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黒から私は色を作る  作者: 西川 涼
すれ違い 〜サラサイド〜
64/97

64.バイバイ

 束縛。

 その言葉が、私の頭によぎった。

 危険ってわかってる。だけど、もう…すべがない。私の足に限界が来ちゃった。震えながら、へなへなとその場に座り込んだ。

 もう…ダメだ。

 アンドリュー…助けてよ!私の騎士(ナイト)なんでしょ!?

 そんなことを心で叫んでも、彼に届くはずがない。


「君にあるのは、二つの道」

 サタンが一歩前に歩いた。

「一つは俺の嫁になることだ。その場合、俺はサラをバンパイアにはしない」

「…!?」

 …真剣な目。アンドリューがよくする目だ。

 サタンがこんな目をするだなんて、知らなかった。


「…信用できるわけないでしょ?」

「俺はルシフェル伯爵が嫌いなんだよ。バンパイアを残したいっていう意思はあいつだけのもので、俺は違う。サラと同じ種族になりたいけど、永遠に一緒にいてくれるなら、人間でいい。むしろ、人間でいてほしい」

 …わけわかんない。彼の思惑が、全くわかんない。

 なのに、目はじっと私をとらえている。


「この前、私をバンパイアにしようとしたじゃない?」

「あの時とは、変わったんだ」

 サタンの口角が、ふっと上がる。…悪魔の笑みだ。

 一瞬…一瞬だけど、人間らしいと思ったのに。

 彼は…人間だったころがあったのかしら?そうじゃないと、あんな顔をした理由が本当にわかんないよ。


「何かたくらんでいるの?」

 私の質問に答えず、彼は私の顎をぐっと上げた。

「いいや。ただのベジタリアンフィアンセの気持ちさ」

 すると、彼は自分の牙を自慢するように、にんまりと笑う。…全く信用できない。


「二つ目の道を言ってやろう」

 すると、サタン顎を持っていなかった手で、私の頰をすっと撫でた。


「今回は、君を見逃そう。何もかもなかったことにして、俺はこのドアから消える」

 彼は顎で、私の奥を指した。

 そして、まるで舐め回すような手つきで、私の顔を撫でまくった。

 払いたいのに…なのに、私は硬直したまま。動けなくって、寒くって。魔術ではない、バンパイアの冷たさだわ。


 この時、私は誓った。

 絶対、サタンのお嫁さんなんかならない。

 もし、サタンが人間なら違っていたのかもしれない。もう少し、考える余地はあったのかもしれない。

 人間だからしない行動、バンパイアだからする行動もあると思う。

 でも…私はきっと、サタンが人間でも、アンドリューを選ぶ。アンドリューは格別。普通の人とは違う、運命の人だもん。


「その代わり、お前は俺と同じ種族になれ」

 私の考えていたことは、サタンの声で遮られた。

 …ちょっと待って。同じ…種族って?


「バンパイアになれってこと?」

「ああ」

「…おかしいじゃない!さっきと矛盾している!」

「矛盾していようが、俺はこんな変な条件を出せる。その権利がある」

「…」

 権利が…あるわ。

 すっと涙がこぼれた。頭が真っ白になる。

 …どちらを選んでも、アンドリューと結ばれることはない。


 この時、やっと私は硬直から解放された。

 顔を両手で覆い隠す。涙で、私の手はビショビショに濡れる。真夜中ということを忘れて、私は大声で泣きじゃくった。声が枯れるくらい、泣きじゃくった。

 誰か…気づいて。そう願って。願って。願って。願って。

 でも、誰も来ない。猫一匹の鳴き声もしない。

 …ここに…私は一人ぼっちなんだ。

 私の肩に、彼の手がポンと置かれた。


「選べ」

 …冷たいよ。サタンの声。気温。何もかも。


「アンドリュー…」

「は?」

「アンドリュー…」

「…」

「アンドリュー…!」

 キュッと心臓が縮まった。涙が止まった。

 痛いよ。全部…痛いよ。


『ああ。痛いよ。全部痛い。でも、痛みを理解できる間は、俺たちは人間だ』


 私は、人間を比喩的意味で捨てるか、人間を本当に捨てるか…

 でも、どちらでも…私は痛みを理解できなくなるだろう。


「アンドリューって野郎の方がいいんだな?」

「…」

「俺よりも!あの男の方が大事なんだな!」

「…私は、あなたを好きになれない。アンドリューが好き」

 歪んでいたサタンの顔は、もっと歪んでいく。


「初めての感情なの」

 私はサタンに駆け寄った。口を震えながら、私は必死にお願いした。


「サタン。あなたならわかるでしょう?好きって感情を捨てたくないの!お願い…お願いだから私を…助けてください…」

 泣き崩れた。彼の目を、もう見れなくなった。


 まるで、走馬灯のように…私の記憶がフラッシュバックされた。

 アンドリューの困った顔。驚いた顔。悲しそうな顔。笑顔。

 私は俯いていると、ネックレスのチャームがあたった。

 忘れていた。ずっと、一緒だから。一緒だから気付かなかった。

 クリスマスにアンドリューがくれたネックレス。小さなお花のネックレス。

 クリスマスの時の記憶が蘇った。色とりどりの花火。教会の鐘の音。アンドリューの叫び声。


『幸せを忘れんな』


 アンドリュー。あなたのおかげで、幸せです。どんなことがあっても、幸せです。



「眠れ、オディール。君は二つ目の道を選んだ。せめて、楽に逝かせるよ」

次回から新章です。

両方の話を一回まとめたあと、二人は再会します。

そろそろ佳境です。

最後まで、頑張っていきます!


Bye, see you next story...

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