69.雑な二人
とても運が良かった。
アンドリューが待ち合わせに指定した時間は夜の八時。もちろん、太陽は落ちきってる。
私がバンパイアってバレることは、とりあえずなさそうだ。
え?ロザリーはって?
彼女もクレイグとともにディナーに行くそうだ。私たち行く場所とは全然違うみたい。
やっと八時になり、私は待ち合わせの池の辺りまで行った。
星が反射し、まるで風景一面が夜空みたいだった。
そっと池に手を伸ばしてみた。わっ!冷たい…夜空に波紋がつく。
「サラ」
後ろから疲れた声がした。池に大好きな彼の顔が映った。
「アンドリュー!大丈夫?」
彼の顔は、少しやつれていた。花を持っている姿は、なんだかお葬式に行く前の人みたい。
でも、ちょっと微笑んだ時、アンドリューの頰にはえくぼができて、なんとなくホッとした。
「じゃあ…行こうか」
私が声をかけても、彼はその場を動かなかった。
「どうしたの?」
「うんとね…」
アンドリューは浮かない顔で、頭をぽりぽりと掻いた。
「ディナーの前に、伯爵の話をしてもいいか?」
俺がそう言うと、目の前の女性はちょっと顔をしかめた。
ごめん…これだけはちゃんと話したいんだよ。
「わかったわ。ここで話す?」
「いや…店に向かいながらにしよう」
「わかった」
そして、彼女は上品に笑う。
俺は、まだ聞けていなかった。サタンが本当に来て、本当にサラをバンパイアにしちゃったのか…
もし?と思うと、俺はいつも頭を抱えてしまう。俺は賢くない。何も方法なんて、浮かばない。
でも、サラはバンパイアじゃないと思う。
バンパイア特有の寒気もしないし、奴らのようなオーラがない。真っ黒なオーラが、どうやっても見えない。
この世の全ての人が彼女をバンパイアと言っても、俺は否定し続ける。
そのくらい、サラの目はとても澄んでいた。
すると、彼女は急に俺の目を覗き込んだ。
「どうかした?」
「どうかしたって?」
「だって…アンドリューったら、一人で笑っているもの」
そして、サラはふふふと笑う。さっきまで緊張していたみたいなのに、こんな顔で笑うなら大丈夫だろう。
「サラ。今から伯爵を殺した後、アレクさんがどうしたか全部話す。だから、ちゃんと聞けよ」
「わかった」
彼女の目には、少しだけ寂しさが混じっていた。いくら憎い相手でも、死んだらちょっとは悲しむようだ。お人好しだな…
一つ、ちゃんと言っておく。
アレクさんは伯爵を剣で真っ二つにしたそうだ。それはそれは、綺麗な真っ二つで、周りにいた銃士の一人は吐いてしまったらしい。
きっと、俺があの場にいたら、そうなっているだろう。
だって、シャーロットとわかった瞬間に殺せなくなってしまうほど、俺の意思は固くなかったからだ。
今日の朝、俺たち銃士はいつもミーティングに使っている場所に集められた。まあ、要するに、城の中の庭だ。
そこでは大体叱っただとか、やめさせられたりだとか、褒められたりだとかがされる。最後のは、ごく稀らしい。
俺はなんとなくどんな話しがされるかわかっていた。多分、俺の話だ。絶対、やめさせられる。
勝手に部隊を離れたり、敵を殺すチャンスを逃したり…とにかく重罪だ。
重い足取りで向かうと、なぜかそこには、変な研究者らしき人間がたくさんいた。
「よお、アンドリュー」
「どうも…」
アレクさんは、俺の話を誰からも聞いていないのか?それとも、クレイグの巧みな嘘に騙されたとか…まあ、どうでもいい。
「今、何をしてらっしゃるのですか?」
「バンパイア解剖の結果トーク」
「げ!」
か、解剖!?
まじかよ…そんなことをしちゃうんだ…
「で?理解できるんですか?」
「さあ。俺よりトップの人間がわかりゃーそれでいい」
…雑。
もういいや。
とりあえずここから離れようとすると、アレクさんが呼び止めた。
「アンドリュー。お前に暇を出す」
「…!?」
暇を出すって…
「要するに、辞めろってことですか?」
「違う!」
彼はど迫力の声量で、俺に向かって叫ぶ。
「サラって女。そいつを連れて逃げろ!!」
「え?」
なんでそんなことを…と聞こうとする前に、アレクさんは俺に言った。
「あの伯爵が言ってたんだ。いくら頑張っても、サラはバンパイアから逃げられないって…サラって、お前の嫁だろ?」
…まだ嫁じゃないです。
そう言いかけた瞬間、彼は封筒を俺に押し付けた。
「この金…」
「持ってけ。逃走資金にあてろ」
そして、アレクさんは俺の肩を持って、にやりと笑った。
「お前は嫁を守れ。俺たちは、お前らのためにもバンパイアを倒す。わかったな?」
「はい!」
まさに、親父からのお言葉って感じ。そして、仲間からの言葉でもある。
「これから俺たちとお前らは違う道を行く。だが、目的は同じ。誰かを守りたいだ。絶対にそれ、曲げんじゃねーぞ」
「はい!!」
…格言だなぁ。
この言葉を、俺は胸に刻みこんだ。一生忘れないように。
そして、ミーティングでは、珍しく褒められた。もちろん、俺とクレイグが。
これは、アレクさんなりの餞別かどうかはわからない。
でも、評価してくれたのは、とっても誇らしかった。
「てな訳で、サラ。明日辺りにこの街出るぞ」
…え?どこらへんが『てな訳で』なの?
雑なのは、あなたも同じじゃない。と、私は心の中で笑った。




