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黒から私は色を作る  作者: 西川 涼
すれ違い 〜サラサイド〜
61/97

61.後ろの黒

 いい匂い。

 マリオンの料理は、私が病気の時だけ食べていた。その時、とても美味しくって、病気が治っても仮病を使った時があった。

 ああ。もちろん、料理長のご馳走も美味しかったわよ?

 でも、やっぱりルシフェル伯爵と一緒にご飯を食べるだけで、料理の質が落ちると思う。実際、あの人の寒さのおかげで、スープが一気に冷えちゃったし。


「サラ様。玉ねぎが足りないから、買ってきてくれますか?」

「わかったわ」

 私は、何ができるかなーと楽しみにしながら、そーっと外に出た。

 マリオンの背中…楽しそうね。

 さて。玉ねぎ買いに行かなきゃ。



 そういえば、いつロザリーとジョニーさんは帰ってくるのかしら?

 というか、ジョニーさんは見つかるのかしら?私も探しに行こうかしら…?

 でも、やみくもに探しに行っても意味がないだろうから、やっぱり玉ねぎを買いに行くことを優先することにした。


 野菜屋さんに行くと、人はほとんどいなかった。店じまいの途中だしね。

 さあ、玉ねぎ、玉ねぎっと…

 一個でいいかしら?と私は野菜を買う。


 買って外に出ようとしたら、ふと赤いトマトが目に入った。

 思い出すな…アンドリューが私を助けてくれた時に空を飛んだトマト。あの混乱はひどかったわ…

 あの時から、まだ一ヶ月ぐらいしか経っていない。驚きよね。そのくらいしか街に住んでいないのに、こんなにこの幸せな生活に慣れてきている。

 時間が過ぎるのは早い。幸せな時間は、すぐに過ぎ去って行く。


 私は星が輝く空を見上げながら、のんびりとこれまでのことを振り返った。

 私は今回のことで、永遠ってことをちゃんと考えるようになった。

 アンドリューとの生活は幸せ。ロザリーとクレイグの喧嘩を見るのも楽しい。マリオンとジョニーさんの熱々な様子を苦笑いしながら見るのも楽しい。


 いつまで…続くのかな?

 私に…永遠はあるのかな?なんとなく不安になった。

 いつもあるの。まるで影のように、私の後ろに黒がある。

 幸せになんかなれないって、私の影が言っている。


 そして…その黒が、もうすぐ実体化しそうで…怖い。



 帰ってきた頃には、ジョニーさんとロザリーがもう帰って来ていた。

 部屋にはお肉のいい匂い…すぐに玉ねぎを持っていかなきゃ。

「ジョニーさん。ロザリー。お帰りなさい」

「あ、ああ…」

 彼は少し目をそらしながら返事をした。やっぱり、まだちょっと気まずいのかな?


「マリオン。これ、玉ねぎ。間に合った?」

「サラ様!すみませんが、玉ねぎを切ってくれますか?」

「わかったわ」

 私は忙しくて顔を向けてくれないマリオンに微笑んだ。ちょっと…こっち向いてちょうだいよ。

 でも…なんとなく嬉しい。

 私はマリオンがママのように見えた。きっと、私がママのことを覚えていないからね。

 だけど、私はマリオンと一緒に台所に立てるのは、やっぱりママみたいで、ずっとこの時間が続けばいいな、って思いだした。


「サラ様?」

「ああ。ごめんなさい」

 私は玉ねぎの皮をむき、包丁を出した。

 半分にして、薄く切っていく。一応、毎日ロザリーと料理しているのよ?

 トントントンと切ると、だんだん目から涙が出てきた。いったいな…


『ああ。痛いよ。全部痛い。でも、痛みを理解できる間は、俺たちは人間だ』


 ちょっと。全然方向性が違う言葉じゃない。アンドリューの言葉が全然違う意味で出てきたわ…

 いつ、帰ってくるかな?いつ、また彼の笑顔を見れるかな?

 そう思うと、玉ねぎを切るスピードが速くなる。


「サラ様!どうしたんですか!?」

 涙を流しながら玉ねぎを刻むって…客観的に見たら、気持ち悪いわね。

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