63.フィアンセ
目を覚ます。
この寒気…嘘でしょ!?
まさか、まさかロザリーが…!?
恐る恐る振り返ったら、牙をむき出しにしたロザリーが笑っていた。
でも、ロザリーがバンパイアなわけ…
私はハッとした。
「あんた、ロザリーじゃないでしょ?」
「やっと気づいてくれたんだ」
「…!」
ロザリーの姿なのに、声はサタン。間違いない。
この人は…バンパイアのサタンだ!
「なんだよ。久しぶりにフィアンセに会った反応とは思えないね」
「フィアンセ…!?」
そんなこと、私は認めていないから!
私が動揺を隠せないでいると、サタンはどこからかマントを取り出し、竜巻のような風が吹いたかと思うと、彼は元の姿に戻っていた。
「ロザリーはどこ?」
「近くの森で寝ているよ」
「まさか…!」
「大丈夫。死んでない。もちろん、俺と同じ種族にもなっていないよ」
…そんなの、信じれる訳ないじゃない。
彼は、綺麗な笑顔を私に向ける。でも、目には光がなく、表情がだんだん歪んでいくように見える。
「どうして…」
「ん?」
「どうして、ロザリーに森に行かせることが出来たの!?それに、このドアには十字架を…」
「相変わらず、ばかだね」
私は彼の勢いに押されて、思わず床に尻餅をついた。サタンの高い背のせいか、彼の顔がよく見えない。
「森に行かせるぐらい簡単さ。俺の魔術で操るだけ…日中でもできるよ?」
「じゃあ…」
「あのお飾りは、オディールが隠してくれたじゃないか!」
…え?
そんな、隠すとか…
してた。
私の後にロザリーが入って来たから、私がドアを開けただけで、自然に十字架を隠すことができる…
一杯食わされた。
「言っとくけど、自業自得だからね」
「ち、違うから!」
私が真っ青になりながら頭を抱えていると、ふと彼が私を抱きしめた。
「ここまでしないと、サラと会えないと思ったから…ごめん」
…何これ。
なんで、こんなふうに優しく…?
逆に恐ろしくなり、私の震えが止まらなくなる。
「サラ。君のことを、ちゃんとサラと呼ぶよ」
「え?」
どういうことよ。こんな言葉をかけられているのに、恐怖しか感じない。
「あのさ。ルシフェル伯爵が死んじゃったんだ」
「…伯爵が?」
もしかして…アンドリューが?
不意に私はアンドリューを心配した。ルシフェル伯爵と戦っただなんて…怪我していないかな?変な魔術をかけられちゃったりしていないかな?傷ついて…いないかな?
すると、急に腕が私をもっと締め付けた。く、苦しい…
「あの男のことを考えていたのか?」
「…あんたには関係ないでしょ!?」
私はすぐに腕を振り払い、サタンから距離をとった。…腕が痛い。
「サラ。君は俺から逃げられないよ」
…なんなのよ、こいつ!
怖いし、気持ち悪い。すぐに…すぐに逃げなきゃ!
後ずさりをし続けていると、私の背中にドアノブがあたった。
そうよ…逃げなきゃ!今すぐドアを開けて、ロザリーを見つけ出す。そして、アンドリューとクレイグと合流し、サタンから…逃げなきゃ!逃げ続けなきゃ!
夜が明けるまで、逃げ続けられたら…多分。ううん、絶対逃げられる!
私はドアノブに手をかける。
ガチャン。
ガチャン、ガチャン、ガチャン、ガチャン。
…開かない?




