くって。父さんなのかな?
ダメだよ、父さん。せめて、天国では母さんと一緒にいてあげてよ。
そう思って、俺は父さんに謝った。
「ごめん。母さん、守れなかった。それに、父さんを…殺しちゃった。お墓も簡素だし、シャーロットも引きこもちゃって…ごめん。お兄ちゃんなのに、男なのに…ごめん」
泣いちゃった。
男なのに、泣いちゃった。
でも、これは、いつもの涙とは違うよ。多分…違うよ。
だから、泣かせて。
今だけさ。




