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黒から私は色を作る  作者: 西川 涼
最後のクリスマス
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07.街の音

 どう考えても、おのぼりさんにしか見えないわよね。私、こんなにキョロキョロしてるもん。

 だからと言って、この目の動きがおかしくなるまでは、きっと止められないだろう。

 目がからっからに乾いてきた。自然と瞬きを忘れていたみたいだ。

「オディール様。目薬買いますか?」

「…」

 そ、そんな心配しないでよ。



 街には、たくさんの屋台が並んでいた。

 花が売っていたり、野菜が売っていたり…あ、パンやお菓子も売ってるわ。

 何人ものの人が笑いあったり、値段を値切ったり、冗談を言い合う。喧騒という名の音楽は、私が過去に聞いたことのない、素敵な音だった。

 でも…そのせいとは言えないけど、私のこの黒い服が、色とりどりの世界に不釣合と感じてしまった。やっぱり、肩身が狭く感じてしまう。


「聞こえますか?お嬢様」

 ハッと私は顔を上げた。

「き、聞こえるって?」

「ほら、あそこの演奏ですよ」

 ロザリーがずっと握っていた私の手を、強く握りしめた。彼女は少し頭を下げると、もう片方の手を上手に使いながら、ずんずん前に進んだ。私も無理矢理連れて行かれる。


 やっと、息が出来るわ。と思ったとき、余裕ができたからか、すっと音が耳に入ってきた。ギターの音、太鼓の音、バイオリンの音が組み合わさり、そこに人々の声が重なることにより、盛り上がりが増していく。

「サンタクロースの曲ですよ」

「…サンタクロース?」

「あら。知らなかったのですか?クリスマスの夜に、いい子にプレゼントを贈るおじいさんのことですよ」

「へえ…プレゼントを贈るだけで、歌もできちゃうのね」

 ロザリーが少し唖然とした顔をした。

 いいことをするだけで曲ができるなら、私も何かしようかしら…と、心のどこかで考え、一瞬で頭から消え去った。このクリスマスが終わったら、私はバンパイアじゃない。と、苦笑する。


「あ、次はマジックですって!」

 すると、パリッとしたタキシードに身を包んだ男が、広場の中央に立った。あの暗い金髪のくるくるした髪は、綺麗な衣装に不似合いだ。あの格好のくせに、同じくらいの年みたいだわ。

「レディース・アーンド・ジェントルマン!さあ、クリスマスの奇跡を目撃しましょう!」

 胡散臭い言い回しで、男は白い手袋を私たちに向けた。

「では、この奇術師と一緒に奇跡を作りたい人はいませんか?」

 そのセリフ聞いた後、ざわりと不穏な空気が流れた。

 私はマジシャンなんか見たことないけど、このシーンでは誰かが手を挙げるべきなのだろう。しかし、さっきから、小さな子供が手を挙げかけて、親が止めていたりする。

 このマジシャン…訳あり?

 でも、この状況がずっと続いてしまっては、みんな困ってしまう。マジシャンの男なんか、だんだんうなだれてしまう。


「私。やってもいいですか?」

 すると、一瞬で静まりかえった。

「オディール様!?何を…!」

「私はある程度の危険に遭ってみたいの。嫁に行っちゃて、自由がなくなる前にね。」

「でも…!」

「では、美しいお嬢さん。どうぞこちらへ…」

 マジシャンのうやうやしい声に、私は前へ進み出た。


「あの子。ここの子じゃないね」

「誰か、止めてやれ…あいつはいかれてるんだから…」

 あら。すごい言いわれよう。

 マジシャンは気にせずに、大きな台を手のひらで示す。

「さあ。ここに立って」

 私が立つと、マジシャンが私の耳に声をかけた。

「僕が指を鳴らしたら、目を閉じて…そして、絶対、動かないでね」

 マジシャンは子供っぽく笑うと、パチンと彼は指を鳴らした。

 私はすぐに目を閉じると、マジシャンは声を張り上げた。

「今、彼女に催眠術をかけました。これから、彼女の身に恐ろしいことが起こりますよ」

 …催眠術なんて、されていないけど?

 そのセリフに、その場にいた人の息を飲む声が聞こえた。

 あの男に、恐ろしいことだなんてできるのかしら?と思い、私は無視して目を閉じ続ける。

「スリー、トゥー、ワン!」

 その叫び声とともに、何かが燃える音がしだした。さっきまでの喧騒とは全然種類の違う喧騒が起きた。

「あぶねぇ!」

 誰かの忠告は、熱くなっていく世界には届かない。

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