57.人生の先輩
「ねえ。ロザリー…あの…」
「いいですよ」
そう私の言葉を制して、彼女は笑った。
「追究しない、というのも優しさだと知ったので」
「ロザリー…」
本当に…できたメイドね。もっと、すごい人になりそうなのにね。
「ロザリー。もしかして…」
「ジョニーさんに諭されたというのは、内緒なんですよ。だから、サラ様も『内緒』にしてくれますか?」
彼女の目に、『悪巧み』という文字が浮かぶ。
「ロザリー。あなたは本当にできたメイドね」
「お褒めの言葉、感謝いたします」
にやりと笑って、わざとらしくお辞儀をする。これが、城にいた時のメイド服ならすっごく似合うけど、爽やかなオレンジの服じゃあ、この悪い笑顔は似合わないわね。
ロザリーは小さなテーブルの周りにある椅子を、そっと引いた。私が座ると、彼女は私の正面の椅子に腰かけた。
「あのですね…」
ジョニーさんがこの部屋に来たのは、サラ様が出て行ってからぴったり五分後。
その几帳面さから、絶対に重たい話しをすると感じ取った。雰囲気からして、ジョニーさんって嘘をつけないし。
もしかして、家賃の話しかしら…唯一の稼ぎ手、アンドリューとクレイグが旅に出ちゃったし。
でも、私は仕事を始めるつもりだから、大丈夫だと思うんだけど…
「ジョニーさん。お金はちゃんと払いますよ」
「…今、払っていますよ」
ハッとすると、私は手にお金を持っていることに気がついた。払いながら言うのはおかしいわね…
「いえ。なんでもないです」
私はちゃんとお金を渡すと、ジョニーさんはにこりと笑った。
「さて。今日はこれ以外にも、話があるのですが…」
彼からの重い空気を感じ取り、私はすぐに一つの椅子を勧めた。
「サラさんと何かありましたか?」
…え?
さすがの私も、それは予想していなかった。それにしても…よく気づいたわね。
「さほどのことではありません。ただ、何か、大切なことを隠しているだろう、ということだけで…」
「ふむ…」
ジョニーさんは腕組みをしながら、顔をしかめた。私が紅茶の用意をしようとすると、彼は「いいですよ」と苦笑いを私に向ける。
「ロザリーさんは、いつまでサラさんの召使いなんですか?」
「は?」
何を言ってるの?この人…
「いえ。お気に触ったのならば申し訳ない。ただ、サラさんも子供じゃない。自分で解決すべきことと、人に頼るべきことの区別はついているはずだ」
「…」
こんなに温和なフェイスで、かなり筋の通った、厳しいことをおっしゃる。
さすがは、人生の先輩、と言うべきか。
「君がサラさんのことを信用しているのならば、頼るべき時は頼ってくれると信じたほうがいいんじゃないか?」
「この結構いけているセリフの最後に、『まあ、僕がマリオンに言いたいことと、全く同じなんだけどね』と言ってました」
ロザリーは、ふざけてジョニーさんの声真似をしたが、全然似ていないわ。というか、彼女は珍しくテンションが上がっていて、ちょっと変。
「というわけで、大人の意見を聞いた私は、サラ様が話さない限り聞き出さないことにしました!」
「あら。それは助かるわ」
私、嘘をつくのが多分上手じゃないもの。
でも、これって堂々と宣言するもの?
「なので、サラ様。言いたい時にはちゃんと言ってくださいね!」
「わかっているわ。だって、私たち、最高の友達ですもの!」
あらら。私もロザリーのテンションが移っちゃったみたい。なんだか、楽しくなってきたわ。
「きっと、クレイグもジョニーさんみたいなこと、思っているでしょうね」
私がさらっと言うと、ロザリーが急に咳き込み出した。
「大丈夫!?ロザリー!」
「だ、大丈夫…ケホケホ…」
…これ、私のせいよね。
しかし、ロザリーが青ざめながら小声で「クレイグにも気をつけよう…」と言ったのを、私は聞き逃さなかった。




