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黒から私は色を作る  作者: 西川 涼
すれ違い 〜サラサイド〜
57/97

57.人生の先輩

「ねえ。ロザリー…あの…」

「いいですよ」

 そう私の言葉を制して、彼女は笑った。


「追究しない、というのも優しさだと知ったので」

「ロザリー…」

 本当に…できたメイドね。もっと、すごい人になりそうなのにね。


「ロザリー。もしかして…」

「ジョニーさんに諭されたというのは、内緒なんですよ。だから、サラ様も『内緒』にしてくれますか?」

 彼女の目に、『悪巧み』という文字が浮かぶ。

「ロザリー。あなたは本当にできたメイドね」

「お褒めの言葉、感謝いたします」

 にやりと笑って、わざとらしくお辞儀をする。これが、城にいた時のメイド服ならすっごく似合うけど、爽やかなオレンジの服じゃあ、この悪い笑顔は似合わないわね。

 ロザリーは小さなテーブルの周りにある椅子を、そっと引いた。私が座ると、彼女は私の正面の椅子に腰かけた。

「あのですね…」



 ジョニーさんがこの部屋に来たのは、サラ様が出て行ってからぴったり五分後。

 その几帳面さから、絶対に重たい話しをすると感じ取った。雰囲気からして、ジョニーさんって嘘をつけないし。

 もしかして、家賃の話しかしら…唯一の稼ぎ手、アンドリューとクレイグが旅に出ちゃったし。

 でも、私は仕事を始めるつもりだから、大丈夫だと思うんだけど…


「ジョニーさん。お金はちゃんと払いますよ」

「…今、払っていますよ」

 ハッとすると、私は手にお金を持っていることに気がついた。払いながら言うのはおかしいわね…

「いえ。なんでもないです」

 私はちゃんとお金を渡すと、ジョニーさんはにこりと笑った。


「さて。今日はこれ以外にも、話があるのですが…」

 彼からの重い空気を感じ取り、私はすぐに一つの椅子を勧めた。


「サラさんと何かありましたか?」

 …え?

 さすがの私も、それは予想していなかった。それにしても…よく気づいたわね。


「さほどのことではありません。ただ、何か、大切なことを隠しているだろう、ということだけで…」

「ふむ…」

 ジョニーさんは腕組みをしながら、顔をしかめた。私が紅茶の用意をしようとすると、彼は「いいですよ」と苦笑いを私に向ける。


「ロザリーさんは、いつまでサラさんの召使いなんですか?」

「は?」

 何を言ってるの?この人…


「いえ。お気に触ったのならば申し訳ない。ただ、サラさんも子供じゃない。自分で解決すべきことと、人に頼るべきことの区別はついているはずだ」

「…」

 こんなに温和なフェイスで、かなり筋の通った、厳しいことをおっしゃる。

 さすがは、人生の先輩、と言うべきか。

「君がサラさんのことを信用しているのならば、頼るべき時は頼ってくれると信じたほうがいいんじゃないか?」



「この結構いけているセリフの最後に、『まあ、僕がマリオンに言いたいことと、全く同じなんだけどね』と言ってました」

 ロザリーは、ふざけてジョニーさんの声真似をしたが、全然似ていないわ。というか、彼女は珍しくテンションが上がっていて、ちょっと変。


「というわけで、大人の意見を聞いた私は、サラ様が話さない限り聞き出さないことにしました!」

「あら。それは助かるわ」

 私、嘘をつくのが多分上手じゃないもの。

 でも、これって堂々と宣言するもの?


「なので、サラ様。言いたい時にはちゃんと言ってくださいね!」

「わかっているわ。だって、私たち、最高の友達ですもの!」

 あらら。私もロザリーのテンションが移っちゃったみたい。なんだか、楽しくなってきたわ。


「きっと、クレイグもジョニーさんみたいなこと、思っているでしょうね」

 私がさらっと言うと、ロザリーが急に咳き込み出した。

「大丈夫!?ロザリー!」

「だ、大丈夫…ケホケホ…」

 …これ、私のせいよね。

 しかし、ロザリーが青ざめながら小声で「クレイグにも気をつけよう…」と言ったのを、私は聞き逃さなかった。

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