58.帰ってきて!
私は、家の前に十字架を飾った。
木の枝で作った可愛らしいものだが、ちゃんと神父さんが作ったものだ。効果抜群!だろう。
これは、べつに飾りってわけではないけど、おかげでドアが可愛らしくなった。
そのあと、私はロザリーと一緒に雑貨屋と花屋にに行き、部屋の飾りをたくさん買った。
「可愛くなりましたよねね」
「ええ。可愛くなったわ」
想像以上の出来だわ。絵本の中にある世界みたい。
窓辺には、ピンクの花。濃い茶色のカーペット。そして、ちょっと古かった布団カバーも、カラフルなカバーに変えた。
まさに、理想の生活。
私がずっと思っていた、理想の生活だわ。
そして、ここにアンドリューとクレイグが帰ってくるのね…ああ。そう考えるだけで、嬉しいわ!
私はにっこりと、ロザリーに笑いかけた。
「早く帰ってきてほしいわね!」
「ええ」
すると、彼女は少し口を押さえて笑った。
「どうかした?」
私が尋ねると、彼女は私に負けないくらいの笑顔を私に向けた。
「ちょっと前より明るくなって、よかったな。と思いまして」
「それっぽいこと、この前も言ってたじゃない」
「そのくらい、嬉しいってことですよ」
「からかわないでよ…」
私が頰を膨らますと、ロザリーが意味深な視線を向けた。
すると、誰かが階段を登ってくる音がした。
ロザリーが少しため息をつきながら、ドアに近づいていった。きっと、あの人ね。
「どちらさ…」
「サラ様!このマリオンを、しばらくの間泊めてくださいまし!」
…マリオン。別にいいけど、あなたのおかげで、ドアに潰された人がいますよ?
ボロボロなロザリーが、ヘロヘロになりながら紅茶を注いだ。
マリオンの分だけコップを温めなかったのは、絶対さっきの恨みからね。
「どうかしたの?顔が真っ赤よ?」
「どうもこうもないですよ…」
彼女はまるでお酒を飲むような雰囲気で、紅茶を煽る。ロザリーがこっそりいーっとしたのを、私は見逃さない。
「ジョニーがひどいんです!またお店の人に騙されて、使えない掃除用具を買って…」
ぶはーと、豪快なため息をつく。隣のロザリーの様子からして、もう絶対にマリオンに紅茶をいれないと誓ったのだろう。
「でも、それだけお店を綺麗にしたいってことでしょう?ジョニーさんらしいじゃない」
「使えなかったら、全く意味ないです!」
…あらら。
マリオンは、『使えない掃除用具を買ってきた』ということを怒っているのではなく、『自分に相談なしに買ってきた』ということに怒っているんでしょうね。
私がそう話すと、彼女は涙目で頷いた。
「その通りですよ、サラ様。なのに、あの男は!」
マリオンの大きな拳が、机を叩く。カシャンとコップが音をたてたので、ロザリーが慌てて片付けた。ああ…まだ飲んでいたのに。
ロザリーが怒りながらキッチンに入っていくと、マリオンに向かって、「ジョニーさんが信じられないなら、離婚すればいいのに〜」と言い放った。
「何ですって…!?」
「マリオン!落ち着きなさい!」
私が大きな声を出しても、全然効かない。
マリオンがロザリーに向かって、どしどしと歩き出す。私が通せんぼしても、片手ではねのけられた。
イテテテ…
「年上の私に向かって、どういう口をするの!」
「もう召使いじゃないから、いいじゃないですか!」
「はあ!?」
「だいたい、お掃除道具を買うとか、ちょー『主夫』じゃないですか!もっとありがたがったらどうですか?」
「い、や、だ、わ!」
「じゃあ、離婚…」
「いやって言ってるでしょう!」
…アンドリュー。早く帰ってきて!
これ以上、女の争いなんか、見てらんない!




