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黒から私は色を作る  作者: 西川 涼
70/97

70.告白

 テーブルに着くと、彼女はキョロキョロと周りを見渡した。

 やめろよ…金が無いみたいじゃん。


「ねえ、アンドリュー。ここ、大丈夫?」

「大丈夫だよ。ここの街で晩飯食べるのはこれで最後なんだ。少しぐらい、いいもん食べようぜ?」

 少し迷ったような目の動きをしたが、肩をすくめて黙りだした。ここは静かにしておくべきと判断したんだろう。

 ウエイターがやってくると、俺の微妙にみずぼらしい格好に顔をしかめたが、注文したら黙って厨房に行ってくれた。…ああ、良かった。

 暇になった俺は、サラが見ている方向を探した。窓…か。

 少し遠くにある窓は、さすがこの店と言うべきか、ピッカピカに磨かれていた。窓って…こんなに綺麗に磨けるんだ。


「星が、綺麗ですね」

「うん」

 急に敬語で俺に話しかけたサラに、俺は思わずドギマギしてしまう。

「アンドリュー。なんで星って綺麗なんだろうね」

「さあ」

 彼女は俺に目を向けず、夜空を見続けた。


「黒の中にあるからかな?」

「…え?」

「黒に染まっていない、強い光だからかな?」

 彼女の目に、なぜか涙が浮かんできた。まだ落ちてこないけど、下まぶたに水たまりができてきた。

 女の涙は苦手だよ…

 俺はサラから目をそらす。



「美味しかった!」

 私が伸びをしながら叫ぶと、彼はクスリと笑った。


「あ…なんか恥ずかしいことしちゃった?」

「いいや。通常通りだよ」

 それはそれで、なんだかな…

 でも、素敵なお店の目の前で伸びをするのは、ちょっとまずかったかもね。

 真っ暗な道に入る。アンドリューの横顔が、少しだけ見えなくなる。


「サラ…これからどうする?」

「どうするって?」

 私が首をかしげると、彼は長い前髪で自分の隠した。彼の赤髪は、夜空によく映える。星に映った彼の髪は、相変わらず綺麗だった。

 少しだけ彼に黒い影が見えたが、すぐに髪の間からつぶらな目がのぞいた。

 その目は、いつも通りの、いたずらっぽいアンドリューの目だった。

 そして、彼はクスリと笑い、髪をかきあげた。


「丘、行こうよ。きっと目の前全てが、星ばかりだ」



 海。行きたかったな。

 私がバンパイア集団が街に襲いに来た時、逃げてきた丘。アンドリューと見た、満天の星空。その姿は、まだ見ぬ海のようで、とても綺麗だった。

 ちょっとだけ、涙が出そうになる。

 夜に海に行けばいいかもしれない。でも、きっとそれは何か違うような気がして…言葉に表せられない、モヤモヤした感情で。

 とにかく、行っちゃダメだと思った。


「これも、見納めだな」

 彼がボソッと呟いた。

 そうだった…明日、ここから出て行くんだ。

 じゃあ…アンドリューの両親とは、もう…


「…アンドリュー。いいよ」

「え?」

「私、いいの!バンパイアなんか怖く無いわ」

「そういう問題じゃ無いんだ…!」

 アンドリューの叫びが、夜空にこだました。彼の赤毛が、ばさりと顔に張り付く。

 なぜかわからないけど、彼の嗚咽が小さく聴こえた。肩をワナワナと震わせ、小さくなってその場に座りこんだ。

 その姿が、小さいころのアンドリューと重なって、少し可愛らしく見えた。


「どうしたのよ。そんな風に落ち込んで…」

「…」

「…アンドリュー?」

 私が横に座ると、彼は少しだけ腫れた目を私に向けた。まん丸な目が、真っ赤に染まっている。


「あのね」

「うん」

「…あのね」

「いいよ、アンドリュー。ゆっくりで」

 彼は一旦顔を埋めると、決心したように顔を上げた。


「仮面女、覚えてる?」

「うん…」

 涙目で、私に満面の笑みを向けた。

「あいつ、シャーロットだったんだ」

 …シャーロット?


「…俺の妹だよ」

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