53.気配
どこだ…どこから出てくる!
「…アンドリュー。前からくるぞ」
「え?」
正面…?
そんな、堂々と…!?
ゾワッ。
温度が一気に冷える。風が吹き、クレイグが持っていたランプが、カシャンと音を立てて壊れる。ぼっと火がついたかと思うと、風でかき消される。
この感覚…奴らだ。
カシャン。
構えていた剣に、火花が飛ぶ。
接近戦はまずい。俺は剣を押し返して、距離を取る。
…重い。俺の俊敏さが、通常の二分の一ぐらいに減ってしまっている。さっきまでの仕掛け…俺たちの体力を落とすためだ。
「卑劣な奴めっ…!」
肩を上下させ、酸素を吸う。汗は暑さからなのか、ちょっとした風邪にかかったからか、それとも…
「アンドリュー、冷静になれ!」
「はい!」
アレクさんは確実に攻撃していく…が、わからない。
なぜだよ…なんで見えない?
ランプが消えてから、結構経ってる。しかし、まだ目が慣れてこない。…全然、見えない。
カン。
俺の前で、金属の何かがぶつかる音がした。アレク…さん?
「気配だけで戦え。でも、出来るだけ早くここから出ろ。わかったか?」
「わかったかって、そんなこと…」
「お前にできないのか?」
彼の声が、地下の部屋中に響き渡る。
「…できます」
俺はすぐに振り返って剣を受けた。いる…気配を感じる!
「できます!」
すぐに跳ね返して距離を取ると、俺はアレクさんと背中合わせになった。
守る。
アレクさんを、先輩を、クレイグを。そして、サラを。
「こんばんは。アンドリュー」
「…こんばんは」
…なんだこれ。こいつ、サタンの声なのに、なんだか違和感が…
「うっ!」
俺に短剣が向かってくる。紙一重でかわすが、風の音がビュッと鳴る。
…当たったらまずい。
でも、短剣ならいい。接近戦じゃないと攻撃できないから、距離を置いたら、必ず近づく。
どこだっけ、出口…
ふっ。
風?風だ。さっき入ってきた場所からだ。絶対…!
天井の簡素なシャンデリアを使って宙に飛び、ドアの近くまで一気に移動する。
「ここまでおいで。バンパイアさん」
鼻で笑った後、すぐに彼は近づいて来た。
さあ、デスゲームだ。
接近戦じゃなかったら戦力外、と思ったら、意外と違うらしい。
短剣をダーツの要領で投げてきやがる。しかも、クレイグさんお得意の拳銃並みのスピードだ。
避けれるのがやっと。攻撃できない…
逃げて逃げて、逃げ続けて、たどり着いたのは例の教会もどき。
俺が神父もどきに変装して、クレイグがボロのタキシードを着て、トマトを吹き出した…あの。
ふと、あの時を思い出す。あの時…あれ?あの時、サタンは…
「アンドリュー殿はこの程度か?」
「…っ!」
隠れていると、サタンの声が聞こえた 。そのあざ笑うセリフは、俺に危機感を覚えさせる。
どうしたらいい?こんなこと、出来るはずが…
俺は、一瞬時が止まった気がした。
…目を見開き、心臓が高鳴る。さっきまでの汗が止まり、少し平衡感覚を失う。
『俺たちは…まさか、マリオネットじゃねーよな?』
クレイグのつぶやきが、耳の中で反響する。真面目に聞いていなかったのに。
「…マリオネット?」
俺は、まさかの可能性に、思わず吐き気がしてしまった。
こいつ…まさか…
「サタンじゃない…!?」




