05.最後の晩餐
クリスマスの前日、ほぼ一日中眠っていた。…と言っては脚色がある。
やっぱりうまく寝られずに目が覚めてしまったあと、無理矢理もう一度寝ようとしたが、さすがにうまくいかなかった。
しょうがないから、伯爵と寝ている時間がかぶらないように計算して、いつもの通り本を読んで時間を潰した。
そして、クリスマスイブの夜。ルシフェル伯爵が恐る時間が始まった。
九時にボーンボーンと振り子時計が鳴ると、それを合図に私の部屋に次々と召使い達がやってきた。
これから始まる、私が人間と遊べる最後の日。いろいろあったわね、と心の中で微笑する。
「ロザリー。覚えてる?初めてあなたと会った日」
「もちろんです」
ロザリーが一瞬人目を気にして、私の耳に顔を寄せた。
「マリオンばあさんに初めて怒られた日、ってことも覚えていますか?」
「ふふっ。もちろんよ」
あの日…五歳の私は、急に親から引き剥がされたばかりで、ずっとぼんやりしていた。
そんな時に、ぶかぶかのメイド服を着て、私の部屋を覗いたのがロザリーだった。クリクリの目を私に向けている姿…未だによく覚えているわ。
もちろん、ドアから身を乗り出しすぎて、ずっこけてしまった姿もね。
それだけでも一人でお皿洗いの罰なのに、そのあとにマリオンに紹介してもらう時に、大きなメイド服でまた転げて、せっかくのかわいい家具を倒してしまい、二日連続お皿洗いの罰になってしまったのだ。
「あの時、かばってくれてありがとうございました」
「あら。かばってなんかいないわよ?」
私がとぼけると、彼女も横でクスクスと笑いだした。
あの時、マリオンのお怒りを避けることはできなかったけど、私はロザリーの手伝いをすると言い張り、慣れない手つきで台所に立ったのだ。
「ロザリーとも…多分、今日で最後なのよね…」
「え?なんとおっしゃったのですか…?」
聞こえなくてよかったわね。
「なんでもないわよ、ロザリー」
私はふっと笑って見せた。
さあ、最後の私の晩餐よ。大いに楽しまなくちゃ。
野菜だらけの晩餐なのに、全部、笑顔で平らげた。さすが、シェフが腕をかけて作ったコースなだけある。
食後のポーカーでは…ああ、話したくない。
一番最初に持っているチップが消えたのは私なのよ!あーあ…
そして、大勝利したロザリーが、ニヤニヤしながら私のふてくされている顔を覗きにきたの。
…私の勝負事の弱さは、天下一品だと思うわ。
日にちが変わって数時間後。そっと淡い光が、私達を照らした。
クリスマスだけなの。朝日を浴びることができるのは。
「では、オディール様」
「ええ…」
私の心臓がキュッと引き締められた。肩も、腕も震え、いつも通りに落ち着いてられない。
「オディール様。ロザリー。これからの説明を一言一句、すべて覚えてください」
マリオンが、小さな紙を取り出した。
「もし、普通に玄関から出たら、庭にいるカラスに大声で鳴かれてしまい、伯爵様が起きてしまいます。帰りも同じく、です。
つまり、ここから出る方法は、たった一つ。
食料庫の床下にある隠し通路を通る方法です。
そこは、街にとても近く、森の中の井戸につながっています。」
横をそっと覗くと、ロザリーは平然と聞いている。意外と、何度か街に出たことがあるかもしれない。
心配なさそうだけど、心配な気もして…ロザリーの日頃からの行いが原因かしら?
「そして、必ず十二時には帰って来てください。
本日の街の催し物を調べましたが、最後の花火が終わってからゆっくり帰っても、十分間に合います。
しかし、ちゃんと時間はチェックしてくださいね」
最後のセリフをロザリーに向かって念を押すように言うと、彼女は小さな懐中時計をエプロンのポケットから取り出した。
「オディール様を、よろしくね」
「命に代えてでも!」
ロザリーが片手で敬礼をしながら、もう片方の手でマリオンの懐中時計を受け取り、ドキドキしながら懐中時計の蓋を開け、ニコッと笑う。
「大げさね。ロザリー」
「大げさではありません!必ず、オディール様を十二時にここに届けます!!」
彼女の声は、私の心配を一瞬にしてかき消した。
「素敵なクリスマスにしましょう、ロザリー!」
さあ、クリスマスが始まるわ!!




