70.告白
テーブルに着くと、彼女はキョロキョロと周りを見渡した。
やめろよ…金が無いみたいじゃん。
「ねえ、アンドリュー。ここ、大丈夫?」
「大丈夫だよ。ここの街で晩飯食べるのはこれで最後なんだ。少しぐらい、いいもん食べようぜ?」
少し迷ったような目の動きをしたが、肩をすくめて黙りだした。ここは静かにしておくべきと判断したんだろう。
ウエイターがやってくると、俺の微妙にみずぼらしい格好に顔をしかめたが、注文したら黙って厨房に行ってくれた。…ああ、良かった。
暇になった俺は、サラが見ている方向を探した。窓…か。
少し遠くにある窓は、さすがこの店と言うべきか、ピッカピカに磨かれていた。窓って…こんなに綺麗に磨けるんだ。
「星が、綺麗ですね」
「うん」
急に敬語で俺に話しかけたサラに、俺は思わずドギマギしてしまう。
「アンドリュー。なんで星って綺麗なんだろうね」
「さあ」
彼女は俺に目を向けず、夜空を見続けた。
「黒の中にあるからかな?」
「…え?」
「黒に染まっていない、強い光だからかな?」
彼女の目に、なぜか涙が浮かんできた。まだ落ちてこないけど、下まぶたに水たまりができてきた。
女の涙は苦手だよ…
俺はサラから目をそらす。
「美味しかった!」
私が伸びをしながら叫ぶと、彼はクスリと笑った。
「あ…なんか恥ずかしいことしちゃった?」
「いいや。通常通りだよ」
それはそれで、なんだかな…
でも、素敵なお店の目の前で伸びをするのは、ちょっとまずかったかもね。
真っ暗な道に入る。アンドリューの横顔が、少しだけ見えなくなる。
「サラ…これからどうする?」
「どうするって?」
私が首をかしげると、彼は長い前髪で自分の隠した。彼の赤髪は、夜空によく映える。星に映った彼の髪は、相変わらず綺麗だった。
少しだけ彼に黒い影が見えたが、すぐに髪の間からつぶらな目がのぞいた。
その目は、いつも通りの、いたずらっぽいアンドリューの目だった。
そして、彼はクスリと笑い、髪をかきあげた。
「丘、行こうよ。きっと目の前全てが、星ばかりだ」
海。行きたかったな。
私がバンパイア集団が街に襲いに来た時、逃げてきた丘。アンドリューと見た、満天の星空。その姿は、まだ見ぬ海のようで、とても綺麗だった。
ちょっとだけ、涙が出そうになる。
夜に海に行けばいいかもしれない。でも、きっとそれは何か違うような気がして…言葉に表せられない、モヤモヤした感情で。
とにかく、行っちゃダメだと思った。
「これも、見納めだな」
彼がボソッと呟いた。
そうだった…明日、ここから出て行くんだ。
じゃあ…アンドリューの両親とは、もう…
「…アンドリュー。いいよ」
「え?」
「私、いいの!バンパイアなんか怖く無いわ」
「そういう問題じゃ無いんだ…!」
アンドリューの叫びが、夜空にこだました。彼の赤毛が、ばさりと顔に張り付く。
なぜかわからないけど、彼の嗚咽が小さく聴こえた。肩をワナワナと震わせ、小さくなってその場に座りこんだ。
その姿が、小さいころのアンドリューと重なって、少し可愛らしく見えた。
「どうしたのよ。そんな風に落ち込んで…」
「…」
「…アンドリュー?」
私が横に座ると、彼は少しだけ腫れた目を私に向けた。まん丸な目が、真っ赤に染まっている。
「あのね」
「うん」
「…あのね」
「いいよ、アンドリュー。ゆっくりで」
彼は一旦顔を埋めると、決心したように顔を上げた。
「仮面女、覚えてる?」
「うん…」
涙目で、私に満面の笑みを向けた。
「あいつ、シャーロットだったんだ」
…シャーロット?
「…俺の妹だよ」




