50.人質争奪戦
木で作られた道を、俺たちはゆっくりとすすむ。両方とも警戒しているが、道はとても遠い。精神が持つ気がしない。
「なあ。このデスゲーム、どう思う?」
俺が質問すると、クレイグはすっと彼の顎をなでた。
「ずっと気になってたことがあるんだ」
「何?」
彼は少し息を吐くと、ゆっくりと喋りだした。
「…もうすでに消えた人間=もうすでに死んだ。と考えていいのか、ということだ」
「え…?」
すると、クレイグは俺の前で後ろ歩きを始めた。
「バンパイアの一般論は知らない。だが、こちら側のこじつけで話を進めると、食材の人間を簡単に殺すのは、あまり勧められる話じゃない」
「…どういうことだ?」
「つまりだ!」
彼の声が、森を反響する。
「新鮮な状態。つまり、生きている状態で、まだどこかにいるんじゃないか?」
「…え?」
…きっと、きっとそうだ!
人間は、先ほどまで生きていた魚を好む。それと同じで、バンパイアも先ほどまで生きていた人間を…
そして、奴ならするだろう。サタンなら、そんな駆け引きをするだろう。
「これ…人質争奪戦になるんじゃないか?」
そう尋ねても、彼は頭を動かさない。
ただ、俺の前をスタスタと歩いてくれている。
…また、この門をくぐるとはな。
恐ろしくも美しい装飾に、俺の鼓動は上昇する。
俺はクレイグと一緒に城の大きな扉まで走っていく。
到着すると、俺たちは背中をぴったりと扉につける。…って、あれ?この違和感…
「クレイグ!」
彼を突き飛ばした瞬間、背中で木が壊れる音がした。ぞっとしながら後ろを振り向くと、たくさんの剣。これって、まさか…
「先輩達の剣だ…」
銃士隊はみんな同じ装飾の剣を持つ。これ程の数の剣があるってことは…やっぱりここにいるんだろう。
「十七本ある」
「十七…」
二十人中、二人は俺たち。あとの一人は…きっとアレクさんだろう。あの人が負ける訳ない。
俺は、真剣な顔で、奥にある巨大な階段を見つめる。それは、まるで今から会う敵を表しているようだった。
「階段だって、必ず終わりがある。終わりがなかったら、それは階段じゃないよ」
隣で彼はくすりと笑う。余裕の笑み。そして、顎を少し引いて、鷹のように睨みつける。クレイグ特有の殺気。これは、面白いゲームになりそうだ。
俺も彼のような殺気を出してみる。
「このケンカ、買おうか」
「もちろん」
…こいつ、最初から決めていたな?
俺たちは、同時に戦場に歩み出す。
一歩一歩、気を引き締めて歩いていく。いつか、ぷつんと集中が切れそうで、怖い。
「先に決めよう」
俺はコインをクレイグに見せる。
「先輩の命か、バンパイア討伐か」
すると、彼は一瞬でコインを奪う。一瞬の微笑の後、すぐに冷たい表情になる。その顔は、厳しい冬の寒さを連想させる。
…やっぱり、二分の一にたくさんの命をかけるのは、あまりにも無責任。あまりにも非常だ。
前を行くクレイグの背中は、かなりたくましかった。
「緊急事態だ。助けられる命を優先させよう」
「了解」
俺はゆっくりと足を地面に置くと、すぐに離した。…これ、動くぞ。
「分かっている罠に、わざと引っかかってみるのは?」
「ファンタスティックだね」
クレイグの目を見ながら、だんだん体重をかけていく。
ガコン。
「…右足、埋まった」
「は!?」
「すぐに抜けるさ。それより…今からの敵だね」
目の前に、黒の大群が押し寄せてくる。カラスだ。
「クレイグ。背中、頼む」
「いや。頼まなくてもいいみたいだ」
「は!?」
背中から歯ぎしりと、鼻で笑う声がした。
「こいつら…お前さんには興味ゼロみたいだ」




