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黒から私は色を作る  作者: 西川 涼
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71.彼女の物語 第1章 〜手遅れ〜

 嗚咽を漏らしながら、彼は顔を覆い隠した。

 私はどうすればいいかわからず、ただ横で黙って座り続けた。


『真実を知ることは、罪じゃないわ』

『ただ、その真実をちゃんと理解し、昔の重荷を下ろしてあげることが、大切なのよ』


 アンドリューのお母さんが言った言葉が、私の頭の中で反響する。

 そうよね…きっと、そうよね!

 特に理由が無いのに、「大丈夫」だなんてことを言う方が偽善者よ。私は、絶対そうしない。

 私は…人間だもの。人の痛みがわかる人間だもの。


「アンドリュー。名探偵と呼ばれる人間は、どうしてたくさんのトリックが組み込まれた謎から真実を見つけられると思う?」

「…それ、なぞなぞ?」

「正解は、正確な情報があるからよ」

 私がまっすぐにアンドリューを見つめると、彼は視線に気づいて顔を上げた。

 不覚にも、その姿が可愛いと思ってしまった。さっきもよ…さっきも可愛いと思っちゃった。

 でも、その子犬のような目は、「助けて」って訴えてくるようだった。だから、私には彼の涙を黙って見ることはできなかった。


「教えて。アンドリューのこと。シャーロットさんのこと。知ってること…たくさん」

 アンドリューは私の言葉に、なぜか目を丸くしていた。唐突だったからかな…?

「アンドリュー…?」

 彼はハッとした後、すぐに涙を拭いた。そして、私と目があった。


 真剣な表情。

 悲しいはずなのに、そうやって凛としていると、なんだか私が悲しくなってくる。

 まだかっこつけないといけない相手なんだ。と言われたような気分で。

 なんだか悲しい。



 …わけがわからない。

 サラが…なんかいい方向で成長した気がする。

 中途半端に同情されたくない。この前はそう思っていた。

 その思いに気づいたのか、彼女は俺がしてほしい行動をしてくれた。

 嬉しかった。気づいてくれたのが、とても…


 でも、なんて言うんだろう…見透かされた?みたいな。そんな気分になって。少しだけ、恥ずかしくなって。ドキドキして。彼女の真剣な顔に、見とれちゃって。

 だから、俺は凛とした表情を作った。

 男は弱さを見せすぎてはいけない。見せてもいいけど、見せすぎはだめ。

 だから、サラに真実を教えるけど、淡々と話そう。そう決めたんだ。


「気づいてないふりをしていた」

 そう俺は、静かに切り出した。

「多分、気づいてたのに、気づいてないふりを…いや。きっと、気づく勇気もなかったんだと思う」

 顔を見れない。彼女の真剣な顔を、見ることができない。


「アンドリュー…辛いと思うけど、ちゃんと話して。最初から、全部」

「わかってるよ」

 俺の口から出たのは、思ってたような口調とは違い、比較的優しい口調だった。


『アンドリュー。自分を閉ざすな。辛くなるのは、お前の方だ』


「…わかってるよ」

「え?」

 二度も同じフレーズを言ったせいか、彼女を困惑させてしまった。

 サラに向かって笑いかけたら、お返しがなぜか苦笑い。…心配させちゃったな、俺。

「いいよ。話す」

 淡々と、冷静に。俺は弱さを見せすぎた。



 遡るなら…きっと、父さんがバンパイアになってしまい、母さんを殺した時。そして、そのまま俺が父さんを…バンパイアを殺した時。

 あの時点で、運命の歯車とやらは狂ってしまったのだと思う。

「母さん…父さん…」

 俺は涙に気付かず、もう死んだ両親に話しかけていた。

 部屋は血だらけ。俺の好きな緑の服も、自慢の赤髪も…気持ち悪い赤に染まってしまった。


「お兄ちゃん?」

「…シャーロット」

 妹が、こちらにやって来ようとした。

「見るな!」

 ハッとした俺は、シャーロットの顔を隠そうとした。

 でも、もう遅かった。多分、俺が泣いている間に、亡骸を見てしまっていたのだろう。


「お兄ちゃん…」

「大丈夫…大丈夫だよ…」

 俺は小さな妹を抱きしめた。ちょっと大きいぐらいの彼女を、ずっとずっと抱きしめた。

 シャーロットの服が、真っ赤になる。真っ白だった彼女の服が、真っ赤になる。


 でも、多分俺はこの時には気がついていた。妹は、もう手遅れだって。

 普通に考えて、そうに決まっている。

 あの時、妹は母さんと一緒にいていた。つまり、だ。

 父さんが母さんより先に妹の血を吸ってたとしても、全然おかしくはないんだ。

 その証拠に、彼女の首筋には、奇妙な穴が空いていた。

 この時点で、シャーロットはバンパイアになっていた。

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