56.草葉の陰サイド
草葉の陰から、私達はサラ様を見送った。
「…その言い方じゃあ、僕たちが幽霊みたいじゃないか」
「幽霊のアフレコしたんだから、正解じゃない?」
まあ、そうだけど…と、我が夫、ジョニーは肩をすくめる。
この気弱な男のどこから最強戦士の声が出たのかしら…?こんな演技力があるなら、役者にでもなればいいのに。
「しかし、ケンカにしては、様子がおかしかったな」
「そうね…」
一人で寂しくお墓参りは、普通に考えて変ね。
しかも、自分の両親ではなく、アンドリューの両親。そして、ケンカの理由も、アンドリューの両親。
因果関係がわからないわ…
「とにかく、マリオンはロザリーに話した方がいいんじゃないか?」
「そうねえ…」
私は頰に手をあて、首をかしげた。頭がいたいわねえ…
「とりあえず、幽霊役を続けるか、聞き耳を言ってしまうか…」
彼はそんなことを言って、頭をぽりぽり。…他人事ねえ。
「ねえ。サラ様って、サンタクロース信じていると思う?」
「そもそも、サンタクロースを知らないと思うけど?」
「…」
そんなことを聞いたことが、ある気がする…
「こんにちは、サラ様」
「あら。マリオンじゃない!」
彼女は、満面の笑みを無理矢理つくってみせる。しかし、彼女の笑顔はまるで仮面のような…模範解答すぎてどうしたらいいかわからない、笑顔だった。
フランス人形によく似たサラ様。今は、城に住んでいた時のように豪華な服ではないが、綺麗な空色の服で、フランス人形のような高貴さは変わらない。
私は緊張を隠しながら、少し彼女に背を向けて、話しだした。
「サラ様は、幽霊って信じていますか?」
「え?なんでそんな話しをしだすの?」
「そ、それは…」
聞き耳立てて、ついでに幽霊アフレコしたって言えない…
だって、あの天然純粋お嬢様よ!?侮辱行為だとかなんだって…
「あのね、マリオン」
私は思わずビクッと肩をあげる。
「アンドリューのお父さんとお母さんと話したんです」
「…」
「とっても素敵な人だった!優しくて、私たちのことをよく考えてくれて…」
サラ様の顔に、木漏れ日が美しく映る。目にも入ったきらめきが、彼女の感情を強く表す。
…言えないわ!こんな、たった五歳の女の子が美味しいものを食べた時のような、満面の笑みをされてしまっては…もう、真実を言うことができない…
「きっと、アンドリューとも仲直りできる。だって、彼らがいるのですもの。きっと…きっと、アンドリューは帰ってくる。きっと、また元どおりになるわ」
「…そう…ですね」
そうよ。そうよ!
私は、アンドリューの両親の言葉を代弁しただけ…
だから悪くないわ。悪く…悪く…
「あれ?マリオンさん?いらっしゃって…」
「わたくしは、わるくありましぇーーん!!」
「…」
私は、マリオンが消えていった階段をのぞいた。
「マリオン…どうかしたの?」
「さあ…」
ロザリーは肩をすくめたあと、私の顔をじっと見た。
「どうかした?」
「いえ…」
彼女はふふっと笑ったあと、三日月型に目を細めた。
「サラ様が吹っ切れたみたいなので、よかったなって思ったんです」




